第15話 武器商人として生きる理由


 戦乱の世にあるフランスを救う。そのためにはジャンヌが救国の乙女として名を轟かせた街、オルレアンへ行く必要があった。


「本当に行かれるのですか?」


 ジャックが心配そうな表情を浮かべながら、東条とジャンヌを見つめる。この時代、村の中にいても危険なのだ。より危険な外を旅するのだから、命を賭けることを覚悟しなければならない。親なら心配するのも当然だった。


「お父様、私はこの戦乱の世界を救いたいのです」

「止めても無駄なんだろうな……」

「すいません、お父様。娘のわがままをお許しください」


 ジャックはふぅと息を吐く。娘が頑固な性格をしていることは誰よりも理解していた彼は、説得が無駄だと知っていた。


「路銀はどうするんだ?」

「それなら考えがある」


 東条は盗賊たちから奪った馬を使い、荷馬車を用意していた。荷馬車の中には、大量の武器が積まれている。


「ドンレミ村は治安の悪い場所だが、ここからの旅路はより治安が悪い場所へと向かっていくことになる」


 治安の悪さは戦争の中心地であるオルレアンへと近づけば近づくほどに悪くなっていく。それは旅が危険になるということでもあるが、それ以上にビジネスのチャンスでもあった。


「俺はこの村から武器を買い集めた。盗賊襲撃で男の数が減り武器は余っているし、それに何より、過去の遺産があるから二束三文で手に入る」


 ドンレミ村の周辺では、約七十年前に貴族派と王党派の間で大きな戦争があった。その際に戦死した兵士の武器をドンレミ村の住人が火事場泥棒のように拾っていたのだ。そんな過去の遺産を東条は買い占めたのである。


「その二束三文の武器を、需要の高いオルレアンや、その周辺の町で売る。そうすれば路銀は十分に稼げるさ」


 もちろん東条にとって生きていくだけの金はさほど必要ではない。現代世界に帰って、高価な品物を現代に持ってくるだけで、路銀などいくらでも稼げるからだ。


 東条の本当の目的は商売人としてのノウハウを身に着け、この時代の大商人になることであった。権力を持つ商人となれば、ジャンヌを裏からサポートすることができるし、それに何より、歴史通り進めば、ジャンヌは救国の乙女となった後、フランク王が身代金を払えず処刑されてしまうことになる。その身代金を東条がフランス王の代わりに支払うつもりであった。そのためには身代金の支払いを願い出ることが可能な権力と、王ですら支払うことができなかった大金が必要だった。


「まさか祖父と同じ道を進むことになるとはな」


 雑貨商店の裏の顔、武器商人として生きた祖父は、何を理由にして、そんな道を進んだかは分からない。


 だが祖父の性格を鑑みるに、きっと誰かのために仕方なく選んだのだ。だから東条も決心する。きっとこれから武器商人として生きる中で人を大勢死なせることになる。だが可憐とジャンヌ、この二人を救うためなら、自分は死の商人として生きてやると。血塗られた道を後悔しないことを彼は決意した。

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