史上最高の修学旅行先

ちびまるフォイ

禁断の場所へ行けるなら

「今年の修学旅行先を配布するから

 みんな、行きたい場所を決まったら連絡しろよ」


「「「 はーーい 」」」


回してもらったプリントにはいくつかの修学旅行先が書かれている。


・京都

・北海道

・沖縄

・東京

・広島

・香川

・仙台

・鹿児島

・ハワイ

・グアム

・アメリカ

・韓国

・アフリカ

・ヨーロッパ

・宇宙ステーション



「後半のラインナップが豪華すぎる!!!」


チェックリストを何度も確認したが見間違えじゃなかった。


「宇宙ステーションって嘘だろ!? 冗談じゃないよな!?」


「うちの学校の修学旅行ってこんなに豪華だったっけ」


「制服が前バリしかないのも納得だな。こっちに金かけてるんだ」


憶測は飛び交いながらもそれぞれの行きたい場所を選んだ。

宇宙ステーションに希望を出した人はごくわずか。


俺はハワイにして希望を出した。

宇宙にはいってみたくもあるが、だぼだぼの宇宙服を着せられて

変わり映えしない宇宙を眺めるので開始数分で飽きそうだから。



修学旅行当日。


集合場所はどこの行き先を選んでもなぜか学校で待ち合わせだった。


「なにか注意事項とか話すのかな?」


教室で待っていると先生が普段着でやってきた。


「みんな、これから修学旅行に行くぞ。これを回してくれ」


バケツリレーのように回ってきたのは、

頭に取り付けるVRヘッドセット。まさか……。


「それぞれの行きたい場所を選択したら、

 ディスプレイに表示されるから修学旅行を楽しんでくれ」


「バーチャルかよ!!」


通りであんなにバラバラな行き先を選べるわけだ。

ヘッドセットを装着してスイッチを入れると、目の前には青い海が広がる。


音もまさにハワイそのものの音なので、本当に現地にいった気分になる。


「おお……でも、意外と悪くないな」


最初こそ文句をつけていたVR修学旅行もやってみると悪くはない。

むしろ、バーチャルなぶん自由行動の時間は長くとられてたりで充実している。


ハワイをさんざん遊びつくしてホテルにチェックインし部屋に入る。

VRなので体の疲れはないものの、無人のホテルでひとりぼっちは退屈だった。


「失敗したなぁ……友達と同じ行き先を選べばよかった」


同じ行き先を選んだ人はVR画面が同期されるので、

一緒に遊んだりホテルでトランプしたりもできる。


「そうだ。ほかのヘッドセットと交換しよう」


ヘッドセットをずらし、教室の様子をうかがう。

生徒はみんなVRの世界にひたりっぱなしで、先生は不在だった。


教卓には置きっぱなっしのVRヘッドセットが置いてある。


「先生、俺たちがVRに没頭してるから安心してるんだな」


教師用のヘッドセットをつけてみると、全旅行先が表示されていた。

これをつけていれば生徒の様子を把握することができる。


設定項目をいじって管理者権限のパスワードを把握する。


「ふむふむ……yukariLove1210、ね」


新婚の先生らしいパスワードだった。

友達を小声で呼んでパスワードを教えて回る。


全員に教えてしまうと正義感に毒された人が騒ぎ始めて失敗しかねない。


「おい、おい」


「……ん? なにしてるんだ、勝手に修学旅行から出たらダメじゃないか」


「それより、管理パスわかったんだ」


「マジかよ」


「みんなですべての旅行先に行ってみようぜ」


友達全員にパスを教えて、またヘッドセットをつける。

宇宙ステーションで待ち合わせしていると、ぞくぞくと友達がやってきた。


「っしゃーー! 修学旅行楽しもうぜ!!」


「「 おぉーー! 」」


「……あれ? 佐藤は?」


「いないな。管理パスは教えたのに」


「まあいいか」


みんなで修学旅行を自由に遊びまくった。

俺の予想通り、宇宙ステーションはすぐに飽きてしまったので

テレビもチャンネルを変えるように別の旅行先へと移動する。


「来たぜ! 東京ネズミーランド!!」


「VRだから待ち時間もゼロだ!」


ランドもシーも堪能した後は、京都でお茶をすすり、北海道で海産物を食い

アメリカで銃を撃ってみたり、韓国で海苔買ったり……。


「まったく、VR修学旅行は最高だぜ!!」


体力を使わないので日が暮れてもなお、管理者権限を悪用し尽くして

修学旅行先を移動しながら遊びつくした。




キーーンコーーンカーーンコーーン。




「みんな、修学旅行は終わりだ。ヘッドセットをはずせーー」


何事もなかったように先生が教室に戻って来た。

ヘッドセットを返却した後は、お互いのお土産話に興じていた。


「私、京都いってきたよ。すごくきれいだった」

「北海道はやっぱり雪が多かったよ」

「グアムって日本人がいっぱいいたの」


漏れ聞こえてくるクラスメートの話が聞こえるほど優越感を感じる。


「ま、俺は全部行ったけどね。俺以上にこの修学旅行を楽しんだ奴はいない!!」


断言できる。

すべての旅行先を回って遊びつくした人間はいない。


「……それはどうかな」


「佐藤! お前、どこに行ってたんだよ。

 せっかく管理者パス教えてやったのに来なかったじゃないか」


「教師用の管理者権限を使って、どうしても行きたい場所があったんだ」


「はっはっは。お前バカだなぁ。だったら、なおのこと一緒に来ればよかったのに。

 すべての旅行先へ飛んで遊びまくったんだぜ。

 俺たち以上に修学旅行を楽しめる方法なんてないじゃないか」


「いいや、どこよりも行くべき場所に行けていないよ」


「はぁ? 間違いなく全部回った。

 俺たち以上に充実した修学旅行だっていうんなら、

 お前はどこに行ってきたんだよ」


問いかけに佐藤は黄昏ながら答えた。



「それはね……女子部屋さ」




教室では悔しさに嗚咽を漏らす男子の声がこだました。

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