第23話 再会…そして…
「このコテージを組み立てるのも一苦労じゃったぞ?龍の姿にせよ。この姿にせよ。不便な事はあるからの」
「ありがとう。フェル」
コテージを三人で片付けながら、三人はこれからの事を話し合っていた。
「ルドルフ殿は、この平地に見覚えはあるかえ?」
「すいません…私は森の住人。平原の事はよくわからないです。」
「そうじゃったな。主は…まぁ論外じゃな。そもそもこの世界の住人ではない」
「です…ね」
ジャベルはがっくり肩を落とした。
「ともあれ、皆が無事に辿り着いたこの場所に、目印である魔法陣があったことは不幸中の幸い。まず、この魔法陣の調査から始めるとしよう」
ジャベルは、テキパキとその場の流れを進めていくフェルを見て思う。
(
―――それからしばらくして…。
「何か分かったか?」
「はい。まずこの魔法陣はまだ新しいです。俺達が通ってきた時間がどれくらい経っているのか分かりませんが、彼女の…
「ルドルフ、ティアナさんだけ…?」
「ああ。リアナの匂いはしない。どこかではぐれたのか…。別れたのか…。それとも…」
「殺された…か」
最後の言葉をルドルフは濁したが、それをフェルは、いとも簡単に口にしてしまう。
「…」
「っとすまない。お主らは信じておるのじゃったな。軽はずみであった」
「いえ…。可能性はゼロでは無い以上…覚悟はしているつもりでしたが…」
ジャベルの顔は曇っていた。そこへルドルフがやってきて、肩をポンと叩く。
「らしくないな。ジャベル。」
「ルドルフ…そうだな…相棒」
それを見ていたフェルは、ため息をついた。
「はぁ…お熱い友情というものか…で…結局、どうするのかえ?」
「俺の鼻に、任せてもらえないだろうか」
人間化しているとはいえ、獣人族の鼻は、通常の人間よりも数倍は効く。
「頼む…相棒。今は闇雲に平原を行くよりも、少しでも手掛かりがあればいい」
「了解。しっかりついて来いよ」
ルドルフは全神経を鼻に集中させ、匂いを探っていく。
「微かに森と丘が見える方向。そこへ向かっている…急ぐぞ!」
三人はルドルフを先頭に、平原を歩き始めた。
「しっかし…二足歩行は不便じゃの。」
フェルはそんな愚痴を零す。
「歩くのが面倒なら、いっそ妖精の方がよかったんじゃないか?」
「なるほど…それは迂闊であったな…」
「妖精って…ルドルフの世界では、それほど希少ではないのか?」
「ああ…俺の世界では、森には入れば必ずいる。交流していけば、仲間にもなってくれるぞ」
ジャベルはそれを聞いて驚く。
「それは凄い。持ち帰りた…ゴホン」
何かを言いかけて、咳払いして止めたジャベルを、二人は遠い眼で眺めていた。
「お主…そういえばそういう趣味もあったのぉ」
「人の頭ン中どこまで見てたんだ…フェル…」
「そうじゃな…お主の意中の
「わーーーーっ!」
ジャベルは顔を真っ赤にさせてフェルを止めさせた。
「どころでフェル殿は、ジャベルに召喚されている身。しかし…私にはそう思えないのですが…」
「ふむ。今は我が意志で、主にお使いしておる。悪いか?」
「ええーーー!?」
ジャベルは慌てて腕を見ると、本来あるはずの紋章が浮かんでいなかった。
(た…確かに…、じゃあなんで俺に?)
ジャベルはそう思った。
「我が意志で、そなたに遣える理由は…。お主は見てて飽きぬ。そして一番は、我が命を救ってくれた礼じゃ」
「ありがとう…フェル…おかげでこちらの世界に来ることもできた」
ジャベルが改めてフェルに深くお辞儀する。
「やめんか。わ…わしとて知識ある生物として、礼儀は心得ておるつもりじゃぞ」
フェルは少し顔を赤らめて言う。
(それでも…ありがとう…)
ジャベルは、何度も同じ事を言わないよう、心の中で呟いた。
―――しばらく歩くと、ルドルフとフェルが何かの気配をかんじたように身構えた。
「ルドルフ…お主も気が付いたか?」
「ええ…この匂いは…」
「どうかしたのか…二人とも」
ジャベルが問う。
「ここは…戦場じゃ。それもまだ終わって間もない生々しい現場じゃ」
「血と焦げた匂いが強くて、先へ進むのがキツイぜ」
ジャベルも行き先をよく見ると、無数の何かが確認できた。三人は警戒しつつ近くまで来ると、そこには、人型爬虫類系モンスターの遺体が多数、無残に転がってた。
「こいつぁ…ほぼ魔法で一撃って感じだな…間違いない」
「うむ。それも的確に弱点の属性を使用して…な」
そんな中、ジャベルはあちこち動き回っていた。
「お主、何をしておる…」
「生存者を…探している。」
「アホか!?ここまで綺麗に全滅しておるのに、生存者なんぞ…ん?」
すると、フェルが何かを感じ取った。
「あの遺体の山…少し不自然じゃと思わぬか?」
ジャベルはフェルが指差した方を見ると、遺体が複数、山になっているところが一つだけあった。近くまで来ると、表面が微かに動いているのが分かる。
「なぁルドルフ…。もし、生存者がいたとして、会話は可能か?」
ルドルフは言う
「安心しろ。もしここが俺達の世界なら、種族言語以外に、世界共通言語がある。そいつが使えれば…通じるはずだ」
「頼もしいな…」
三人は、遺体を少しずつ掻き分けていくと、そこにはトカゲ兵が1匹。怪我はしているが、息はあった。
(しっかりしろ!!今、手当てする!)
ルドルフが話しかける。ジャベルは、唯一覚えている低級回復魔法をかける。
(ぅ…ぅぅ…)
うっすらと目を開くトカゲ兵、しかし、ジャベルが視界に入ると、急に体が震え出した。
(ば…化け物…)
すると、ルドルフがすぐに話しかける。
(俺の言葉が分かるか?人狼一族の
(人狼が…何故…このばけ…ものと…共にして…いる…)
ジャベルには、二人が何を話しているのか分からなかった。しかし、傷が少し癒えてくるにつれて、先ほどまでの怯えが止まって来るのを感じ、ルドルフとの会話が、トカゲ兵を落ち着かせているのだろうと思った。
(すまない…助かった)
トカゲ兵の簡易的な手当ても終わり、何が起こったのかを聞かされた。相手は一人、強力な魔法を操り、次々に仲間を倒していったのだと言う。
(お前たちも、奴を追っているのか)
(たのむ…仲間の…仇を討ってくれ…)
トカゲ兵の会話は、ルドルフからジャベルに伝えられた。
「わかった…任せろ。」
ジャベルはその一言だけを、ルドルフを通じてトカゲ兵に伝えた。
(あなたも来ますか?)
ルドルフの最後の質問に、トカゲ兵は首を横に振った。
(俺はここで、皆を弔う…戦士としての務めだ)
(分かった…)
ジャベル達は、遅れを取り戻すべくその場所を離れた。
「いい…奴だったな…」
「…何を今更…ここにいる生き物全てが悪しき者ではない…」
しばらく進んだ先に森が見えてきた。
「あれは…我が故郷。アルフガンドの森ではないか…」
「ルドルフの!?じゃあ、やはりこの世界は君の…」
「ほう…しかし、面白い事もあるものじゃの」
フェルの言葉に、二人は足を止めた。
「まさか…そんな…」
森の入口に、こちらへ背を向ける形で人影が見えた。
「ティアナ…さん…」
衣服はボロボロだったが、それは間違いなくジャベルが作った物。だからこそ、ジャベルはその人物が、
「ジャベル…あれはもう
「しかし…」
なかなか踏み切れないジャベルにシビレを切らし、ルドルフが先行する。
「我に集いし大気の流れ。盟約に従いて敵を切り刻め!
ルドルフの放つ風の魔法。一瞬の突風と共に、
「滅せよ。空気の刃。」
すると、風はティアナの前で分断され、まるで何事も無かったかのように、無傷でその場に立っていた。
「くそ。魔法キャンセルか…な…なに!?」
ルドルフの目にはキャンセルされたように見えた魔法効果が、突如ルドルフを襲う。
「ぐはぁ!」
無数の切り傷をその身に受け、ルドルフはその場に膝をついて動けなくなる。
「大丈夫か!ルドルフ!」
慌ててジャベルが駆け寄り、低級回復をかける。
「あ…ああ。あれはただのキャンセルじゃない…気を付けろ…」
「わかった…」
ルドルフの怪我を、簡易的に治療したジャベルは、ゆっくりと身構える。その時だ、ルドルフがジャベルの足を掴む。
「まて…何か様子がおかしいぞ?」
「え?」
「彼女…目を開けていない…」
「…!?」
ジャベルがよく見ると、ティアナの顔、特に両目には、古傷のような痕が残っていて、目を開けてはいなかった。
「恐らく…ここに来てずっと戦っていたのだろう…スキを突かれて両目をやられたんだ…」
「ティアナ…さん…」
すると、微かだが彼女が何かを呟いている。
「どこ?…どこ?…私の…私の…」
ジャベルは胸が張り裂けそうになる。今にも声を出して叫びたくなる。しかし、その事はルドルフもフェルも感づいていて、ジャベルの口を押さえ、静止させる。
「主よ。あ奴は恐らく、周囲の殺気や魔法力に反応して、反撃行動を行っているやもしれぬ。迂闊に近づけば殺されるぞ。」
(し…しかし…)
口を塞がれて声が出せないジャベルは、自分にできる事を必死で考えた。そして…。
「はぁ…私に考えがあります。やらせてください。」
すると、ジャベルは自らに目隠しをする。
「いやいや。それで近づくとか無理だろ?」
呆れるルドルフをそよに、ジャベルはゆっくりと歩き出す。少しずつ、少しずつ。ティアナの横をゆっくりと回り込み、背後まで進んだ。
「あいつ…見えてないのにどうやって…?」
ルドルフが驚いていると、そばにいたフェルがにやりと笑う。
「儂じゃよ。あ奴の心に直接、進むべき位置を指示した」
「なるほど…しかし…」
「うむ。さすがにただ移動しただけでは、弱い殺気でも、すぐ攻撃を受けてしまう」
ジャベルがどうやって殺気を消して、背後まで行くことができたのか。二人は分からなかったが、ジャベルはどんどん背後からティアナに近づいていく。
―――そして次の瞬間…。
「やっと見つけたよ…ティアナさん。」
そう言ってジャベルは、ティアナを背後からそっと抱きしめた。
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