5――犯人の独白2


   5.犯人の独白2――叙述じょじゅつ――




 私は、であるの葬式に出席した。


 皆、勘違いしている。恫吉が犯人だと思い込んでいる。

 確かにはアブラハム・コンプレックスだった。息子を憎んでいた。

 だが……弾丸を撃ったのは、彼じゃない。

 私だ。


 恫吉の一人称は『』だ。ゆえに、


 恐真のことを『SIT部隊員の息子』や『悪しき息子』と表記はしたが、。恫吉というである。

 私と恫吉は、SITの同僚だった。同僚は息子のことで悩んでおり、立てこもり事件の日も、息子が実ヶ丘駅でフィギュアを購入することを愚痴っていた。


 それを聞いた私は、どうしても我慢ならなくなった。同僚がこんなにも悩んでいる、彼の息子は何て悪い奴なんだ! これでは仕事にも支障を来たすし、同じ職場仲間として放っておけない!


 私は同僚を救うべく、悩みの種であると決意した。


 だから拳銃を貸与された際、使

 書類上は、同僚の恫吉が銃弾を二発撃ったことになっているが、実際はのだ。


 私が彼の息子を制裁し、同僚がやったように記録を残す……なのだ。同僚の心を晴らすには、息子殺しのアブラハムに見立てるしかないのだから。

 恫吉はこのことに気付いていない。銃弾が発見されない限り、取り沙汰されることもなかろう。

 結果的に……その思惑は失敗したが。まさか車が横切るなんて――。


 焦った私は、次の手段を実行した。同僚が息子のことで愚痴っていたと前述したが、それをスマホに録音し、脅迫電話で再生したのだ。

 同僚の切なる想いを伝えたくて、つい脅迫電話をかけてしまった。


 しかし、それも裏目に出た。声紋が解析され、同僚の声だと特定された。

 さらには銃弾も見付かり、同僚が犯人視された。このまま捜査が進めば『拳銃のすり替え』も発覚するだろう……そうしたら私の犯行だとバレてしまう!

 それは嫌だ。それは困る……と思った矢先。

 同僚はなぜか自殺した。全ての罪をかぶったのだ。どういうことだ――?



「あははー、あなたテンパって空回りしすぎー」



「――っ!?」


 葬列の隣に、一人の女性が並んだ。喪服が似合わないズボラな干物女だ。


「あたしは科捜研の心理係に勤める、忠岡って言いまーす。別にだなんてバラす気はないから安心してー」

「お、お前は見抜いていたのか……あの日、雑居ビルへの犯行だったことを……」


「当然よー。職場仲間の怯間くんが傷付いたら困るんでー、元凶の父親だけ排除したわー」


「お前は……全て判った上で、一連の事件をコントロールしていたのか?」

「表向きは恫吉さんの自殺で終息ー。怯間くんは父との確執を晴らしたー。あなたも罪を免れたー。まー及第点の結果でしょー? じゃーね、バイバーイ」

「…………!」


 葬列が進み、干物女は手早く焼香を済ませ、私に見向きもせず立ち去った。

 私は自分の焼香も忘れて、呆然とその場に立ち尽くした。



(あの心理係は……腹黒い!)




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