満月

夏艸 春賀

第1話

真ん丸い月を見上げて私は吠えた。

すると私の体はたちまち人の姿へ変えられ、手も足も獣のそれとは違って器用に動かせる事が出来るようになった。

胸元にある二つの膨らみは重いけれど、これは女の人の形、動けない程では無い。


木の幹に吊るされていた女の人の身ぐるみを剥いで身に付けてみると、私は人になれた気がした。

少々鼻に突く匂いを川で何度か洗い流し、月の明るい内に人工的な灯りの元へ降り、その中を二本の足で歩いてみる。

何とも不思議な感覚。

擦れ違う人々は物珍しい目と、何処か汚い物を見る目を向けて来る。

近寄って来た私とは違う形をした人は言った。



「綺麗な銀髪だね」

「一緒に食事でもどう?」

「俺らイイトコ知ってんだ」



嗚呼、そうか。

この人達は男と言う人種か。

獣の頃の毛色を残して銀色で、背中の真ん中辺りまである私の髪に触れながら、男達は私の手を取って歩き出す。

小さな箱の様な場所で、耳が痛くなる程の音の中に連れて来られた私は思わず耳を塞ぎたくなった。

──此処で食事が出来るの?

そう問い掛けると男達は私の体に触れながら言う。



「ああ、出来るよ」

「怖くないよ、足開いて楽にしてれば良いから」

「こっちのクチは無防備だね」



意味が分からないままソファと言う柔らかな椅子の上に寝転がされた。

だから言われた通りに足を開くと一人の男が足の真ん中の剥き出しの割れ目に触れた。

さっきから音が煩くて堪らなかったけれど、男達は楽しそうに次々と私に触れた。


折角身に付けた身ぐるみも剥がされてしまうし、胸元の膨らみを喜んで貪って揉みしだく男もいるし、割れ目を散々指でほじくった男は、生殖器に似た棒を出して私に突き刺すし、食事と言うよりも生殖行為に似ていて嫌気が差してしまった。


数人分の男の棒から吐き出された液体を私は飲まされ、中にもたくさん注ぎ込まれている内に私は気を失った。

夜が明けていた事も気づかない程の間、私は気を失っていた。



「な、んでこんなとこに犬が…」

「誰だよ、野良犬入れた奴!」

「つーかマジくせぇ!!」



──失礼な、私は狼だ。

けれど何で分かったのだろうかと私は手を見下ろした。

そこにあったのは何時もの見慣れた獣のそれだった。

あんなに煩かった音は無くなり、ぐったりとしていた私の周りには私を“食べた”男達がいた。


不意に沸く、空腹感。

そう言えば私は昨夜何も食べていない。

色々と口の中に入れられはしたけれど食べる物は与えて貰えなかった。

体を起こすと出て行こうとしていた男の一人の首元に噛み付いてやった。

私の自慢の牙が喉元を貫いたからか、男は一瞬で動かなくなった。

そのまま肉を喰らう。


──嗚呼、食事はこうでなくては。

その場にいた男達の臓物を全て食い散らかすと腹が満ちて、私は箱を飛び出した。

飛び出した瞬間に女の人の悲鳴が聞こえた。

それに振り向くと月よりも明るい太陽の下、赤黒い血を浴びた私は、住み処へと帰る前に物凄く大きい箱にぶつかり、吹っ飛ばされ、冷たい川の中へ落ちた。

体から力が抜けていく。

私の目には青空の中にぽっかり浮かんだ真っ白な月が見えた。




終わり

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満月 夏艸 春賀 @jps_cy729

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