リコール

竜野 奮迅

第1話 プロローグ

時は20XX年、かつて栄華を誇っていたサラリーマン達は社会人弱者となり、時間を切り売りし、少ない給料でライスワークを送っていた。

車の部品会社の営業をしている本作の主人公も少ない給料のために貴重な時間を費やしていた。たった数十万の給料のために、、、。


「あー、あちい、だりぃ。こんなことなら有給使えばよかった。朝の占いは聞くもんだな。」


みずがめ座の俺は今日の占いで最下位だった。こんなことならラッキーアイテムのゲーム機に向かって1日中ゲームしてた方がマシだ。なんてったって事故渋滞にハマり、アポイントに遅れるのは確実だからだ。

「こんな所で事故るなよ、ったく。まあウチのメーカーらしいし板金入れば儲けもんか。」

そんな不謹慎なことを考えながら着信が入った電話を見る。


「うわぁ、所長や。」


出たくない電話に出なければならないのが営業の嫌なところだ。


「もしもし。標です。」


「あー、標くん?今どこら辺?」


「今ですね、〇〇交差点の近くですね。事故渋滞ハマりまして。」


「まずいな。アポには間に合いそうかー?」


「先方には連絡はしてありますが、まあ確実に間に合わないですね。」


「そうか、俺からも電話しておくわ。とにかく気をつけて行ってくれ。」


「わかりました。失礼します。」

そう言って電話を閉じ、また気だるそうに前を見る。


「あーだりぃ。」

口癖が自然と口から零れた。

どうせ決まらない商談のために自分の命を捧げているのも面倒だが、今の現状を変える努力をするのも面倒だし、方法を探すのも面倒だ。つくづく自分がクソ人間だということに嫌気がさす。ただそれを変える努力もめんどくさいのだが。


ようやく交通規制を通り過ぎお客さんの整備工場にたどり着いた。アポの約束から30分オーバー。


「まあ、仕方ないか。」

俺が悪いわけじゃない。そう心の中で呟いて中に入っていく。


「遅くなりました!!!申し訳ありません。」


「おーう!お疲れさん!じゃあ今日の商談はなしな!ガハハ!」


「いやー勘弁してくださいよ社長。今回紹介する商品は、とても凄いですから。」


商品の説明、利益の取り方、どうせ買わないと思いながらも仕事だから仕方ない。1時間ほどで商談は終わり、いつも通りの決めゼリフ、ぜひご検討よろしくお願い致します。を決めて社長のもとをあとにした。


「どうせ買わねーんだろな。ああ、今日も残業か。」


今日もくだらない1日が終わることを嬉しく思いながらもまたくだらない1日が始まることを憂い営業所に戻っていった。


そのくだらない日が2度と来ないことなど知らずに。













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