第8話 ルカ、伯父と戦う

 俺はミリムやスミスと一緒にフェル――陛下へ謁見をした。

 それが滞りなく終わると、陛下からお声がかけられた。


「ルカ・スターチス。急ですまないが、君にとある人物と戦ってもらいたい」


 ……遂に来たか。


「ライアン・アキレア」

「はっ!」


 陛下に呼ばれ、奥から伯父さんが姿を現す。


「君には彼と戦ってもらいたい。拒否しても構わないが、戦わなければこの旅に出すことはできない」


 それは暗に、戦いは避けられないと言っているのだろう。

 まあ、陛下は戦えば旅に出ても良いと仰っているのだから、まだマシか。


「陛下はそう仰っているが、俺はルカが勝たないとお墨付きはやれないからな。もちろん手加減などしない」


 事前に聞いていた通り、俺は伯父さんに勝たねばならないようだ。

 手加減しないと宣言するあたり、母さんと血の繋がった兄妹という感じがする。


「わかりました」

「よし。では、場所を移そう」


 俺達は兵士に案内され、王宮の外れにある騎士団の訓練所へと移動した。

 その中には観覧席のある闘技場のような場所があった。

 実際、ここでは年に1度、国のお偉いさん方を観客として集めた試合が行われる。

 戦うのは王立騎士団の騎士達で、彼らに力を見せつけることで王族の権力を誇示していた。

 もっとも、俺が第一部隊にいた頃はここで試合をしたことはないけどな。

 そもそも当時の第一部隊のメンバーは騎士を育成する学校を出ていない者が多かった。

 つまり、他の部隊の騎士達に比べると独特な戦い方をする……というか、こういう観覧試合向きではない戦い方しかできない者達が多かったのだ。

 見た目に美しさもなければ派手さもないということで、第一部隊のメンバーがその試合に呼ばれることはなかった。

 実戦においては美しさも派手さも大して重要な意味は持たないのだが、お偉いさんの中にはそれがわからない奴らが多かったからな。

 目を引く奴が多い方が試合としても良かったんだろう。

 ま、もしかすると他の部隊の奴らが第一部隊に負けたくなくて、適当な理由をつけて試合に参加させないようにしていたのかもしれないがな。


「早速だが、双方試合の準備をしてもらいたい。大臣達がもうお待ちなのでな」


 観覧席を見ると、すでに何人かの人影が見えた。

 彼らはこちらを認めると、揃って礼をする。

 まあ、俺達にではなく、陛下に対してやっているのだろう。


「預かっていた武器は返そう。他に必要なものがあれば可能な限り用意するが」

「お心遣い感謝致します、陛下。しかし、私は武器だけで大丈夫です」

「そうか。では、頑張ってくれ」


 そう仰って、陛下は観覧席へと向かわれた。


「ルカ君、頑張ってね」

「ライアン隊長は強いぞ。負けたって文句は言わねーからな」

「ありがとう、二人とも。だが、負けるつもりは無いぞ」

「ははっ、そうかい。じゃ、俺達も観覧席で観てるからな」

「また後でね」


 ミリムやスミスとも別れ、俺は一人で持ち場に向かう。

 そこには、一人の兵士がいた。

 鎧のデザインからして近衛兵だと思うが、何故こんなところに?


「初めまして。ルカ・スターチス様でお間違えありませんか?」


 兵士の男は俺にそう尋ねてきた。

 兜の隙間から覗く金髪と青い瞳が、彼がエルフであることを示している。

 俺は一瞬、ドキッとした。

 父さんの話では、王宮内に呪いに関わっている人物が紛れ込んでいるかもしれないという。

 呪いがもし「森の解放」によるものなら、その構成員はエルフである可能性が高い。

 もしこの男が構成員だったら――。


「……あのー、もしかして違ってました?」

「えっ……いえ、間違いありません。私がルカです」

「ああ、良かった! 間違ってたら赤っ恥かいてましたよ」


 そう言うと、男は懐から一通の手紙を取り出した。

 封に押されている印を見ると、王族の紋章だった。


「オリバー殿下からです」

「殿下からですか? 内容は?」

「伺ってないです」


 それもそうか。わざわざ蝋で封をしているあたり、他人には読まれたくないものなのだろうしな。

 俺は封を開け、中の手紙を読んだ。


『ルカ殿へ

 ライアン殿はハルシャ殿のイタズラ魔術に弱いらしい。

 参考になるかわからないが、念の為伝えておく。

 オリバーより』


 どうやら、殿下からのアドバイスのようだ。

 参考になるかわからないと書かれているが、充分有難い。


「どうもありがとうございます。殿下にも感謝していたと伝えてください」

「わかりました」


 俺は兵士にそう伝える。

 だが、兵士はその場から動こうとしなかった。


「あの、まだ何か?」

「あっ、いいえ。ただ、小さいのによくやるなぁって思いまして」


 まあ、当然の感想だな。

 これから戦うのは、10歳の子供が戦うような相手では無いし。


「でも、殿下にも陛下にも信頼を置かれているみたいだし、小さいけど凄いんでしょうね」

「陛下にもって、貴方は陛下付きでもあるのですか?」

「たまに陛下の身辺警護もしますけど、俺は殿下付きですよ」

「では、何故私が陛下から信頼を置かれていると知っているのですか?」

「ああ、それは殿下から聞いたんですよ。陛下がそう仰っていたと」


 ……そうか。

 ちゃんと信頼を置かれていたんだな。


「ありがとうございます」

「え、俺、何か感謝されるようなこと言いました?」

「いえ、こちらの話ですよ」

「はあ。じゃあ、頑張ってくださいね」


 兵士はそう言うと、俺の手を握った。

 彼の金色の巻き毛が兜からチラリと覗く。


「それじゃ、俺は行きますね」

「はい。届けてくださりありがとうございました」


 その兵士と別れた直後、会場からお呼びがかかる。


「ルカ・スターチス、会場へ!」


 いよいよ、伯父さんと戦う時が来た。

 不安もあるが、同時にワクワクもしてきている。

 今の第一部隊の実力を知る良い機会だ。

 どうせなら、楽しんで戦ってやる。


「久しぶりだな、ルカ」

「はい。お久しぶりです、伯父さん」


 伯父さんと向かい合う。


「殿下から聞いているかもしれないが、俺は手加減しないぞ」

「わかっています」

「良い返事だ。それじゃ、いくぞ!」


 そして、俺と伯父さんの戦いが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元悪徳貴族は今度こそ幸せに生きたい 真兎颯也 @souya_mato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ