第19話 オフ会

「凄い! アイちゃん、本当に男の子なの?」

「さ、さが……ラサ、ち、近い」


 俺の顎に人差し指を乗せて上からのぞき込む相楽さんへドキリとしてしまう。

 仕事に一生懸命な姿の相楽さんしか見たことが無いから、ものすごい新鮮だ……顔をマジマジとみられるとバレないかとても心配になってくる。

 

「あ、あの……そんなに見られると『恥ずかしい』です」

「え、可愛い! アイちゃん、RPロールプレイだと思っていたけど、普段からそんななの?」

「あ、いや、あの……」


 だあああ、何とかして顔から目を離してもらおうと言った言葉が裏目に出たよお。俺は涙目になってキノへ目線を送るが、彼女は俺のメイクの出来を褒められたと思っているのか、腕を組んで「ウンウン」と頷いている。

 じゃ、じゃあ、由宇は? 両手を胸の前で握りしめて、キラキラした目で俺を見つめているではないか……だ、ダメだ。この二人。


「……アイさん、可愛らしいです……」

「も、もうなんとでも言ってくれ……」


 どうにも切羽つまった俺は、由宇の後ろに隠れて前を覗き込むことにしたのだ。相楽さんからは距離をとらねば、とらねば……


「やっぱりゲームのまま、現実世界リアルでも同じようなアイちゃんだったのね!」

「後ろから覗き込むのが可愛いわねー、アイちゃん。あはは」


 相良さんは感激したように、キノは面白がって腹を抱え口々に発言する。

 その時、店員さんがやってきて、飲み物を何にするか聞かれると、

 

「生ください」

「私はレモンのチューハイで」

「じゃ、じゃあ、俺も生で……」

「……わ、私もアイさんとおな……」


 相良さん、キノ、俺に続いて由宇が生ビールを頼もうとしたので、俺は慌てて言葉を被せる。

 

「ユウはオレンジジュースかコーラにしといたら?」

「……アイさんがそう言うならそれで……」

「じゃ、じゃあオレンジジュースで」


 ふう、ダメだ。由宇にアルコールを飲ませたらダメなのだ。ただでさえ大混乱な状況で由宇までとんでもないことになったら……想像するとゾッとした。


「アイちゃん、由宇は飲まないの?」

「キノ……飲むとだな……」


 俺は由宇に聞こえないよう、キノの耳元で囁く。すると彼女は納得したように頷きを返したんだけど、ボソッと「おもしろそうね」とか言っていた。

 頼むから余計なことをしないでくれよお。


『ヒュウからメッセージが届いています』


 ん、何だろう。さっそくタップしてメッセージを開いてみると……

 

『入口で止められてるっす。誰か前まで来て欲しいっす!』


 どうしたんだろう? 不思議に思った俺はみんなにスマホの画面を見せると、相楽さんはすぐに察しがついたようだ。

 

「たぶん、ヒュウは未成年ね。私が行ってくるね」

 

 この中で一番年上である相楽さんがヒュウを迎えに行ってくれることになった。

 相楽さんが連れてきたのはヒュウなんだろうけど、予想外だ……ヒュウは十八くらいに見えるショートカットの髪の毛をピンク色に染めた女の子だった。

 他のみんなも女の子だったし、そのことにはもう驚かなかったんだ。し、しかし、服装がすさまじい。

 左目には眼帯……服装は黒と白のモノトーンで、白のボタンダウンのフリルがついたブラウスに膝上あたりの丈のレースのついたスカート……うん、なかなかこじらせてらっしゃる感じだな……

 ヒュウは由宇より若干高いくらいの背丈で、彼女と同じぺったんこ。顔は黒のアイシャドウが、メイクの色合いもこじらせているけど大きな目をしていて、鼻筋もとおり美少女と言っても過言ではない。

 なんか……全員見た目レベルが非常に高いんだけど。驚きだよ。 


「初めましてて、ボクはヒュウ」


 ペコリとお辞儀をしたヒュウだったが、なんか話し方に癖があるなあ。

 

「連れて来てくれて、ありがとうございます。さ……ラサ」

「ううん、さあ、飲みましょ」


 ま、ヒュウより女装している俺の方が……ああああ、そうだったあ。女装してたんだったあ。もう少しで忘れて、普通に「ラサ」じゃなくて「相良さん」って言いそうになったぞ。

 気を付けないと。俺の幸せ会社ライフが……。

 

 ヒュウはコーラを頼んで、いざ乾杯だー。

 みんなで乾杯すると、注文していた料理も届き始め各々で取り分ける。

 

「……みなさん、女性の方だったんですね……少し驚きました……」

「ヒュウはそうじゃないかなあと思ったりしていたんだけど、キノとユウは意外だった」

「私だって、ラサが大人の女性だなんて思ってもみなかった」


 三人が和気あいあいと「まさか女性だったとは」話で盛り上がっていた。

 じゃあ、俺はヒュウと少し話をしようかなあ。

 

「ヒュウもそうだけど、みんな女の子で驚いたよ」

「ボクも。でも想像していた通り、アイさん、可愛いい」

「メイクのおかげだって……」

「そんなことないわよお。アイちゃんは元から可愛いのよ」


 ぬああ、キノが割り込んできやがった。それはいい、いいんだけど、俺の首に腕を回さないでくれえ。

 

「キ、キノ、あた、あたってえ、あああう」

「……アイさん、照れてるんですか……その姿もまた……よいです……」


 違う、違うって由宇。そんなんじゃあない。お、押し付けないでええ。むにゅんむにゅん。

 むにゅんー。あー、何考えているのか分からなくなってくる。

 あと、女装してから由宇の言葉がなんだが積極的なんだけど……

 

「アイちゃん、頭を撫でていいかな?」

「あ、はい……」


 カツラがズレないか心配しながらも、俺は相楽さんに撫でられるままになっていた。

 しかし、目線を感じる……

 

「……わ、私も……」


 由宇がおずおずと手を差し出してきたので、俺は彼女へ頭を向ける。彼女に撫でられた後、続いてヒュウにまで撫でられてしまった。

 で、でも、撫でられるのって結構心地いいんだよな……

 

 ◆◆◆

 

「さ、さが……ラサ、ちゃんとボタンをつけてくだ、さい……一応、俺、男なんで……」

「暑くなってきちゃったから。見えないから大丈夫よ?」

「しゃ、しゃがまないでください……俺の前で……み、見えええ、うおう」

「アイちゃん、照れちゃって可愛いー。アイちゃんもブラジャーつけてるんでしょ?」

「あ、はい……」


 あああああ、そうだよ、つけておりますよ。

 し、しかし、相楽さん……案外大きいのね……谷間、谷間がI字、ああいうあ、ぼくアイちゃん。

 なんだか思考力がもう……

 

「あのボスは……なのよよ」

「なるほどねえ。ヒュウは研究熱心ね」

「キノが引っ張ってくれるおかげげ」


 キノとヒュウはゲームのお話で盛り上がっている。二人の会話を聞きつけた他のみんなもすぐにローズの話で盛り上がり始めた。

 なんのかんので、五年ちかく同じパーティで遊んでいた同士だから、ローズの話になると会話が途切れない。

 人付き合いが苦手な由宇も気兼ねなく話ができているようで俺も一安心だ。

 

 俺は笑顔の由宇を横目でチラリと見ると、つい口元がにやけてしまった。

 

「あらあら、お熱いわねえ。アイちゃん」

「そ、そんなんじゃないって、キノ。ユウがあんな楽しそうにしてたらさ」

「そうね、『ローズ』のみんなはあの娘にとっても、躊躇せず話ができる特別な存在なんでしょうね」

「だな」

「ところで、アイちゃん、いつもの口調はー? 『俺』って言うのはアイちゃんに似合わないわよー」


 ワザとらしくキノがそんなことをのたまった。それに対し、みんなの目線が俺に集中しちゃったじゃないかよお。

 

「……き、聞きたいです……」


 由宇が目を輝かせて俺をじっと見つめて来る。ヒュウも相楽さんも同じ感じだよ……キノだけはニヤニヤしてるけどおお。

 

「いや、それはさすがに恥ずかしいって」


 俺は頬を膨らませて顔を伏せるのだった。

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