第23話 狗奴(くな)國のククチヒコ

 パムはひょうたんを担いで戦いの場へと走って行った。


 一歩近づくたびに、オロチの大きさに圧倒される。まだ遠くにいるはずなのに、もうすぐにでもパムのいる場所へと、あの大きな口が飛んでくるように見えた。

 真っ赤に燃える火のような舌を、口のあたりに閃かせながら、オロチの巨大な首が出雲兵の中へと突っこむ。大きな口で何人もの兵が一気に喰われると、さすがに意気込んで駆け寄った兵たちもあっという間に出雲の城壁の方へと逃げはじめてしまう。

 逃げまどう兵士の流れに逆らって、パムはオロチの方へと向かった。

 オロチの近くにソシモリとスサノオが剣を振るっている姿が見えるのだ。二人のところに、量は少ないが、この酒を届けなければ。

 

 ふとおかしなことにきがついた。目の前に巨大なオロチが迫ってくるというのに、今のパムには不思議と恐怖感がないのである。

 ひと月、ふた月前には金海の海辺で漁師の子どもとして暮らし、父親の暴力に耐えることだけが日課だった少年が今は戦いの只中にいる。なのに、この異常な状態の中、恐怖感を感じていなかった。

 今のこの状況は異常な状態に違いない。

 恐ろしく、不安と恐怖だらけの世界に今はいる。

 しかし、あの暗かった金海の時代とは比べものにならぬほど生きていることにわくわくしている。

 ワクワクしている? 

 パムは自分の気持ちを眺めた。酒を抱えて走る自分を、今は楽しんでいる。


 パムは兵の波をかきわけてオロチを見上げる位置まで来た。


 そこでは笛の音がはっきりと聞こえてくる。

 パムが顔を上に向ける。オロチの背中には、草が茫々と生え、その間から天に向けて大きな杉の木が生えていた。その木の間に腰かけて、誰かが笛を吹いている。


「みなさん、ご機嫌はいかが」


 笛を吹く手を休めた、オロチの上の人間がそう言った。


「誰じゃあ、ありゃあ」


 ジリの言葉に出雲の兵が


「ククチヒコだよ」


と言いながら、苦虫をかみつぶしたような顔をした。


 あれがククチヒコか。

 

 はるかオロチの上だから姿はよく見えなかった。気持ちの悪い笛の音が「ピーッッッ」と鳴り響くと、首や手のない死体兵たちが突然、俊敏に動き出す。

 木偶でくのようなカクカクとしたおかしな動きで襲いかかる死体兵。ソシモリは剣の柄に唾を吹きかけ握りなおすと、見る間に死体兵団を斬り刻んだ。鵺はひーんと一声啼き、あまりの恐怖から滅茶苦茶に足踏みをしてその物の怪の兵どもをふみつぶしていく。

 また笛の音が「ピーヒョロヒョロ」と鳴る。音とともに、動き出したのは猩々だった。真っ赤な衣で小さな体の猩々が、木々の間を埋めるようにカサカサと葉を踏みつぶし、森を埋める。棍棒で出雲の兵を殴り、赤い息を吐木かける。赤い息の恐ろしさは皆すでに知っているから、たちまち恐ろしさのために出雲兵は散り散りになっていく。


「逃げるな! 進め、すすめー!」


 ハハカラが檄を飛ばしながら、猩々に向けて剣を振るっていた。

 パムが手にしたひょうたんをつなぐひもは、汗でじっとりとしていた。目の前でハハカラたちが戦っているが、思わず後ずさる。自分にできること。せめてこの酒をソシモリに届けよう。一人でうなずくが、とても最前線のソシモリのところまで無事に行けるとは思えなかった。


「ヒーン」


 向こうで恐怖で暴れている鵺を見つけた。なんとかして鵺に乗って、ソシモリの近くまで行けないだろうか? 


「鵺、ぬえ!」


 呼びかけると、鵺ではなく猩々どもがこちらを向いた。そしてこちらに気づいた奴らが一斉にこちらへと向かってくる。急いで木に登って逃げた。猩々が、足元でこちらを見上げてうなっている。木からずり落ちそうになりつつ、さらに鵺を呼んだ。しかし鵺は振り向かない。何語なら通じるのだろう? 駕洛語で呼んだり、和語で呼ぶが、鵺には届かなかった。もしかしたら、お酒につられるだろうか? と、頭にかぶった頭巾をとり、少しだけ、頭巾に垂らしてみる。貴重な酒であることはわかっていたが、少しだけ。ちょろっと湿らせて振ってみた。


「鵺!」


 と呼んだ。


 鵺は振り向いた。やはり酒の匂いには敏感なのだ。

 小さなひょうたんを振りまわしてみせて大声で語りかけてみた。


「いいか、今から僕をソシモリのところにつれていってくれるか? 連れてってっくれるなら、これを一つやるぞ」


 鵺は細い木々をメキメキと踏み倒してあっという間にこちらへとやってきた。パムの足下にたむろっていた猩々は、鵺が現れるとたちまち蜘蛛の子を散らしたように去っていく。

 近くまで来た鵺は、酒の匂いがどこからするのか鼻をヒクヒクさせてきた。酒の匂いが漂うように、ひょうたんを少し振ってから投げてやると、ひょうたんを口でパクリとくわえた。そのままあごを上げて、くいっとあおり、さらにもう一つほしい、と目で訴える。


「ちゃんとソシモリのところに連れていってくれたらな、あとでもう一つやろう」


 鵺はそれを聞くと、頭を下げ、パムが乗りやすいようにしてくれた。どうやらやっと話が通じたようである。パムは鵺の背に乗りあがる。


「よしよし、ソシモリのところへ行ってくれ」

「ヒーン」


 鵺はゆっくりと歩きだした。

 一度離れていった猩々どもが、棍棒を振り回して鵺に向かってふたたび攻めてくる。しかし鵺はそんなものを気にもとめず、木々も猩々も踏みつけながら歩くから、しだいに猩々は攻めてくるのを諦め、遠巻きに様子を伺うようになった。

 死体兵だけはこりもせず、のそのそと現れ、鵺の足元にまとわりつく。鵺は鬱陶しそうに手で追い払っては、また四つ足でオロチへと向かっていった。




 斐川の河原で、八つの首を河原いっぱいに広げたオロチが暴れている。さっき倒したばかりのオロチとは比較にならないほど大きく、胴体は本当に山のよう。苔生こけむした胴からは杉の木が生え、八つの首が縦横無尽に動きまわるたびに、青々とした葉がゆさゆさと揺れる。それぞれの首で、二つのほおずきのように真っ赤な目がキラキラとひかる。左右に大きくパックリと裂けた口からは、炎を思わせる二枚舌がチラチラと動き、立ち向かう出雲の兵たちを嘲笑っているかのようにひらめいていた。


 パムは鵺を走らせた。

 鵺はオロチの大きな首を見たとたん「ヒーン」と啼いて嫌がったが、酒を少しずつ与えては気持ちを奮い立たせた。鵺もヤケクソである。


 しかし鵺の気持ちも嫌というほどよくわかる。


 見上げんばかりの大きな鎌首は、どんなに奮い立たせた気持ちも萎えさせてしまうほどの迫力だった。いかんせん巨大すぎた。

 しかし、その大きな首の下を見ると、そこにあの男たちはいた。


 ソシモリが飛びまわっていた。


 水を得た魚のようとはこのことだ。生き生きとして飛びまわっているのである。あの男には恐怖という言葉はないのだろうか。いや、敵が大きければ大きいほど、ワクワクする性分なのかもしれない。


 そしてその隣に、寝床から出た病人といった風態のスサノオが闘っていた。

 今の寝間着姿には不似合いな、大きな矛を構え、迫りくる首を斬りまくる。その勇猛なスサノオについてきた、恐れを知らぬ出雲兵たちがその周りで闘う。みな手に手に丹波から送られてきた武器を持ってオロチと闘っていた。


 パムは、大きく息を吸いこみ、それから深く息をついた。覚悟を決めると、鵺に「進め!」と号令を出した。「ヒーン」と相変わらず情けない声で返事をする。鵺は嫌がっていた。しかし、大好きなソシモリを見つけ、パムに促されると、渋々前へと進む。


 四つ足で進む鵺の上から、オロチの体をじっとみる。

 笛の音が次第にはっきりと聞こえ、猩々たちがその音の響きによって動いていることを感じた。

 たしかにオロチの上にククチヒコはいるはずだった。

 ククチヒコの幻術が笛によるものならば、笛の音がオロチに聞こえる場所でなければならないはずだった。自分の身も安全で、そして笛を安心して吹きつづけられるところ、それは鵺の上しかない。オロチがどこへ行こうと、戦いの流れでどう進むもうと、オロチの上ならいつでも笛を吹き、オロチに聞かせることができる。


 杉の木の上に、微かな人影を見た。


 小さなその影は、木の枝に腰を下ろし、木の揺れるままに身をまかせ笛を吹いていた。

 パムは笛の音を聞くと、ぞくっと背筋に寒気が走った。

 この嫌な感覚は、どこかで味わったことがある。どこだっただろう?


 パムは首を横に振った。今はそれどころじゃないんだ。


 大きな首は八つ、首を天へと伸ばしたり、地上へと下ろしたり右へ左へと自由に動きまわり、下で戦う男たちは、ヘトヘトになっていた。少しは切ることができるようだが、あまりに大きい首には大した傷ではないらしい。

 パムは鵺を進めながら、背中に背負ったひょうたんを一つずつおろし、土蜘蛛の四人を探した。ハハカラが河川敷で石に足を取られながら、剣を振るっている。


「ハハカラさん!」


 パムがひょうたんの一つをハハカラに投げる。ハハカラがオロチの口が開いたところへと放りこむと、オロチはバリバリとひょうたんを嚙みつぶし、そして次第に目がとろんと半開きになり、そして眠ってしまった。ハハカラと、周りにいた兵たちでその首に剣を刺す。小山ほどある首だったが、寝てしまった首はやはり剣がサクサク通る。ゴロン。と首を斬り落とすと、歓声が上がった。


「向こうにジリがいる! 酒を分けてくれ!」


 パムは鵺を走らせて、河を曲がったところへ進むとジリが闘っていた。


「ジリさん! お酒!」


 ジリは、疲れて足がもつれて座りこんだところだったが、酒と聞いて飛び跳ねて立ち上がった。

「よお、パム! わしはその酒を一千年待っとったぞー!」


 パムはよからぬ予感がしてジリに渡すのを躊躇した。

 どう見ても、あの顔は酒を自分で飲む気満々である。


 鵺も酒の匂いにこちらを気にしながら走っている。鵺がよそ見をしていたところへ、オロチが大きな口を開いて鵺ごとかぶりつこうとこちらへ迫ってきた。パムが、「鵺! 逃げて!」と叫んだのだが、時はすでに遅かった。


 あっと思う間もなく、オロチは鵺をパクリと食べてしまったのである。


「また喰われた!」


 パムは必死で手にしたひょうたんの口の栓をとり、トクトクトクと口の中に酒を流した。

 鵺とパムは、酒ごとごくりと飲みこまれてしまった。暗く、酒臭く、さらに生臭い喉を、ぐるぐるとうねる粘膜によって後ろへ後ろへと流されていく。さっきと違って剣を持っていないから、ここから出るすべがない。このまま胃にたどり着いてしまったら、消化されて溶かされてしまう。昔、じいちゃんが捕まえたイノシシの内臓に入っていたモグラの溶けたのが脳裏に蘇る。ドロンとして膜が張っていた。僕もああなってしまうのか。

 足元に透明な液体が流れてくると、鵺が叫んだ。


「痛い! 焼ける、足が焼ける!」


 パムも足にやけどをおったような痛みを感じた。体が溶かされていく。


 オロチの首が悶えるたびに、あっちへ転がりこっちへ転がり。パムと鵺はなすがままになっていたが、次第に首はおとなしくなり、そのうちに動かなくなってしまった。しばらくすると、首の外で人たちが騒ぐ声がくぐもって聞こえてきた。


「パーム! 今助けっからよ!」

「ジリさん! タスケテ! 早ク! 僕溶けチャウ!」


 ザン! と首が斬られると、太陽の光が闇の中に一気になだれこんできた。

 パムと鵺が首から胃液とともに転がりでると、みなヤンヤヤンヤと大騒ぎになった。


「パム、よくやったのお、お前は弱虫かと思っていたが、よくやった!」

「ジリさん、まだ首はあと六つあるヨ、早くしないと、マタ元どおりに戻るヨ」


 パムが背中に背負ったひょうたんを指さすと、ヨダレを垂らしながら、ジリがひょうたんを受け取った。あ、と思った時には遅い。ジリは蓋を開けて「少しだけな」と言いながら大きなひょうたんをあおる。そのジリのひょうたんを抑えて、温厚なユタが、今まで見たことのない怖い表情で物申した。


「ジリ、この酒は我が神酒みきならず、和國なすささ神醸みし神酒みきなるぞ」

「何、祝詞のりとみたいなこと言ってんだ、ちょっとくらいいいだろう。戦いの景気づけじゃあ! 出雲衆もそういっとる」 


 近くにいた出雲兵は一斉に首を横に振った。


「お前だけやで、そんなこと言っとるんは。それはオロチを倒すための大事な酒や。はよその酒をよこさんかい!」


 キジも飛んできてそう言いながら、ジリからひょうたんを奪いとった。胃の内容物でドロドロのパムの背中からもひょうたんを外し、出雲兵を呼ぶと一つずつ渡す。渡すと同時に、みな一斉にオロチに向かって走りだした。パムがまだ呆然としている間にあちこちでひょうたんがオロチの口の中で噛み砕かれる音がした。

 そしてわーっと声が上がる。

 酒の酔いがまわり地面に倒れこんだオロチの首に出雲兵が乗り上がる。そしてあれよあれよというまに、ひとつひとつ剣で首を搔ききっていくのであった。


「パム、ほら、みんなでやりゃ早いもんでっしゃろ。こういうときはな、早よう仲間に助けてもらいなはれや」


 背後で倒れていくオロチを親指で指しながら、キジは最後に残ったひょうたんの一つを担いだ。

 一番大きなひょうたんである。

 そしてど真ん中の一番大きなオロチの首へと歩いていった。


 そこには多くの出雲兵とともに、ソシモリとスサノオが、オロチと対峙していた。

 ソシモリは巨大な首の前で、青銅の剣を構えていたが、すでに全身傷だらけで、大きく肩で息をしていた。

 スサノオも傷だらけである。ゼエゼエと息を吐きながら、片膝をつき、剣を杖にしてオロチを睨みつけている。

 疲れきっているはずなのに、二人の目はまだ闘志でギラギラしていた。


 キジは重たいひょうたんを持ちあげ、「酒だ! 酒を持ってきたぞ!」と声をかけた。


「これでオロチの野郎もよだれをダラダラ流して眠りこけるで! 待っとれや! ほら酒やで!」


と栓を抜いたひょうたんをオロチの口めがけて投げると、見事に……オロチはひょうたんを口で弾いてしまった。


「おーい! 最後の一個やのに何してくれてんねん!」


 弾かれたひょうたんは、酒を撒き散らしながら、なだらかな弧を描き、宙を舞った。パムがポカンと口を開けてひょうたんの軌跡を追うと、描かれた弧は途中で途切れた。大きな黒い羽を広げた烏が飛んできて、ひょうたんをつかんだのだ。

 いや、違う。

 よく見ると八咫烏に抱きかかえられたアカルがひょうたんをつかんでいるのだ。

 

 アカルは「何よ、これ!」と、手にしたベトベトで、臭いひょうたんを気持ち悪そうに眺めている。オロチの胃液がたっぷり付いているのだから、それは臭いだろう。顔をこれ以上ないくらいにしかめて、ひょうたんを精一杯顔から離している。


「何って、姫さん、そんな説明している暇はないで! 早く、そのひょうたんをオロチの口の中に放りこみ!」キジが叫ぶ。

「ええ? いやよ。ヘビなんて、だいっっっっ嫌い! 怖いし! 気持ち悪いし! だいたい何が何だかわかんない! 来いって言われてきてやったのに、何よこの状況!」

「後でゆっくり話しますから、それを一刻も早く放りこんでください!」ユタもイライラしながら叫ぶ。


「姫、状況はわかりませんが、とりあえず父上も下にいらっしゃいますし、オロチの口の中に放りこんだ方がよかろうかと存じます」


 アカルは八咫鴉に言われて、地上にいる父を見下ろした。父のスサノオが傷だらけで今にも倒れそうな姿で娘を見上げている。


「いやよ、そんなこと言うならあんたやりなさいよ、そんな怖いことできないもん」

「私が姫をつかんでいる方が、すぐに飛んで逃げられますし、安全だと思いますが、あの蛇の真下におろしますか?」


 アカルは眉間にしわを寄せてしばらく悶えていたが、


「わかったわよ。やりゃあいいんでしょ、やりゃあ! 早く行きなさいよ、八咫鴉!」


 アカルは顔をこれ以上ないくらいしかめたまま、八咫鴉を蛇のそばへと近づかせた。


 その時。である。


 オロチの頭上に陽炎が天幕のようにゆらめいたかと思うと、そこに大きな顔が現れた。


「あらー、みなさんおそろいね」

「きゃー!!」


 アカルが驚いて手にしたひょうたんを落とした。ひょうたんはソシモリの真上に落ちた。ソシモリがめんどくさそうに避けると、そのまま足で蹴飛ばす。ひょうたんはくるくるとよく回りながら、オロチを囲んで遠巻きに見ていた出雲兵の方へと飛んで行った。


「ああ! 飛んでっちゃったじゃない!」

 

 そう口を尖らしているアカルの目の前で、巨大な顔がニヤニヤと笑いながらアカルをみている。


「なに、この気持ち悪い人」

「あら生意気な子ね。まあ後でゆっくりとっちめてやるから、楽しみにしていてね。今日はそこの男に話があるのよ」


 巨大に揺らめく顔は、ニヤニヤと笑いながら、地上で剣にもたれかかっている加茂呂を見た。


「お久しぶりね、もうあなたとこうして話しをするのは何年ぶりかしら」


 甘ったるい声を向けられた加茂呂は剣にもたれかかったまま、立ち上がる。


「わしぁ、おぬしみたいな男女は知らん。誰じゃあ、おぬしは」

「あら、忘れたの? あたしよ、ククチヒコよ」


 やっぱりこいつがククチヒコか……。

 パムは、身の毛がよだつのを感じた。はるか宙で揺らめく陽炎かげろうをじっと見あげる。

 男の顔は青白く、目は裂けているかのように切れ長で、鼻は鎌の先のように尖っている。髪はこの辺りの男たちのように頭の左右で結ぶことはなく、ペットリと頭に貼りついたままになっていた。そして薄い血の気のない唇からは、似合わぬ甘ったるい声が出てくるのだ。

 この男を見ていると、頭の中に幻像がうごめくような気がした。この気持ちの悪い感覚。この気持ち悪さは、一体なんだろう。


 ククチヒコは甘ったるい声で、甘えるようにカムロに語りかけていた。


「ねえ、昔闘った仲じゃない。忘れたなんてひどいわ、ねえ……スサノオノミコト」




「スサノオノミコト」




 スサノオノミコト、スサノオノミコト……スサノオ!

 

 その言葉が発せられた時、パムの全身の毛が一気に逆立った。

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