第21話

 来る――。

 君太は、赤鬼の斬り込みをとっさに予測した。

 槍のように構えて突きかかってくるだけ。この赤鬼。刀を使うのは得手ではないらしい。

 ならば――。

 君太は、半身になって赤鬼の突きをやり過ごす。刀身が君太の脇をすり抜けると同時に、君太の目の前に、赤鬼の両腕が無防備にさらされる。

 赤鬼の顔に憔悴の色が浮かぶ。

 情けは無用。君太は一気に、刀を振り下ろした。


 コンクリートの床を棒で叩くような重い感触が腕に響いてくると、君太は覚悟した。腕がしびれるに違いないと。

 刀は、シュッと赤鬼の腕をすり抜けていた。

 まるで幻を斬ったかのように、手ごたえがまるでない。


 だが、間違いなく、赤鬼の腕を斬った。

「あああっ……!」

 絶望的な悲鳴が赤鬼の口から洩れる。

 同時に、鬼の腕の肘から先が、ぽろっと床に落ちた。両手で刀を握ったまま。

 こんなにあっさりと斬れるものなのか……!

 君太は、畏怖した。己が恐ろしいものを握りしめているということに。

 赤鬼の血が飛び散り、僕も血まみれになってしまう!

 血まみれになると、田沼伯父さんたちを殺害したのが僕だと言う証拠になってしまう!

 だが、赤鬼の腕から血は出なかった。

 腕の切り口が、溶けている……?

 氷にバーナーを突き付けたように、腕の切り口から肩に向かって、すさまじい勢いで、赤鬼の体が溶け、溶け出したものが煙になってモクモクと舞い上がっている。

 床に落ちた腕の方は、あっという間に煙と化し、刀だけが残った。

 赤鬼の全身もすでに煙に包まれて、見えなくなった。悲鳴も煙とともに消えた。

妖魔は刀で切られると、こんな風に消滅してしまうものなのだろうか?


 考えている暇はなかった。

 煙の向こうに、殺気を感じた。狐のお面が抜刀している。

 赤鬼とは違い、かなりの使い手だと、君太は直感した。

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