第9話

「鬼の一族ですね」

 佳恋は、なおも、ホットドックをもぐもぐと食べながら、のんきに答えた。

「鬼?」

 着物の襟や袖から覗く肌に、君太も納得した。三人はそれぞれ、赤、青、紫といった肌色をしている。人間がこんな肌色をしているはずがない。

 笠がわずかに上がり、顔が見えた。人間とは違う獰猛な目つき。それに裂けた口から覗く鋭い犬歯に、君太も鬼だと納得した。

 銀のひらめきが走った。

 三人の鬼が、腰の刀を抜刀するや、八相の構えを取ったのだ。

 みすぼらしい姿とは裏腹に、刃は、太陽の光を反射して、鈍く輝いている。いかにも切れそうな刃。素人目にも真剣とわかる。

 昼間の動物園のど真ん中。大衆がごった返すなかで、刀を構えている。

 この連中の姿が、周りの人たちに見えているならば、「刀を使ったテロだ!」と、たちどころに大騒ぎになっているはずだ。

 だが、周りの人々は、この三人の姿が見えていないようだった。

 刀を構えた鬼の鼻先を若いお母さん方の集団がベビーカーを押しながら、横切った。


 鬼は無言。即座に行動に移った。

 三人は、一斉に、君太たちの方に駆け寄ってくる!刀を上段に構えたまま!

「やばい!」

 君太はとっさに立ち上がった。武器は何もない。素手で、刀を受け止めるしかない!

 両手でパチン!と挟んで刃を受け止める様をイメージした。

 君太には剣道経験はおろか、そのほかの武道の経験もない。素人がいきなり、真剣白刃取りをやるなんて、無謀にもほどがある。

 だけど、君太は、なぜか、それができると思った。

 君太は、真ん中の青い鬼の斬り込みだけに集中した。

 左右の鬼の刃は、君太たちの体に届くことはない。脅威ではないという直感があった。




「ぐえっ!」

「うおっ!」

 悲鳴が二つ上がった。左右の赤鬼と紫鬼の口から洩れたのだ。

 二人の手の甲には、手裏剣のようなものがざっくりと食い込み、刃が手の平まで抜けていた。

 君太は驚かない。そうなると予測していたのだ。

 パチン!

 君太が両手を合わせた瞬間、青鬼の刃は、君太の手の中でぴったりと止まっていた。同時に、足を蹴り上げる。

「うぐっ……」

 青鬼の股間に、もろに蹴りが決まっていた。

 弱点は人間の男も鬼も同じらしい。青鬼は、刀を手放すと、その場にへなっ……と、崩れてしまった。

 手裏剣には、何か毒でも塗ってあったのだろうか、赤鬼と紫鬼も、目をグルグルとまわして、あおむけにひっくり返っていた。

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