少女ははげしいまなざしで、拳を固く握りあゆむ。

死の商人となれ、鉄の心を持て。
主人公ユリアナにかけられる言葉は厳しく、いまの彼女が持たないものを容赦なく求める。愛するひとや彼女がおさめた優秀な成績とともに今まで歩んできたその足が、「これから」少女に歩ませる道の厳しさたるや。
美貌の軍人がかたわらにあろうと、優しい後見人がひそかに支えようと、ユリアナに突きつけられるのはいつも人はひとりであり、誰も信じてはいけないという冷徹な現実だ。16歳、女学院で学び「これから」の日々を信じて疑わなかった彼女に降りかかるのは俄かには信じがたい事実ばかり。
容赦なく少女を踏み躙るのは軍人の足などというなまぬるいもののみならず、優しい過去までがユリアナに牙を剥く。
ユリアナはなすすべもなく、彼女のあずかり知らぬ事情により蹂躙されるが、彼女の心は折れない。どころか、己を取り巻く現実を知ろうと努め、その足で立ち上がる。物語にありふれた構造? そう言われても構わない。それが16歳の少女であり、わたしたち女児の求めてやまない物語の主人公のすがただ。
彼女は立ち上がる。歩み出す。そのすがたをいま追いかけることの出来る喜び。地を掴み一歩一歩頼りない足取りで進むユリアナを想像するとき、いつもその瞳は強くはげしい光を湛えているのだ。

わたしは作者のファンだが、このようなバチバチのエンタメを書くかただとまったく思っていなかったために非常に驚かされた。とにかく面白い。各話ごとに盛り込まれるエピソードはそれぞれ粒立っていて更新のたびにワクワクする。さらに引きが強い。次が気になるのだ。
そして特筆すべきはサービス精神。だいたい美貌の軍人と優しい保護者(っぽいもの)に挟まれる絵面からして、個人的には読まない手はなく、読み始めれば腑抜けた顔で「どっちが好きかな〜?」と言いはじめる……のは正直もうわかりきっていた。(クラエスが好きですと書こうと思ったけれど最近バラドもアツいです)

ユリアナに、クラエスに、バラドに、あらゆる人物に隠された謎や思いに惹かれてやまない。キャラクタたちへのこの関心や胸ときめく数々のシチュエーションがてんこ盛りにされたサービスたっぷりの本作を楽しまないという選択肢がない。
しかしながら最もこの作品を好ましく思う点は、素敵なメンズに挟まれてなお、ユリアナが鉄の女を目指してひとり驀進するすがたである。打ちのめされ立ちあがり歩みだすそのとき、ユリアナの手はきっと固く拳となっている。その手はいずれ開かれるのか、なにを選ぶのか。
二人の男と一人の少女、という文句から想像する絵面と実相のギャップこそかく死の醍醐味だ。
つぎの更新が、完結が待ち遠しい。

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