第6話 地に縛られしもの (5)
前代未聞の宇宙除霊特番に対する視聴者からの反応は、VTVというテレビ局の性格から「VTVがまたくだらない事をやっている」という程度のあっさりしたものであり、特に大きな反響はなかった。ただ、舞台となった「しきしま」艦内の視聴率はそれなりに高く、そこそこ話題にもなった。
除霊の舞台となった空き家は、特番のあと二週間くらいは見物人が絶えなかったが、かといって大混雑というほどでもなく、その後はすぐに何事も無かったかのように人々から忘れ去られた。
「昨日のVTVの特番はご覧になられましたか副長」
谷本総務課長が木下副長に声をかけた。
「あぁ、見たよ。くだらなかったなぁ」
「そうですね、本当にくだらない番組でしたね。でも、いずれにせよ除霊はされた訳ですし、これで変な噂も自然に収まるでしょう」
すると、木下副長は怪訝な顔で谷本課長の顔を振り返った。
「除霊?されているわけないだろ、あんなので」
「いえいえ、副長もご覧になられたわけでしょう、あの中継を」
「あれで除去されたものがあるなら、除去されたのは地縛霊じゃなくて人々の思い込みだよ。この世に霊魂が存在しているかどうかとは別として、あんな除霊ができるわけがない」
「どういう事ですか副長」
すると、木下副長は実に悲しそうな目で谷本課長を眺めた。
「地球の人ならまだしも、この『しきしま』で暮らしてる人が、まして『しきしま』の乗務員が気付かないようじゃダメだろ」
谷本課長は何を言われているのかまだ全く理解できていない顔だ。
木下副長は静かに言った。
「いま我々がいるのは、まだ火星よりも先の宇宙空間でしょ。光速度通信使っても、地球との交信には往復で十五分弱かかる。
だから、あんなリアルタイムでテレビの中継ができるわけが無いんだよ」
「あ……」
「だから、あの中継は実は録画。決められた台本に沿ってしゃべった中継風の映像を『しきしま』艦内で先に撮っておいて、その映像を細切れにしてスタジオの会話とタイミングが合うよう裏で調整しながら流しているんだろ多分」
そう言われるや否や、谷本課長は今まで自分がいかに恥ずかしい言動をしていたのかを一瞬で悟り、絶句して耳まで真っ赤になった。
その様子を見てこれ以上は酷だと思ったのか、木下課長はパッと明るい笑顔に変わると、谷本課長の肩を叩いて言った。
「いやぁ、でも例の心霊スポットには番組のあとに野次馬も結構来てたみたいだし、意外とみんなあっさり信じちゃうもんだねえ。
まぁ、これで地縛霊騒ぎも収まってくれるんだとしたら、心霊うんぬんは私は別にどうでもいいんだけど、艦内の治安を維持しなきゃならん立場の我々としては、実にありがたいことだよ。
こりゃ、騒ぎを鎮めてくれた謝礼として、二階堂ヘンリー翠雲先生にはいくらか包まなきゃいかんなぁ。あ、でも極秘でやらないとまた当局が地縛霊の存在を認めたって大騒ぎになっちゃうか」
そう言って木下副長は再びカラカラと明るく笑った。
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