ロリータファッションには目がない

そんな、ちょっとした事で上がったり下がったりだったけど、それでもなんとか会話は続ける事ができた。

栞里ちゃんも『ガーターオタ話』の件は気にしてないみたいで、たま~にこちらを向いて笑顔を見せ、退屈はしてない様子。

やれやれ、、、

不安いっぱいのスタートだったけど、なんとかやっていけるかもしれない。

それにしても、、、 疲れる。

会話が途切れてお互い沈黙したりすると、『なんか話さなきゃいけない』って、焦ってくる。

神経がすり減ってしまいそうだ。

リアルで女の子と出かけるのが、こんなにシンドくて気を遣うものだとは。




 原宿駅で降りて竹下口を出れば、すぐに竹下通り。

一目その光景を見て、ぼくは足がすくんでしまった。


『ああ。異世界に転生したら、こんな感じなんだ、、、』


街行く若者はみなおしゃれで、ネルシャツをシャツインした男なんて、ひとりもいない。

中にはトンデモなく突飛な、切れたカッコしてる人もいたが、それも、原宿という異世界まちの雰囲気にはしっくりくる。

ここをいつものオタクファッションでうろつくのは、流行に疎いぼくでさえも、無理だ。


だけど、今日のぼくは違う。

ヨシキの的確なアドバイスで、栞里ちゃんにも『いいね』と言われたし、そんなにおしゃれなカッコではないとしても、竹下通りだってふつうに歩けるはず。


よし!

なんとかやれそうだ!


こんなぼくでもちょっぴり自信が出てきて、栞里ちゃんと店先に並んだ洋服を見るのも、だんだん楽しくなってきた。


「あっ。あれカワイイw」

『LIZ LISA』の店頭に飾られた服を指さして、栞里ちゃんは駆け寄った。

その様子がすっごく可愛い。

目をキラキラ輝かせ、フリルやレースのついた服を、嬉しそうに見つめる。

やっぱり女の子って、可愛い服を見るとテンションあがるんだな~。

出会ってからこっち、部屋の中でどんよりと暗~い栞里ちゃんの顔しか見た事なかったので、夏の日射しの様に明るい彼女の笑顔は、爽やかっていうか、、、

やっぱり魅力的で、心がなごむ。

そんな栞里ちゃんを見てると、ぼくも連られてウキウキした気持ちになってくるし、欲しがるものはみんな買ってあげたくなる。


彼女の好みは、女の子らしいデザインの明るい色の服。

フリルのついたピンクのスカートにカットソーや、夏っぽいキャミソールワンピ。

『今着てる服は汚れてるから、早く着替えたい』と栞里ちゃんが言うので、『LIZ LISA』で最初に気に入った服をすぐに買った。


「こんな感じだけど、似合ってる?」


試着室から出てきた栞里ちゃんは、自信なさげに訊いた。

ハイウエストで切り替えのある、ミニのフリルワンピース。

ピンク地にピクニックの模様がすごく似合ってて、可愛い!


「いいよ。すごくいい!」

「そ、そう?」


ぼくの言葉が、『信じられない』という風に、栞里ちゃんは頬をかすかに染める。

その姿がまた初々しくて可愛い。

女の子って、洋服ひとつで印象が変わるんだな。


結局、ヨシキの立てたプランはほとんど無視する事になったが、ぼくは流れに任せていった。

いっしょにお店に入って、栞里ちゃんが気に入った服を、速攻で買ってあげる。

さすがに下着売り場には入れなかったけど、お昼ごはん前には栞里ちゃんは可愛いワンピース姿に変身していて、ぼくの腕には色とりどりのショッパーがぶら下がってた。

異世界はらじゅくにも慣れてきたところで、思い切って、一度は行ってみたいと思っていた有名ロリータショップ、『BABY,THE STARS SHINE BRIGHT』に行ってみる。

『ロリータファッション』というのを、一躍世に知らしめた某映画にも出てくるこの老舗のロリータブランドは、自分的に萌える服があったので、ぼくの方から『寄ってみよう』と提案したものだった。


「お兄ちゃん。こんなフリフリした服が好きなの?」


ショーウインドゥに飾られた豪華な服を見て、栞里ちゃんはちょっと戸惑う様に訊いた。


「あ、ああ。栞里ちゃんに似合いそうだし、イラストの資料にもなるから、いいかなと思って」

「ふーん。でも、こんなカッコした女の子といっしょに、外、歩ける?」

「う、うん、、、 多分、大丈夫だと、、、」

「やっぱりオタクの人って、ファッション感覚もどこか変わってるのかな~」


そう言いながらも、『不思議の国のアリス』が着てるドレスみたいな可愛い服に、栞里ちゃんもまんざらでもないらしく、嬉しそうに店内を見て回っていた。

ぼくも、トルソーにかかった裾の広がったスカートの端を、ちょっとだけ触ってみる。

思ったより滑らかで手に馴染む様な、いかにも高そうな生地の感触。


…なんて気持ちいいんだ。


美咲麗奈ちゃんが着ているようなロリータ服は、自分的に憧れだったけど、店に入ったり触ったりする機会も勇気もあるはずがなく、遠くから眺めてるだけだった。

なので、こうやって店内を見て回れる今の状況に、栞里ちゃん以上に舞い上がって、まるで羽が生えた様に、気持ちもフワフワしてる。


「いらっしゃいませぇ~」


『どうせ買わないんでしょ』とでも言いたげな雰囲気をかもした、全身ロリータをまとったマヌカンが、面倒くさそうに寄ってきた。

なんだか緊張。

ぼくのドキドキはピークに達する。


「こっ、これなんてどう?」


昨日、麗奈ちゃんが着てたロリータ服みたいなのがあったので、思わずそれを手にとって、栞里ちゃんに見せる。

というより、『冷やかしじゃない』と店員にアピってる。

小心者の自分、、、orz


「かわいい♪」


栞里ちゃんはぼくの差し出した服に反応し、笑顔を見せた。

渡した服をからだに当てて鏡を覗き込む彼女は、まさに真夏のアリス。


「試着されますかぁ?」


間の抜けた感じで、店員が訊いてくる。栞里ちゃんはチラとぼくの方を見た。


「お、お願いします」


思わず、代わりに答えてしまう。

マヌカンはちょっと失笑したが、『こちらです』と、栞里ちゃんを試着室に案内した。


「え~っ。超かわいい~っ!」


試着室から出てきた栞里ちゃんを見たマヌカンの発した言葉は、まさに本物だった。

真っ白なロリータ服姿で現れた栞里ちゃんは、純白の妖精とでもいうか、、、

ぼくの貧弱なボキャブラリーでは表せないほど、可愛くて清楚で、可憐だった。

着慣れない豪華な衣装に戸惑う様に、栞里ちゃんはスカートの裾を気にして、恥ずかしそうにうつむく。そんな恥じらいが、またいいんだな~w


「パニエとかはくと、もっと裾が広がりますよ~。靴も似合うのありますよ♪」


浮かれた声で言いながら、マヌカンはいろんなアイテムを持ってくる。

ロリータ服は、まさに戦闘服だと実感。

アイテムをひとつ武装する度に、攻撃力(ロリータ度)が上がっていき、栞里ちゃんの戦闘力(魅力)も増していく。

結局、試着したロリータ服の他に、ボリュームたっぷりのパニエ、ヘッドドレス、チョーカー、いちご柄のバッグ、ニーハイソックス、厚底の靴と、装備一式買う事になった。

しめて101,960ゴールド。ちーん。


つづく

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