美少女とのことが思い出せない

「それで、オレの事はいいから本題に移ろうぜ。どうしてそんな女の子がおまえの部屋にいるんだ? どこで知り合ったんだ? どんな感じのなんだ? んで、ほんとにやったのか?」


興味津々という感じで、ヨシキは訊いてきた。それには答えず、ぼくはもうひとつ、質問した。


「ヨシキ。『責任とる』って、具体的になにをすればいいんだ?」

「責任? なんの責任だ?」

「だから、その…」

「エッチした責任か?」

「…あ、ああ、、、 多分…」

「そうだな~、、、」


ヨシキはしばらく考えてたが、突然 “ププッ”と笑い出した。


「ふつー、『責任取って』って言われたら、『つきあって』とか『結婚して』って意味だと思うけど、おまえがそんなセリフを中坊の女に言われるとか、、、 マジありえね~wwww」


ヨシキがゲラゲラ笑い出したおかげで、クルマが蛇行する。

なんだか気分が悪くなった。

クルマが揺れたからじゃない。

バカにされたからだ。

まあ、そういうのはいつもの事だし、こいつといると、いちいち劣等感を刺激されてしまう自分も、なんだか情けない。ぼくにはぼくのいい所があるんだと、信じたい、、、


「それで? あの後なにか思い出したか?」


気のすむまであざけり笑った後、ヨシキはハンドルを握り直しながら、今度はやけにまじめに訊いてきた。


「タクシーには、確かにおまえひとりで乗ったぞ。その後はどうだったんだ? 途中どこかに寄ったのか?」

「いや。まっすぐ帰ったと思うけど…」

「じゃあ、おまえのマンションに着いた後、どこかで会ったんじゃないのか? よく考えてみろ」

「あ、ああ…」

「おまえのマンションに着いてからはどうなんだ? 途中で乗せるとかは、あまりなさそうだし」


彼の言葉に従って、ぼくは必死に記憶を掘り起こしてみた。

タクシーがマンションの前に着いた事は、よく覚えていない。

『お客さん、着きましたよ』という運転手の声に起こされて、ぼくは寝ぼけながら財布を出してお金を払い、タクシーから降りて、ポーチをふらふら歩いて…


…そう言えば。


「マンションの… エントランスの陰に、だれかうずくまってた様な、、、 」

「それだよ。よく思い出してみろ。そこで話しかけたか、かけられたかしたんじゃないのか?」

「そうかも…」

「そしてなりゆきで、おまえの部屋に着いて来たんだろ」

「それは、ありえるかも…」


そうこうしてるうちに、もうぼくのワンルームマンションが見えてきた。

その途端、なんだか不安になってくる。

ほんとに彼女は、ひとりでおとなしく待ってるだろうか?

コミケの稼ぎをパクって、逃げたりしてないだろうか?

それとも、もしかして…

怖いお兄さんがいっしょに、待ち構えてたりとか、、、

思わずからだがすくんでしまう。


「ヨ、ヨシキ、悪いけどいっしょに部屋まで来てくれないか? おまえがいた方が、なにかと心強いかも…」

「ああ…」

そう言ってちょっと考え、ヨシキはかぶりを振った。


「…いや。やめとくよ」

「え? なんで? 今日はそのために、わざわざ送ってくれたんじゃないのか?」

「今の段階での事情はだいたいわかったし。あとはおまえが、次のステージに進んでからだな」

「次のステージ?」

「おまえだけで、その女の子と、ちゃんと向き合って、話ししろよ」

「でも…」

「その子、家出少女なんじゃないか?」

「家出少女?」

「ああ。泊まる所がなくて途方にくれて、マンションの陰に座り込んでいたところに、たまたまお前が帰ってきて、なんだかんだ話しして、おまえの部屋に転がり込んだんじゃないのか?」

「…そうかな?」

「それだったら、オレがいっしょに行くと、その子、絶対不安がるぞ。

密室で知らない男二人に囲まれるのは、オレ達が思ってる以上に、女の子にとっちゃ怖い事だからな」

「そっ、そうなのか?」

「多分な。だからオレは今日は遠慮しとくよ。とりあえず近くでヒマ潰してっから、なにか問題が起こったら、電話かメッセでもしろよ。オレも頃合いを見て連絡するから」

「ああ… サ、サンキュ」

「じゃな。頑張れよ!」


ヨシキがそう励ましてくれた時、クルマはぼくのマンションのエントランス前に、ピタリと着いた。

クルマから降りたぼくに、ヤツはニッと微笑んでVサインを送り、クルマを出して走り去る。


まったく… やっぱり憎たらしいヤツだ。

ふだんはチャランポランとした、いけすかないカメコで、ぼくのことも散々バカにするくせに、いざという時は真剣に考えてくれて、行動してくれる。

ヨシキのこういう優しさと気配りと、傲慢さとオレ様具合が、甘辛ミックスな感じで、腐れ縁が切れないのだ。

とりあえずぼくは、緊張で顔をこわばらせながら、『セカンドステージ』へと歩を進めた。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る