第五章 ホクラニの街

第16話 湿原のスライム


わたしたちは第五フィールドの東エリアを探索していた。……攻略ではなく、探索。わたしたちにとっては初めてのことだった。


というのも、わたしたちは今、攻略の最前線にいるので、フィールドの情報は自分たちで集める以外になかった。これまではベータの情報に加え、トッププレイヤーたちによる情報提供があったので、それを見ていればよかったが、これからはそうはいかない。完全に未知の領域だった。


そういうわけで、各エリアを順に探索することになった。<ホクラニの街>は南から入ったため、フィールドは北と東と西の三つのエリアを持つ。そのため、それぞれのエリアの探索と、街での情報収集の計四つの手段が考えられたのだが、第四フィールド東エリアの崖から海に面した街が見えたという情報を思い出し、それならば、ということで、東エリアの探索から始めた。


探索は順調そのもの。そして。


「はわわー! スライム、爆発したです!」


……常識も順調に破壊されていた。


「あ! そこにスライムが埋まってます! 気をつけてください! [闇魔法・影球]」


ドーン!


……地面が爆発した。いや、正確にはスライムが、か……って! 何故に地雷原になってんの! この湿原!


「はわー。スライムって爆発するんですねー。びっくりしたです!」


……天然がなんか言ってる。「びっくりした」では普通、済まないと思うのは、わたしだけだろうか……。


「……うん。そうだね。びっくりだよね」


わたしは溜息交じりに答え――ある可能性に気づいた。


「絶対、素材にしてやる!」


今までとは違うモンスターならば、違う素材が得られるということに。そうして、やる気になったところまではよかったのだが、


「……採れない」


何故だか、ドロップする素材はスライムの粘液のみ。これは散々、第一フィールドの洞窟で得た素材だった。利用価値は「調合スキル」で使うくらいで、「錬金術スキル」では扱いづらい素材だった。


「えーと、もしかすると、爆発する素材だと、スライムが爆発するとなくなっちゃう、とかですかね」


まあ、確かに、それはありえそうだ。けれど、そうなると、爆発されないように倒す必要があるわけだが、経験的に叩けば爆発するということは知っていた。わずかに、HPが削れるだけで爆発するのだ。なので、普通に考えれば不可能なわけだが、


「つまりは、封印できるかどうかだよね」


可能にできそうな手段は持っていた。


「ルナさん。いました」


アカネが「索敵スキル」でスライムを見つけた。わたしも目を凝らして見てみると、草陰に青い色をした丸い物体を見つける。表示された名前は「エクスプローシブスライム」。直訳で爆発スライム。……どうにも正気とは思えない生命体だ。


「よし、じゃあ、行くよ。[錬金術・封印]」


……!


気づかれた。けれど、もう遅い。


「[闇魔法・影球]」


アカネの闇魔法がスライムに直撃し、光の粒子に変わった。爆発はしなかった。そして、アイテム欄には、


「……爆発粘液」


目的のものがあった。


「やりましたね! このまま、集めますか?」


アカネは新しい呪符の可能性に胸を躍らせているらしいが、わたしにはひとつの懸念があった。それは、


「うーん、そうだね。……でもさあ、これ、錬成の時に爆発しないかな?」


色札に封印するためには、アイテム欄から取り出す必要がある。わずかにそれだけで、爆発されたらたまったものではない。それを訊いたら、


「……ああ、なるほど。なら、今のうちに試しちゃいましょう」


アカネが提案したのはルリにアイテム欄から出してもらうというものだった。一見、酷いことをしているように思われるかもしれないが、スライムが爆発しても「びっくりした」で済んだルリなら問題ないだろう。HPは結構、持って行かれていたが。そして、


ドカーン!


爆発した。ルリはHPを六割消失した。すぐさま、ポーションで回復する。


今回の実験で得られた結果は、取り出すだけなら爆発はせず、落っことすと爆発するというものだった。なので、取り出すときに直接、容器などに取り出せば落下の危険性はないので、爆発もしないだろう。


……ああ、ルリ、ありがとう! わたしだったらHP全損してたよ! 本当に二人は頼りになるよね!


そんなこんなで、爆発粘液の取り扱いもわかったところで、さくさくと素材を集めていく。


この湿原にはエクスプローシブスライムの他に、「ブラスティングスライム」と「マインスライム」の二種がいた。つまり、計三種の爆弾系スライムがいることになる。二種の名前の意味はそれぞれ「爆破スライム」と「地雷スライム」だ。……本当にどうかしている。


「あ、そろそろ、戻りましょうか」


アカネが言った。時刻を確認すると、十三時を過ぎていた。今から戻らないと暗くなる前に着けなくなってしまう。さすがに、スライム爆弾の湿原で一夜を過ごすのはリスクが高すぎた。


そうして、適当に爆発粘液を集めながら、帰路に就く。……それにしても、スライムが爆発しないって精神安定上、大事だね!



わたしは今、初めて、作業場の錬金区画にいた。理由はあの爆発粘液を扱うためだった。道具や手順など、色々と考えを巡らせた結果、錬金に役立つ物は錬金区画にあるだろうことに思い至った。そうして、来てみると、やはり、十分すぎる程に道具が揃っていた。……さすがです、本当に。


アイテム欄を開き、備品の容器に爆発粘液を移す。爆発は……しない。……よし! 目論見通り。


取り出した爆発粘液をそのまま色札に封印すると、呪符(爆発)となり、それを投擲用ナイフに合成すると、爆発ナイフができあがった。……なまじ、爆弾より怖さがある。だって、偽装がばっちりすぎるんだもの。ナイフが爆発するって、ありですか? 二回目だけど。


机に置いておくのが怖かったので早々に、そっと、アイテム欄にしまって、次の実験を始める。爆発粘液を精製するのだ。試みは成功。中爆発粘液ができあがった。……今までのは小爆発だったのか。あれで。ルリのHP六割削っておいて。


怖すぎて試したくはないが、中爆発ナイフにまで加工して、しまっておいた。一応だけど、ダースで作ったよ。使えないと意味がないからね。……中爆発ナイフ、か。出番がないことを祈っておこう。


そうして、あらかた爆発粘液を処理したら次は調理区画へ移動した。夕御飯だ。何か買っても良かったのだけど、ルリはなにか作りたいらしい。それなら特にこだわる必要はない。そういうわけで、ルリが料理をしている間、アカネとおしゃべりをしていた。


話題はアソシエーションのこと。ヒキを討伐した後に解放されたコンテンツだが、さっぱり分からなかった。そういうわけで、明日はこれについて調べて回ることにした。


アカネもあの湿原を歩くのは結構、きつかったらしい。特にマインスライム。あれは「索敵スキル」持ちのアカネしか見つけられないから、特に気を遣ったらしい。……ほんと、おつかれさまです。

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