難しい漢字ばかり。だがッ!

「たぶん昔の中国のお話だろう。宋って書いてあるし」

そのくらいの知識で読み始める。
難しい漢字ばかりだ。

襄陽。ふりがながあるので読める。
趙萬年。ふりがながあるので読める。
趙淳。ふりがなが(略

宋を「たぶん昔の中国の国名」くらいの認識でいる私には地名も人名も、ふりがながなければ読めない。
難しい漢字ばかりだ。

だがッ!
難攻不落の城を攻める五十万の大軍ッ!
対する兵士はわずか一万ッ!
『死に物狂いでこの城を守れッ!』
なんて分かりやすく、なんて心惹かれる言葉で、しかも中身はなんて面白いッ!

登場するのは敵も味方も一筋縄ではいかない人物ばかり。
対立の構図は善と悪ではなく人と人。
味方も残酷な振る舞いをするし、敵も理想を口にする。それでも男たちも女たちも戦う。敵が悪だから戦うのではなく、戦わなければ守れないから戦う。人と人がぶつかり合っている。壮大で、はるか昔の知らない世界なのに、なんて魅力的な作品だろう。

本編のつくりはモチロンとして、その他に素晴らしさを感じたのは随所でエピソードの合間に挟まれるキャラクターの紹介。聞きなれない名称や難読漢字な人名に読者が混乱しないように配慮し、登場人物の立ち位置と紹介が何度も入る。
それも、物語の流れを阻害しないように章の末尾という絶妙なポイントで。

たとえば紹介されている叉という武器には「ポセイドンの持つアレ」、鎌には「死神が持っているアレ」という説明がされている。これなら誰が読んでもすぐイメージができる。ポセイドンや死神が持っているような武器なのだ、と。
書かれていないキャラクターについては忘れて良いとする徹底ぶり。

これだけのものを物語としてしっかりとまとめつつ、しかも「わかる人にだけわからせる」のではなく、予備知識の無い読者が最大限に読みやすく理解しやすいようにしっかりと導線が引かれている。やろうと思って簡単にできることではありません。いったいどれだけの熱量と技量で書かれているのか。

素晴らしい作品だと思いました。

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