第14話 勝手に殴り愛しやがれ

「出来たァ――――――――――――――――――――――――ッ!!」

「ひいい――ッ! 寝てません寝てません起ぎてまず起ぎてまずうっ! エルカさんは出来るッ! エルカさんは出来っ……って、あれっ?」


 トラウマの一声で慌てて目を覚ますと、そこはログハウスだった。バクバクと心臓が鳴り響き、体中に冷や汗を滴らせたまま周囲をきょろきょろと見渡す。すると、セツカがきょとんとした顔で小さな布のような物を膝上に抱え、ぺたりと床の上に座っているのが目に入った。よ、良かった、エルカさんはいないようだな……。


「もう、朝っぱらからうるさいわねぇ……一体何事よ?」


 マリーが布団の中から不機嫌そうな声を出しながらモゾモゾと這い出てくる。こいつ、いつの間にかちゃっかり布団の中で寝てやがったのかよ……図々しい奴だ。更に、俺の横で寝かしつけていた京四郎も「ん……」という声と共に目をぱちぱちとさせていた。体にはボロボロの布切れではなく、セツカの荷物から出してもらった真っ新な布切れを代わりに巻いている。


「あっ、京四郎まで起こしちゃったか……ごめんな、この妖精が中にいたせいでひどく寝苦しかったろ? 全く、妖精ってのは本当にろくでもないな!」

「おいゴルァ! こっそりあたしに責任擦り付けんなっ! あんたのでかい声で起きたんでしょうが!」

「いやいや、その前にもっとでかい声が聞こえただろ! さっきのあの声って、セツカの声なのか?」


 疑問と共にセツカに目を向けると、セツカは「そだよー」とけろっとした様子で答えた。そして、手元の小さな布をこちらに向かって広げ、


「ほらっ、なんとキョーシローの服が出来ましたっ!」


 と、満足気な声を出した。セツカが着ている服と似たような作りだが、色は橙色ではなく濃いめの緑色だ。そうか、それで「出来た」って叫んだってわけだな。よりにもよってその言葉をくそでかい声で叫ぶのはやめて欲しかったが……危うくショック死するとこだったわ。


 複雑な顔をセツカに向けていると、マリーも京四郎の服を見て「へぇ」と感心したような声を出した。


「もう服が出来たのね。あんたの予備が元なだけあって、作りがちょっと殴道宗っぽすぎてアレだけど、まぁ割と悪くないんじゃない?」

「確かに、ちょっとセツカとお揃いみたいでアレだけど中々良く出来てんな」

「ちょっと! 一晩中作ってたのにアレアレって酷くないかなっ!?」

「だ、だからそうやってすぐこぶしを構えるのはやめろ! アレアレ言われるのはそういう部分だよ! って、お前一晩中作ってたって……まさか寝てないのか?」


 セツカは「そだけど?」と相変わらずけろりとした様子で答えた。あれ、こいつ確か、その前もドラゴン探しで外を走り回ってて寝てないよな……?


 俺の背筋に冷たいものが走る。やっぱこいつの正体は魔物か魔族で、実は人間じゃないんじゃなかろうな……と、疑わしい目つきをセツカに向けていると、


「……なんだか失礼な事を考えられてる気がするよ……」


 と、セツカの方も怪訝そうな顔で俺をじろっと睨んできたので、俺は慌てて「よし京四郎、新しい服に着替える前に顔洗いに行くかっ!」と京四郎を起こして家から逃げるように飛び出していった。後ろからセツカの「あっ! ちょっとっ!」という声が聞こえる。ふぅ、危ないところだったな。獣に近いだけあって野生の勘がすごいからな、あいつ。危うく殴り殺されるところだったわ。


 外に出た俺は手から水を出して京四郎の顔を洗ってやり、そよ風でそれを乾かしてから一緒に軽くストレッチをし、二人で連れ立ってログハウス内へと戻った。そして、セツカから服を受け取り――万全の態勢で、京四郎に新しい服を着せてあげた。おニューの服に身を包んだ京四郎が、ちょこんと俺たちの前に立つ。


「おおおおおおおおおおおおおッ!! なじむ! 実になじむぞ京四郎! 殺伐とした異世界に舞い降りた一匹の孤独な天使とは正しくお前のことだ! 京四郎ッ!」

「ちょっと! あんたうるっさいわよ! でもまぁ確かに良い感じだわね」

「へっへっへー、私の仕立ての腕も中々のもんでしょ? どやどや?」


 京四郎を前にめいめいが感想を述べた。服のサイズは京四郎の体よりもほんの気持ちだけ大きくなっていて、ふわっとした印象だが、それが幼い京四郎の雰囲気と相まってなんとも絶妙な可愛らしさを演出していた。


 くっ、セツカのくせになんて良い仕事をしやがるんだ……! これは認めざるを得ないぞ……!


「セツカ、お前は殴道宗なんかやめて今すぐに仕立て屋になった方がいいぞ! その方が世のため人のためだ! 折角の才能を肥溜めなんかに捨てるんじゃあないッ!」

「へへ、そこまで褒められると流石に照れちゃうよー……って、あれ? 今のは本当に褒められたの? あれ? 貶されてない? あれれ?」


 俺は「あれあれ?」と混乱しているセツカに「気のせいだよ、ハッハッハ」と軽く声をかけてから京四郎の方へと向き直った。


「どうだ京四郎、気に入ったか?」

「ん……」


 頭を撫でてやりながら尋ねると、京四郎が小さくこくんと頷いた。愛くるしい様子に、思わず自然と笑みがこぼれる。


「そうかそうか、そんなに気に入ったか! ほら、暴力お姉ちゃんにありがとうってお礼しような~」

「ちょっと! 暴力お姉ちゃんって私のこと!?」


 セツカが声を荒げつつこぶしを構えそうになるが、京四郎がセツカの方をじっと見ているのに配慮してか、すんでのところでググッとこぶしを抑え込んでいた。


 驚いた、こいつにも理性は存在したようだな……ちょっと顔がピクピク引きつりながら俺をめっちゃ睨みつけてるけど。すると、「……あとで覚えてなよ、シンタロー」という小さな呟きが聞こえ、俺は一瞬全身からさあっと血の気が引くが、「大丈夫きっと忘れてるから大丈夫きっと大丈夫」と必死に自分を励ますことで何とか正気を保つことが出来た。危うく失禁しながら気絶するとこだったわ。


 顔中に流れ出た冷や汗をぬぐっていると、横からマリーが怪訝そうな顔をして「ねえ、ちょっと」と話しかけてきた。


「あんた、今『そんなに気に入ったか』って言ったけど、あたしには大してキョウシロウの表情が変わってるようには見えないんだけど……何を根拠にそう言ったわけ?」

「何? なんだ、まだまだ修行が足りないな。俺には京四郎が何を言いたいか、全部全てまるっと読み取れるぞ」


 俺はそう言って、「そうだな……」と呟きながら京四郎の顔をじっと見つめた。京四郎もあどけない顔と無垢な瞳で俺をじっと見つめ返してくる。


 その様子を見て、俺は――


「――おい、一体どこから舞い降りて来たんだこの天使は?」

「ちょっと! 真面目にやんなさいよ!」

「おっと、すまんすまん。ええっと、例えばこの顔は……『このクラシコイタリアに通じる、着る者に配慮した柔らかくて軽い仕立て、動きやすさの中にもきちりと存在するクラシックなエレガンテとモダンな遊び心……見事な腕前だ、セツカ』って言ってる顔だな」

「嘘でしょ!? 聞き覚えの無い言葉ばかりなんですけど!?」

「ちなみにこの顔は『そこのごちゃごちゃうるさい目ざわりな羽虫、消えてなくなれ――っ!!』って言ってる顔だ」

「おいゴルァ! それあんたの声でしょうが!」

「いいや! 確かにそう言ってましたー!」


 俺とマリーがぎゃあぎゃあ喧嘩していると、京四郎がおもむろに口を開いた。


「……だいたい、あってる」

「合ってるの!? 嘘でしょ!? 嘘だと言ってよキョウシロウ!」


 京四郎の無慈悲な言葉を聞き、マリーは青ざめて空中でガクガクと激しく震え始めた。ショックを隠せない様子のマリーに、俺はここぞとばかりに追い打ちをかける。


「おおおおおおおおお――ッ! やはり俺と京四郎の絆は本物だったな! どうだ、分かったらさっさとこの世から消えてなくなりやがれこの羽虫――っ!」

「こ、こんなことが……こんなことが……!!」


 俺が更に「ねぇねぇ、今どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?」とマリーを煽っていると、京四郎がくいくいと俺のスラックスを引っ張り、


「……じょうだん」


 と言って、京四郎はにこりと小さく笑った。


「おおおおおおおおお――ッ!! 早くもそんなお茶目な冗談を使いこなすとは! 流石、将来この世界の全てを支配する運命をその身に背負ってるだけのことはあるなっ! 末は魔王か大魔神か!」

「冗談てことはやっぱりさっきのはあんたの声ってことじゃないの! ふざけやがって! 寿命が縮んだわよ!」

「そのまま縮み続けて消えて無くなれば世界平和に一役買えただろうになぁ?」

「上等よテメー! クシャクシャに潰してやっからなァ!」

「なるほど完璧な作戦だなァッ! 不可能だという点に目を瞑ればよォ!」


 掴みかかって来たマリーをその場で迎え撃っていると、近くで様子を見守っていたセツカがパンパンと手を叩きながら笑顔で口を開いた。


「いやいや、二人とも朝から元気だねぇ~。元気があり余ってるから喧嘩しちゃうんだよ! それは良くない傾向だよ、うん! よし、それじゃあその余ってる元気を発散しに、一緒にドラゴン探しに行こっか!」

「行きません」

「行かないわよ」

「ちょっと! なんで二人とも急に息がぴったりになるのさっ!?」

「昨日のダンジョン探索でもう散々懲りたっつーの! お前と一緒に行くとろくなことにならん! それに、なんでわざわざ自分から死地へ赴かなきゃならねーんだよ! きっとドラゴンにはドラゴンの事情があるんだからそっと放っておいてやれよ! 俺は今日は京四郎とお庭で土遊びして過ごすの!」

「あたしは今日は屋根の上で寝っ転がって、日光浴を日がな一日楽しみながら同時にこの世界の平和を守るっていう、選ばれし者にのみ許された極めて崇高で重大な使命があるの。そんな『ドラゴン探し』だなんてくだらないことに時間を浪費する余裕は無いわ!」


 俺とマリーの見事な連携技で、さすがのセツカも「むむむむ」と小さく唸り声を出すだけだった。なにがむむむむだ。


「ちぇ~っ、皆で行けば絶対に楽しいのになぁ……分かったよぅ、それじゃ今日は一人でドラゴン探しに行ってくるよぅ……」

「おうおうおう、それじゃさっさと行って、遅くまで遊んでないでちゃんと暗くなる前には家に帰ってくるんですよ。あんまり遅いと晩御飯抜きですからね!」


 セツカの背中をぐいぐいと押し出してやると、一歩進んではちらりと後ろを見て、また一歩進んではちらりと後ろを見るといった具合に未練がましくしていたので、「ほら、さっさと行けよ」とひと際強く押して家から出してやり、扉をばたんと閉めた。


 家の外から「も~っ!」というセツカの大きな声が聞こえ、それからザッ、ザッ、ザッという力強く地面を踏みしめていく音が続いた。その音が次第と遠ざかっていくのを聞き、ようやく俺はふうっと大きな息を吐く。やれやれ、これで一安心だな。残る邪魔者はこいつだけだ。


「おい、マリー。お前もさっさと屋根に上って干物になる準備しろよな」

「ちょっと! 干物じゃなくて日光浴よ! 言われなくても行くっての!」


 マリーはそう言うと、ぶ~んと羽音を響かせながら突き上げ窓からふらふらと外へ飛んで行った。今の動き、ほんとに羽虫みたいだったな……あいつ実は妖精じゃなくて羽虫タイプの魔物なんじゃねーのか? 言葉も汚いし、唾も吐きまくるしな……。


 俺がマリーの正体に思いを馳せて立ったまま固まっていると、京四郎がとてとてと足元に近寄ってきてじっと俺を見上げた。天使か?


「うん、どうした京四郎?」

「つちあそび、したい」

「おお! そうかそうか! 待ちきれないか! よしよし、ここはひとつ豪快に月山富田城がっさんとだじょうとか小牧山城でも作るか! 躑躅ヶ崎館つつじがさきやかたとかも渋くていいな~! よぉ~し、パパ頑張って錬成しちゃうぞ!」


 俺は京四郎をがばっと抱き上げ、勢い良くログハウスから飛び出していった。





「ほ~ら、京四郎。これが武田流丸馬出まるうまだしだぞ~」


 ログハウスから飛び出して小一時間、俺はせっせと錬成し、草原の中に小さな躑躅ヶ崎館を作り上げていた。堀もきちんと作り、そこには手から出した水を注ぎこんできっちりと仕上げている。更に、小さなゴーレムを複数作って館の中でわらわらと動かしてやると、京四郎は楽し気にそれを目で追っていた。


「あんたたち、さっきから妙に騒がしく動き回ってるけど何を作ってるのよ?」


 日光浴を中断してふらふらと近寄ってきたマリーが、俺が作った躑躅ヶ崎館を見て「えっ!?」と驚きの声を上げる。


「ちょっと何よ、そのチマチマ細かいのは!?」

「おう、これか? これは武田信玄が住んでた躑躅ヶ崎館だよ。武田信玄は領外に攻めてばかりで領内には城を持たず、領内の守りには無頓着だったと思われがちだがな、実はそれは誤解で、要害山城って城もあったし、狼煙台のネットワークも綿密に張り巡らしてあったんだ。それにこの躑躅ヶ崎館は丸馬出や土塁に掘りも備えた実に堅固な造りになってて……」

「知らない言葉並べ立てられても分からんわ! 全く、その無駄なこだわりには呆れ果てるばかりだわ……」


 マリーはじろじろとミニ躑躅ヶ崎館を眺めながら、「はぁ」と溜息をついた。日光浴を楽しみながら世界を守る、とかふざけた事抜かしてたこいつには言われたくないもんだが……。


「そうだわ! こんな物を作る暇があるなら、あたしの城を造りなさいよ!」

「はぁ?」

「うんうん、それがいいわ。このあたしに相応しい、絢爛豪華で壮麗ながらも同時に心を打つ儚さもあわせ持ったような城がいいわね! そうねぇ、王都にあるオルディグナス神殿みたいなのがいいわね。でもただ真似しただけじゃだめよ? きちんと独自性も出して、オルディグナス神殿を超えるような物を一つ頼むわね!」


 俺は一言も「造ってやる」とは言っていないのに、マリーはお構いなしにべらべらと喋り続けていた。こ、こいつは……。


「……よし、そこまで言うなら造ってやるよ。練成!」


 両手を地面について叫ぶと、瞬く間に深さ二メートルほどの穴がぽっこりと出来上がった。俺は更に「水ッ!」と詠唱し、その穴ぼこの中に水を満杯近くまで注ぎ込む。


「ほれ、出来たぞ」

「は? 何これ?」

「豊臣秀吉の備中高松城の戦いでの水攻めを参考にして考えたんだ。正しく、お前に相応しい城だぞ。その名も――水没城すいぼつじょうだ!」

「穴に水溜めただけじゃねーか! ふざけんじゃないわよ!」

「そりゃこっちの台詞だよ! 京四郎との貴重な時間を邪魔すんじゃねぇ! お前は大人しく屋根に戻ってさっさと干物にでもなりやがれ!」


 俺がスパッと言い返すと、マリーは「キィィ~ッ!」と怪鳥のような声を上げて俺に掴みかかってきた。


「あんたとはここらで雌雄を決した方がいいみたいね! 覚悟しなさいよ! このドグサレがァ――ッ!」

「おいこらッ! やめろ、髪を引っ張るんじゃねぇ! くそっ、そっちがその気なら――錬成ッ!」


 そう叫ぶや、目の前の地面がモコモコと盛り上がり、瞬く間にヨウカちゃんとカンタ君のゴーレムが出来上がった。そして俺の頭に取り付いているマリーを掴んでゴーレムの方へ投げ飛ばすと、地面に叩きつけられたマリーは「ぐえっ!」と汚い呻き声を漏らした。


「おらっ! お望み通り戦ってやるよ! そっちこそ覚悟しやがれ!」


 ゴーレムを操作してマリーを追いかけまわすと、マリーは「ひいっ!」と悲鳴を上げて必死になって地面を逃げまどい始めた。マリーは走りながら空中に飛び立とうとするが、俺は素早くゴーレムを操作してそれを「バシンッ!」と叩き落とす。するとマリーは地面に這いつくばった格好で「おいゴルァッ!」と恨みがましい叫び声を上げた。


「この卑怯者ッ! 恥ずかしくないの!? 正々堂々戦わんかい!」

「おう、だからこうして正面から戦ってやってるだろうが! ほらほら、お得意の妖精汁でゴーレムを溶かしてみたらどうだ? ん? 出来るもんならなァッ!!」

「ち、ちくしょう……! ちくしょおおおおおおお――ッ!!」

「はーっはっはっはっはっ! 見ろ! 妖精がゴミのようだ!」


 地面に這ったまま悔しそうな声を漏らすマリーを見下ろし、気分良く高笑いを上げていると、そばで様子を見守っていた京四郎がふいに両手を胸の高さまで上げ、ゴーレム達の方へと突き出すのが視界の隅で見えた。


 おや? と思い、京四郎の方へ顔を向けて「どうかしたか、京四郎?」と声をかけた、その瞬間――ヨウカちゃんとカンタ君のゴーレムが、突如として「ボコボコボコッ!」と大きな音を立て始めた。ギョッとして慌てて視線を戻すと、ゴーレム達は激しく泡立ちながら大きく膨張してしまっていた。い、一体何事だ!?


 その異常事態に俺の目は釘付けとなり、地べたのマリーも眼前の光景に呆気に取られている様子だ。俺もマリーも言葉を失い、瞬く間に形を変えていくゴーレムの様子をただ呆然と見守る事しか出来なかった。


 やがて、眼前に現れたのは――体長が三メートルほどに成長し、筋骨隆々のマッチョマンと化してしまったヨウカちゃんとカンタ君のゴーレムだった。筋肉と筋肉の境目は彫りがくっきりと深くなり、赤黒く艶やかな表面がぎらりと太陽光を反射している。俺もマリーもぽかんと口を開け、唖然として目の前の巨漢ゴーレムを凝視していた。


 すると、黙っている俺に不安になったのか、京四郎がつつっと俺の足元に寄ってきてスラックスを遠慮がちに引っ張り、ぼそりと言葉を漏らした。


「やっちゃ、だめだった……?」


 俺はその声で正気に戻り、京四郎に目を向けた。その幼い顔には心細さがはっきりと浮かんでしまっている。


 おいおい――何をやっているんだ、牧野新太郎よ。


 京四郎にこんな顔をさせてしまうなんて、保護者失格じゃあないか。


 俺は、精一杯の笑顔を顔に浮かべ――


「いいや、全然駄目じゃないぞ! むしろすごい! これは神業と言って良いな! いやはや、まさかこれほどとは! 京四郎、大した奴だ! やはり天才か!」


 と、思いつくばかりの賞賛の言葉を投げかけてあげた。その言葉を聞き、京四郎はホッとしたのか、にこりと少し頬を緩ませた。俺もその様子を見て胸を撫で下ろす。


「すごい? えらい?」

「ああ、すごいぞお! えらいぞお! まさか京四郎が土魔法を使えるとはなぁ~。俺とお揃いだなッ! こりゃあやっぱり、俺と京四郎が出会ったのは血の運命さだめだったんだな!」


 会話を聞いていたマリーが遠くから「別に土魔法使える奴なら他にもいっぱいいるでしょーが!」とわざわざ余計なツッコミを入れてきたが、俺はそれをスルーして京四郎との話を続けた。


「いやはや、『末は魔王か大魔神か』って言った俺の目は正しかったようだな! ヨウカちゃんとカンタ君もこんなに立派になっちゃって……これじゃもう気軽にちゃん付けや君付けは出来ないな……『ヨウカさん』に『カンタさん』だわ……」


 俺は筋骨隆々のヨウカちゃんとカンタ君――いや、ヨウカさんとカンタさんのゴーレムを眺めつつ、感慨深く言葉を漏らした。そして、再び両手をゴーレムの方に向ける。


「よし、京四郎は右のヨウカさんの方を操ってくれ。俺は左のカンタさんの方を動かすからな。二人で一緒にあそこで這いつくばってる羽虫を退治するぞ! 愛の共同作業だ!」

「おいゴルァ! 何ふざけた事抜かして――ちょちょ、ちょっと待ってやめて! やめて下さいっ! せめて羽ばたかせて! 空を自由に飛ばせてってば!」


 俺と京四郎の共同作業により、ヨウカさんとカンタさんが巨体に似合わない俊敏な動きでマリーを追いかけまわし始めた。二体の巨大なゴーレムの歩みで生み出されるズシンズシンという地響きがこちらの方にも伝わってくる。


「さすが京四郎だな! ブラボー! おお、ブラボーッ! ゴーレムの扱いも素晴らしいぞっ!」

「あんたら後で覚えてなさいよ――――――――――――――ッ!!」

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