5*ふたりともまだ未成年ですし……




 太陽が1日の仕事を終える。みなさん今日も1日お疲れ様、って言ってくれてるみたいに優しい夕日で大地を包む。そして太陽と入れ違いに、穏やかな光で人々の疲れを癒すように月がほんのり夜空に浮かんだ。


 僕たちは光合成でエネルギーを作り出す事が出来る為、食事は基本少量で済む。だけど、睡眠はそれなりに必要だ。日光が当たらない夜は、出来るだけ睡眠をとって身体を省エネモードにする必要があるのだ。眠って、エネルギーを出来るだけ保存しておく為だ。


 それと、身体の半分は人間だから、脳を休める為にやはり睡眠は必要だ、という理由もあるらしい。実は、その辺の身体の構造は、未だ解明されていない箇所が多分にある。まぁとりあえず、僕たちも人間と同じように夜は寝る。



 しかし今日はなんだか寝付けなかったから、ベッドに横になったまま色々考え事をしていた。



 僕たちは一応、個室を与えられている。ベッドと机だけのような簡素なものだけど、僕はけっこうこのプライベート空間がありがたいと思っている。


 そりゃ僕は普通の人間とは違う人造人間だけど、独りになりたい時だってあるのだ。それに思春期の男の子だから色々と他人に見せ——


「サクラ、起きてるー?」


「おうわっ!」


 プルメリアだった。病衣のようなシンプルな寝間着姿で入り口に立っている。


「びっくりしたな、ノックくらいしろよ」


「ごめん、シコってるところだった?」


「違うわ!」


 プルメリアは何も言わずベッドまで近づいてくると、僕の寝間着の裾を引っ張った。


「ちょっと来て」


「え?」


 ドクっ、と心臓が大きく鼓動を打った。








 敵の城に侵入した忍のようにこっそりと廊下を通り抜けると、プルメリアは僕を書類や掃除道具などが仕舞われてある倉庫に連れていった。


 僕はドキドキした。



 もしかして、愛の告白だろうか。それとも、それ以上のコトも——



 実弾演習でさえ鼓動を乱さない僕の心臓は激しく脈打った。そして、イケナイところも熱くなってきた気がする。身体中の血流が激しくなる。



 は、鼻血が出そうだ……



 でもいけない、僕たちは対ラオム・アルプト殲滅用に造られた人造人間兵器だ。そんなイヤラシイ事をしていいはずがない。でも、もしプルメリアがそれを望むなら僕は——




「おーい、サクラ連れてきたぞぉ」




「へ?」




 倉庫の奥で、仄かに光るランプを囲んで、ウメ、ダリア、アザミが座布団を敷いて座っている。あと2つ、誰も座っていない座布団が敷かれている。



 これは——



「こんばんは、サクラくん」


「遅いぞぉ、マスかいてたのぉ?」


「眠い」


 ウメとダリアとアザミが言う。


「何してるんだ、こんなところで」


「見て分かんないの? 秘密の女子会! まぁサクラだけぼっちにさせるのは可哀想だから、呼んだげた」



 プルメリアは上から目線で言う。


 なるほど、まぁ要は少し秘密基地気分を味わう為にここに集まった訳ね……ちょっと残念だ……いやいや、そんな事はない。断じて。


「なんだぁ、サクラ! プルプルに呼び出されてイケナイことでも想像しちゃったかぁ!?」


 プルプル、というのはプルメリアの事だ。ダリアは人の名前を独特なネーミングセンスで呼ぶ。


「そ、そんなことないし!」


「あ、図星だったぁ!? このヘンターイ!」


 そう言って、ダリアは僕の股間を叩いた。


「はうあっ!」


 痛い! 


 痛い……けどなんか気持いい……


「サクラくん、プルメリアにいやらしいことしようとしてたの?」


 ウメが、何か汚れたものを見るような目で僕を見て言う。


「ち、違う! 誤解だよ、誤解!」


「いえ、サクラくんはもう13歳ですし、異性を性的な目で見る事に何ら不思議はありません。寧ろ、健全な事ではないでしょうか。でも、まだ少し早い気が……2人ともまだ未成年ですし……それにお互いの合意が必要ですし……こんな人気のない暗いところに呼び出して……ヘンタイ!」


 ウメは何故か興奮し、赤らめた顔を両手で覆うと、僕の股間めがけて拳を繰り出した。



「おうふぁうぁ!!」



 ほ、本気で痛いよウメ……僕のモノが再起不能になったら、君は責任取ってくれるのかい?



「だから違うってぇ」


「まぁこれだけ美女に囲まれてたら発情しちゃうのも無理ないよねぇ、キャハハ! じゃあ始めよっか! アザミ、出して!」


「あいよ」



 ダリアに促され、アザミは背中からパンパンに膨れ上がったビニール袋を取り出した。


「おおおおおぉー!」


 ビニール袋の中には、ジュースやお菓子が大量に詰め込まれていた。アザミはビニール袋をひっくり返し、床にぶちまける。


「どうしたんだよ、このお菓子」


 体調管理が重要な僕たちは、お菓子を与えられるのは稀な事だ。たまに、イシガミ博士が内緒でくれるくらいだ。だから、僕たちにとってお菓子はなかなか食べる事の出来ない有り難いものだった。


「食堂からパクってきたんや」


 クールに言い放つアザミ。しかし余り褒められたことではないぞ。


 でもまぁ……


「たまにはいいか。頂こう」


「よっしゃあ! じゃああたしポテチ〜!」



 こうして、お菓子とジュースを頂きながらの女子+男子1名会は始まった。


 消灯時間以降の外出は基本的に禁止されているし、ジュースとお菓子をパクるのはよくないことだけど、僕たちの境遇を考えたら、神様もほんの少しの罪くらいになら免罪符を与えてくれるだろう。



 それは甘い考えだろうか。





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