30話 新たな指導者


「それでは早速だが、貴様のスキルを更に磨き上げるが。まず、お前の固有スキル。暗黒物質ダーク・マターの攻撃スタイルを増やす事から始める。」


イグニスがそう云うと、義経は「え、そんな事ができるのか?」と訊くと、イグニスは呆れたように溜息を吐いた。


「フレデリックのやつ。全部、わたくしに押し付けよって。まあ、いいだろ。簡潔に説明すると貴様の持っている暗黒物質ダーク・マターは小さい物質でできている。その分、小さい粒が集まれば大きくも変わるし、それに第2段階まで突破していれば、スキルスタイルも変えられる。」


「なるほど、つまりそれは物質たちの粒を集めて武器に変形させたりする事ができるんだな!」


義経がウキウキにそう云うと、イグニスは少し感心した様子で「ほう、少しは勘がいいんだな。その通りだ、それに貴様の暗黒物質ダーク・マターは物質全てが浮遊している。それを利用すれば飛ぶことも可能だ。」と言った。


空を飛べると聞いた義経は嬉しそうに「え、まじか!じゃあ俺、フェザーみたいにカッコよく飛べちゃうわけ!一回試してみるか?あ、でも飛べたとしても飛んでる最中に落ちて失敗したら嫌だから、イグニス。一回俺の代わりに飛んでみない?」と話す義経に、イグニスは「貴様はわたくしを怒らせたいのか?それに最初に試したくないのなら、その辺の動物を実験台にすれば良いだろ。」と云うと、義経は納得したように、その手があったか。と言いながら、近くにいた猪を飛ばせてみせた。


すると、猪の背中に大きな黒い翼が生え。そのまま空高く飛んでいく姿を見た義経は、嬉しそうに俺スゲーと喜びながら、怖がる猪に対して、満面の笑みで「どこまで飛ばせるか実験してみようぜ!」と云うと、更に猪を空高く上空へと飛ばしてゆく。


そして、肉眼では見えなくなった猪を見て義経は「あ、やべ。やり過ぎた……よし、実験は成功したみたいだし、俺もそろそろ寝るとするか。じゃ、そういうことだからおやすみ!」と帰ろうとする義経の肩をイグニスが掴むと「実験は成功なんだろ。じゃあ今から実践だな。」と言った。


義経は苦笑いしながら「いや、もう俺の残機という名の魔力は底を尽きたわけだし。ほら、それに未成年がこんな夜遅くまでいたら警察に補導されるじゃん、そしたらアンタも子供の誘拐犯だとかあらぬ疑いをかけられ職質されるぞ。それでもいいのか?」と話を逸らすが、イグニスにはそんな言葉など通用しないのか「もし、わたくしに異論する人間などがおれば、抹消すれば問題ないだろ。」と返した。

義経は呆れた様子で(いや、問題だらけだろ。)と心の中でツッコミを入れた。


「義経、貴様に合わせてバカでも分かるよう魔力の使い方を教えるが。魔法というのは魔力の分子の質量によって、力加減が異なるのは分かるよな。」


イグニスにそう説明され、義経は驚いたようにえ、そうなの!?という表情を見せた。

その様子にイグニスは呆れたのか「貴様は相当なバカだな。本来、魔法というのは魔力の力加減で強さが変わってくる。そして一般的な人間のエネルギーの力は生活レベルで30%そして冒険者が使うエネルギーは最高で80%と言われている。まあ、リミッターを外せば100%の力は出せると言われているが、そのかわり脳への負荷は耐えられないだろうな。でも貴様のような人間は例外だ。普通の人間とは違った魔力の量を秘めている。だが、使い手がバカだから宝の持ち腐れという感じだな。」と説明した。


義経は怒りを抑えながら「丁寧な説明どうも。バカな俺でも理解できたよ。それじゃあ、魔力の使い方とやらを教えてもらおうか。イグニス先生よ。」と満面の笑みを見せながら返した。



「いいだろ。だが、今日は時間が惜しい。明後日にでも魔力のコントロールの使い方を教えてやる。とりあえず今日は空を飛ぶことを覚えろ。貴様がイメージする飛び方でな。」


イグニスがそう云うと、義経は少し自信がないのか、躊躇うように「今じゃなきゃダメなのか?」と訊くと、イグニスは「自分の魔力に自信がなくてどうする。己の力を限界まで引き出せ。」と言われると、義経は飛ぶまで終わらないと悟ったのか、自分の背中に大きな黒い羽根を生やした。


義経は自分の背中についている羽根を見て嬉しそうに「ヤバッ!これ氷の羽根だったら完璧フェザーじゃん!記念に写真撮っとこ。」と言いながら自撮りし終えると、そのまま空へと高く飛んだ。


義経は自信がついたのか、更に高くそして速く飛ぶと、そのまま軽く浅草まで行きスカイツリーで記念撮影を終えると、そのままイグニスのいる場所まで戻るのであった。


無事イグニスの所まで戻ると、義経はドヤるように「空を飛ぶなんて余裕すぎ。俺ってやっぱり天才なのかな。」と話す義経にイグニスは「天災の間違えだろ。」と返した。


「おい、絶対人を災害呼ばわりしてるだろ。まあいい。それよりも今日はもう疲れたし、この辺で終わりでいいか?」


義経がそういうと、イグニスは「まあ、良いだろ。明日は残りの雑魚を片付けたら、本格的に指導し始めるから覚悟しておけよ。」と言い残すと、イグニスは蛇の姿になると、暗い森林の奥へと姿を消していった。

義経もあくびをしながら部屋へ戻ると、明日へ備えて、秒で深い眠りにつくのであった。


翌朝。

リビングルームへ入ると、大きなソファーにうつ伏せになっている西田の姿があった。

義経は、西田に湿布を貼ることねに理由を訊いてみると、ことねは呆れた様子で「今朝、近くにいたヒグマと格闘していたら、西田がプロレス技でもある、ジャーマンスープレックスを決める際に力を入れ過ぎたのか、そのせいで腰をやっちゃた感じだよ。」と説明した。


ことねの話を聞いた義経は呆れた様子で「バカだとは思っていたが、相当な大馬鹿だな。あんまりプロレスとか詳しくないけど、つまりアレだろ。西田がヒグマの背後を取りそのまま抱き抱えて真後ろに叩き付ける技だろ。そりゃあ腰ダメにするわな。」と云うと、西田は嬉しそうに大笑い出した。


「わーはっはっはっはー、あの投げ技は見事だったぞ。義経、お前にも見せられなかったのが非常に残念だ!」


「お前の頭が残念だよ。」


義経は更に呆れながら「じゃあ、今日の討伐は参加出来ないってわけか?」と訊くと、西田はニッと笑うと「そうだな、完全に完治するまで最低でも3日はかかる!ま、義経なら余裕だろ!あとは任せたぞ!」と話す西田に、義経は殺意の満ちた笑みで「おう、そうだな。このままお前の人生もここで終わらせてやろうか?」と云う義経を、ことねは必死に止めに入るのだった。


そして朝食を済ませた2人は、昨日と同じ場所より少し先の近辺で凶悪な魔物たちを倒していた。


「なぁ、ことね。」


「ん?どうしたの、義経。」


義経は無駄にダサい決めポーズ(自分ではかっこいいと思っている)をすると「俺、実は空も飛べるんだぜ。」と無駄にかっこいい声を出すと、ことねは呆れた様子で「え、あーそうなんだ。」と興味なさそうに返した。


「……。」


「……え、もしかして今のところ褒めないとまずかった?ごめん、もう一回やって。」



ことねは悪気がないのかそう云うと、義経は顔から火が出るじゃないかというくらいに顔を赤くしながら「マジで今の台詞全部忘れろ!あと絶対この事は誰にも言うじゃねえぞ!言ったらぶっ殺す、いいな!」と涙ながらに訴える義経に全てを悟ったことねは不敵な笑みで「えーどうしようかなー、言わないでもいいけど……。」と言いかけたところで、義経はことねの首筋に刃を当てると「言ったらどうなるか、分かるよな?」と目の瞳に光がない義経に、ことねは涙目になりながら首を縦にブンブンと振った。

義経は刀を下ろすと、背中に黒い羽根を生やし、そして空高くへと飛んだ。


ことねは素直に感心する様子で「台詞は凄い痛いけど、黒い羽根って普通にかっこいいな。さっきの台詞がなかったら完璧だったのに。」と話すことねに、義経は「おい、さっきから聞こえてるんだよ!それに俺だって知ってんだぞ。ことねがファンの子たちから吐瀉物王子とか嘔吐物魔人とか言われてるの、あの動画のコメントは面白かったな。ことねくんって顔はイケメンだけど、キスする時はゲロ吐かれそうでマジで無理とか、ゲーム配信でホラゲーやってた時なんか、スパチャで大丈夫?ゲロ吐かない?って心配されてたな!ことねくん、高額スパチャしてもらったら、ちゃんとお礼言わなきゃダメだよ?3万のスパチャありがとうございまーす!これからも下呂太のことを応援よろしくーってちゃんと言わないと可哀想だろ。」とゲラゲラ笑う義経に、ことねは義経を睨みつけながら「あれほど俺のチャンネルは見るなって言ったのに……あぁ、そうだよ!俺はファンの子を魔物から守ろうとして結界を張ったんだよ!義経も知ってると思うが、俺だけなぜか魔力を使うとゲロを吐くんだよ!俺だって好きで吐いてるわけじゃないのにアイツら好き勝手言いやがって……。」と落ち込むことねを見て、義経は少し悪いと思ったのか、ことね。と謝ろうとした瞬間、ことねは何かブツブツと言い出し始めた。


「だから俺はSNSで嘔吐とか馬鹿にしてくるやつ、DMで吐瀉物さんって送ってくる奴らは片っ端からブロックして裏垢でアイツらの悪口書いているんだよ。悪いかよ。」



義経は軽く引くように「陰湿すぎるだろ。」とボソッと云うと、ことねは怒りながら「性格がゴミクズの義経だけには言われたくない!」と言うのであった。


「とりあえず俺は魔物を倒すから、ことね無理しないように、その辺の雑魚でも狩っとけ。」


義経はそう云うと、残りの魔物を次々と倒していく。



数分後。



「はぁ……はぁ……はぁ……そろそろ魔力が切れそう、もう500体は倒したか。」


義経は支給されたウォッチで何体倒したか確認してみると、150という数字が表示されていた。


「おい、ことね。このウォッチ壊れてねえか?」


「何言ってるの、さっきから素早さも落ちていれば、魔物と追いかけっこしていて寧ろ弄ばれているようにしか見えなかったけど、原因はその羽根なんじゃないの?」


ことねにそう指摘されると、義経は背中に生えている羽根を解除させると、嘘のように肩が軽くなり。

義経は広い草原をかけるイメージで笑いながら「確かに本当だ!まるで肩に重りがなくなったような感覚で今なら何でもできるような気がする。」と前方を注意しないでいると、ことねが慌てた様子で「義経、前ッ!!前ーッ!!!前をちゃんと見てー!!!」と叫ぶ姿に義経は、え?という言葉を最後に巨体スライスの腹の中に飲み込まれるのであった。



「◎△$!♪×¥●&%#!!(ことね!今すぐ俺を助けろ!!)

◎△$!?♪×¥●&%#◎△$!(ヤバい!?息が持たない早くしろ吐瀉物!)」


義経は息を止めながら苦しそうに、ことねに助けを求めるが、ことねは遠目で「助けたい気持ちはあるが、何故か凄く貶された気分で助けたくない気持ちの方が強いんだよな。」と口にはするが、ことねは義経に恩を売るため、仕方なく助けることにした。


ことねはスライスの方向に右手を前に出すと、バリア・ドームと唱えた。

すると、スライスの腹の中に、ことねの能力スキルである結界の壁が、義経を守るようにドーム状に広がりながら、スライスの腹を破裂させたのであった。


そして、スライスから出られた義経は、釣り上げたマグロの打ち上げの様な姿で横たわっていると、そのすぐ隣では、ことねが盛大にゲロを吐きまくるという地獄絵図に……。


そんな様子を側から見ていたイグニスは呆れた様子で「スライスごときにこの惨状とは、本当に惨めだな。」と見下すように話すイグニスの姿があった。


はっと我に帰った義経は、迫り来るゲロを間一髪で避けると「助けてくれたのは感謝するが、俺の隣でゲロ吐くんじゃねえよ吐瀉物がッ!」とキレ気味に言うと、ことねは具合悪そうに「助けてもらってその言い方はないでしょ、俺だって吐きたくてオロロロロロロオェッ……思ったよりも魔力使い過ぎたかも。」と更に顔色を悪くしていた。


「貴様ら、このわたくしを無視するとはいい度胸だな。」


イグニスは無視されたことに腹を立てたのか、少し機嫌を損ねていると、義経はイグニスにやっと気づいたのか「イグニスてめぇ、お前の教えたやり方で戦ってみたが、体力の減りが半端じゃねえんだよッ!」とキレ気味で返した。


そんな義経の態度に呆れるかのように、ため息を吐くと「そりゃあそうでしょうに、戦闘中ずっと100%の魔力エネルギーを使っていたら、爆速で体力が減るのは当たり前だろ。そんな事もフレデリックから聞いてないのか?」と言われて、義経は少し黙ると「え、魔力って出す力の量を制限できるのか?」と訊き返した。


義経の返ってきた言葉に呆れる事なく、そしてフレデリックの全て教育は任せたという態度が理解できたイグニスは「なるほど、全てを理解した。これより貴様ら2人を死ぬほど扱きあげるから覚悟しておけ。」と怒りこもった言葉に、ことねは怯えながら「え、俺関係ないよね……。」と涙目になりながら訴えると、義経はことねに優しい笑みで「一緒に地獄に堕ちようや。」と全てを悟ったかのような顔をしていた。

義経のその表情に、ことねは泣き叫びながら「もう弱くてもいいから、いい加減解放してよおおおおおおお!!……本当に無理。」と秋川渓谷の森の中で、ことねの泣き叫ぶ声が響くのであった。

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