2話 アホの彦星と、いざ、島原へ




グッモーニン、京の町は今日も平和で異常なし!!

え?俺が何故こんなテンションかって?

それは、行きつけの甘味処で新発売のスペシャル・デラックス・恋はプリン味のパフェを堪能してるからだよ諸君。

え?なんで平安時代にパフェがあるんだよ!って?

俺も最初はそう思ったけど、気づいてしまったんだ。

ここは平安や江戸や昭和が混ざった世界だと……

ここでちょっと暇なので、この世界について説明しよう!


まず、髪型は俺たちのいた世界と、然程変わらない。

そして服装は着物やRPGなどでお馴染みの服装だったりと、色々とバラバラである。

因みに俺の普段着は装束だが、こうして町に出るときは牛若丸とバレないように袴を着て町に潜伏してるわけ。

だから長い髪も本当は切りたいんだが、あの腐れババアこと鶴さんが、源家に生まれたのなら、髪を切らないのが流儀だとか言いやがってクソめんどくせぇわけよ。

それで俺は、町に出かけるときは団子にしたりとか工夫しているおかげで、結構いろんな髪型を結べるまでに上達したわ。うん、全くもって嬉しくない



そしてこの世界では当たり前だが、人だけではなく、妖怪も普通に町中を歩いている。

まあ、みんな仲良くしましょうとか、そういう類の条約があるんだろ。よくわからんが。

それから町並みも、和風と洋風が混ざった綺麗な町で治安もいい、たぶん!

本当、京の町は平和でいいよなー



「おい、旦那!茶に髪の毛が入ってるってどういう事だ!!客を舐めてんのか?」



あーうぜぇ……俺の後ろでギャーギャー騒ぎ立てるチンピラが目障りで気に入らねぇ。

まあ、それはさておき、楽しみにしてた俺のデザート!

あぁ、この艶やかな可愛い色合い!

本当好きだわー!

でわ早速、いただきまーす!



俺はパフェを一口頬張ると、口の中で生クリームとキャラメルが絡まったプリン味のアイスの絶妙なコラボレーションは、最高に抜群に相性がいい!

さてと、もう一口……



俺がもう一口、パフェを堪能しようとしたその刹那。

さっき店主と揉めていたチンピラが、あろうことかテーブルを持ち上げ、そして今まさに、俺の目の前にテーブルが落ちてきたわけ……

あぁ、これもう俺に喧嘩売ってるってことでいいよな。

別にクレーマーが店で文句言うのはいいとして、人様に迷惑をかけるクズは別だ。

さーてと、どう甚振ってやろうかな。

そういえば昨日、風神斬りのスキルを兼房から教わって習得したんだっけ。

丁度いいや、コイツで試してみるか。



チンピラは店主の胸ぐらを掴んでギャーギャー騒いでいる中。

俺はチンピラの腕を掴むと、何時もより低い声で、おい、テメェ。ちょっと表出ろや。とチンピラを睨みつけながら言ったが、チンピラは俺が子供なのもあるが、嘲笑うかのように、鼻でフンっと笑うと、ガキは引っ込んでろ。と、あしらわれた。



こんなチンピラにガキ呼ばわり、確かに見た目は5歳児だが、精神年齢は28じゃボケェ!!!

あれから鬼のように兼房に特訓してもらったおかげで、俺もそこそこ強くなったわけよ。

というわけで、このチピンラを遠慮なくボコらせてもらいまーす!



俺はチピンラの掴んでた腕を強く握ると、そのまま店の外えと思いっきり投げ飛ばしてやった。

そして勢いよく飛んだチピンラは、目の前の店の中えと、豪快に突っ込んでいった。



まあ、俺の怒りがこれで収まると思うなよ。

ゆっくりと、チピンラが飛ばされた店えと向かい。

そこで気絶しているチピンラの胸ぐらを掴むと、チピンラが起きるまで、ビンタし続けた。




「オラ!どうした?ささっと起き上がらねえか、このクソ雑魚が!!お前が甘味処でイキってるせぇで、こちとら全然パフェを堪能できひんし、何が髪の毛が入っとったやぁ?んなもんどうでもええわ!!!ささっと俺のパフェ弁償せえや!!!!」



お店のことなど気にせず、俺は楽しみにしていたパフェを台無しにされたことが許せなくて、この怒りをチピンラに全てブチまけていた。だってこの怒り収まらないんだもん!


にしても奴は未だに気絶していて起きる気配がないな、よし、ここはビンタから拳に握り変えて、思いっきり殴ることにしよう!

俺は拳に切り替え、相手の頬に右ストレートを喰らわそうとした刹那。

誰かに腕を掴まれ、俺はチンピラの顔を殴ることができなかった。

てか誰だよ、俺の邪魔をした奴わ。



そう思いながら相手の顔を確認すると、何処かで見た記憶があるな。

えっと……



「義経!どうして君は、いつも僕のデートを邪魔してくれるのかな?」



あ、コイツ確か、こっちの世界で源家の家族で、そして俺の叔父の彦星だ。



女誑たらしのクズ星兄さんこそ、私によく盾突きますね。このこと織姫さんに言っても何も問題ありませんよね?」



俺はいつものスマイル営業でニコッと言うと女誑しのクズ星は訂正するかのように



「僕は女誑しでもクズ星でもないよ!!それと妻にはこのことは内密に願いたい、後で甘いもの奢るから、ね!」



野郎のウィンクが気持ち悪いのは、一旦置いといて、甘いものを奢ってくれるのか、ならお口チャックしてやらんでもない。

俺はチンピラの服を離すと



「しょうがないですね、この辺じゃゆっくりできないので何処か別の場所に移動しましょうか。それよりスケコマシ兄さんのお連れがいないみたいですけど、フラれたんですね。ざまあみやがれ」



俺がそう言うと、彦星はいい歳して頬を膨らませながら



「彼女が逃げたのは義経、君のせいなんだからね!義経はデザートの事になると見境なしに容赦ないから、相手に喧嘩売る時は少し手加減してあげな…ブォフッ!!」



彦星の顔がウザかったので、話の途中だがとりあえず殴り飛ばしておいた。

そのおかげで店の壁が崩れてしまったよ。



俺はムクッと立ち上がると気絶している彦星の襟元を掴み、そのまま店主の元に行くと



「大事なお店を壊してしまい、誠に申し訳ありません。壊れた部分はそこのチンピラに請求してください。それでももし足りませんでしたら、鞍馬寺に訪ねに来てください。その時は私の名前、源義経か牛若丸を出しても構いませんので」



俺がそう言うと、店主の顔色が一瞬で変わるのがわかった。

まあ、この辺というか京の町で源家を知らない奴はいないか。



「若様!お金関係のことでしたら大丈夫なので!」



と、慌て出す店主。

いや、迷惑かけたの俺なんだけどな。それに源家と言う肩書きで贔屓ひいきされるのも釈然としないし。

俺はそう思いながら、自分の財布から2両ほど出すと、これで修理代はなんとかしてください。と言うと、店主の顔が青ざめて行き



「若様!さすがに2両は!」



店主がまだ言いかけてるのを煽るかのように俺は、2両じゃ足りませんでしたか?と聞いた。

店主は頭を大きく横に振ると、ですから修理代は結構です!とお金を返された。



俺は少し悩むと、そうですか。でわまた何かあったら、いつでも言ってください。と言い残し、彦星を引きずりながら店を出て行った。




**********




その後、町の外に出た俺たちは、まだ気絶している彦星を起こすため、バケツ一杯分の水を用意した。

そして気絶している彦星の顔に、思いっきり水ビンタを喰らわせてやると、ビシャッといい音がなるのと同時に、グウォフッと一瞬で飛び起きる哀れな彦星。



「おはようございます。彦星さん。もう一杯お水でも飲みますか?」



俺がニコニコ笑うと、彦星は青ざめた顔で、水はもういいから、島原のお姉さんといい事しに行こう。と言った。


やっぱ彦星ってクズ人間の蛆虫以下だわ。


そして予備に残しておいたバケツを、水ビンタに使ったのは言うまでもない。



その後もクズ星から島原に行こう!遊郭はいいよ!とクズの発言が出るわ出るわ、これで既婚者とか本当クズの代表に間違いなく選ばれるわ。

それに俺は確かに男だが、まだ5歳児だぞ!頭の中にウジでもいるだろコイツ。



「義経、言っとくけど遊女と夜の営みをするんじゃなくて、島原にある芸妓さんと楽しみながら晩酌するのであって決して不健全ではなく、男に生まれたのなら健全に生きるべきだと思うよ!」



どっちみち、やってる事は英才教育に悪りぃんだよ!このクソハゲが!!

コイツといると調子狂うんだよ。

もうデザートはいいや、寧ろコイツの顔見ながらデザート食べるとか食欲なくすし。



俺は一度足を止めると、彦星の方を向いた。

よし、ここはきっぱり断るのが一番だ。

俺が、彦星兄さん。と言いかけてる途中で、このクズは俺を抱き上げると



「そうだよな!義経も男だしこういうのは経験あるのみ!」



と言いながら、かなりの速さで島原へと向かうのであった。



いや、待て!色々とおかしいだろ!!

子供を島原に連れて行くバカがどこにいる!あ、ここにいたか。


というより、このアホを誰か止めてくれえええええ!!!

俺はまだ大人の階段を登る気はねえんだよ!!!

というより島原に連れってたことが源家に知られたら、彦星まじで殺されるぞ。

まあ、俺の知った事でわないが。




**********



だいぶ日が落ちたのか辺りは火の光でキラキラと京の町を色鮮やかに賑わい、檻の中には客を待つ遊女たちが、こちらを不思議そうに見ている。

まあ、子供を抱えた大人がいたら、そりゃあ不思議だろうな。

そして今もなお、このアホの彦星に抱きかかえながら、夜の島原へと進んで行くのであった。


数分歩くと彦星の行きつけの店、紅桜という遊女ではなく芸者の舞妓?だがなんだか知らんが、そこの店に入ると、店主が驚いた顔で、彦星はんの息子どすか?と訪ねてきた。



その言葉を聞いた瞬間。俺は彦星の腹を蹴り上げ地面に降りると、くるりと振り返り店主の方を向き、一礼し挨拶をした。



「いつも彦星兄さんがお世話になっております。甥の若と申します」



俺が深々と頭を下げると、店主の方も深々と頭を下げた。

流石に本名や幼名を言うのは気が引けたので、鞍馬で呼ばれている名を言えばバレないだろ。

因みに彦星の名は偽名で、本名は自分でも覚えてないらしい。

なんでも、織姫さんとの婚約の誓いで名前を奪われたとかヤバイ話をチラッと聞いただけなので、俺もそこまで詳しくはないし知りたくもない。



彦星のアホもニヤニヤ笑いながら、何かし困ってんだよ義ぃいっ!!……と名前を言いかけたので、思いっきり足を踏みつけながら



「此処では若と言ってください。もし名前で呼んだら、タダじゃ済まねえからな」



と耳打ちしておいた。

でないとこのアホは絶対、名前で呼ぶと思うからな。



そしてお座敷に通され、部屋に入ると4人の芸妓さんとご馳走が並んでいた。

俺たちは部屋に入り、芸妓さんの間に挟まれながら腰を下ろした。



ーーー妖魔をあぶり出し滅せよーーー



座った瞬間に、脳内に文字が浮かび上がり、俺は少し考え込む姿をし始めた。

そんな様子に気づいた芸妓さんが、少し気にかける感じで、若くん、どないしはったん?と訊いてきた。



俺はすかさずニコッと笑うと、何から食べようか迷っちゃいまして。と答えた。



そう言えば以前に兼房から妖魔の事について勉強したっけな。

なんでも妖魔は、元は妖怪だった者がなりやすいとか。見た目は人間だったり妖怪だったり肉眼では区別しにくいが、サーチ・アイというスキルを持っている奴はすぐに判別できるんだけどなー……獲得しないかなー。




"義経はサーチ・アイのスキルを獲得に試みたが、失敗に終わった。"



え、何この無駄な茶番。

まじでいらないし、獲得と習得以外の無駄情報、いちいち報告しなくていいから。



"…………。"



なんか今度は拗ねやがった、クソめんどくせぇ奴だな。

まあ、コイツは無視して妖魔をどう見つけるかだな。

さて、どうしたものか。

取り敢えず、周りに使えそうな物がないか探してみるか。



"物知識のスキルを獲得しました。"



お!なんか使えそうなスキルをゲットしたぜ!

このスキルは説明書読まなくても大体は理解できるから読まなくていいや。

でわ早速、目の前の焼き魚でも試すか。



名前:イワシ


海水魚で、沿岸性の回遊魚である。遊泳能力が高く、群れで行動する。

全長は成魚で10cmから30cmほどの大きさ。

よく一般家庭では焼き魚やフライなどといった料理の種類が多い。



うん、思った通りだけど、このスキルって人にも使えるのか?

取り敢えず隣に座ってる芸妓さんで試してみるか。



"物や食べ物以外は対象外とさせて頂きます。"



まじか……結構いらないスキルだったか?

まあ、手当たり次第使ってみるか。

じゃあ次は無難に日本酒でもいくか。



名前:日本酒


主な原料は米、麹、水などの清酒。

他にも酒神と呼ばれる。酒の神様もある。

一説によると、とある陰陽師が日本酒で妖魔をあぶり出し退治したという説もある。

妖魔は日本酒に宿る神様に弱く、人間と妖怪とは違い、体温が異常に低いことで見分ける事ができる。




え、何この有能スキル。

めっちゃ使えるじゃん!

でも、見分けるには体温を調べないといけないし……

あ、そう言えば生前に女性にモテるために覚えた手相占いがあったわ!

まさかここで役に立つとは思わなかったぜ。



俺は日本酒を持ち、ニコニコと笑いながら



「皆さん、そろそろお酒はいかがですか?私が注ぎますよ」



と言うと、一人一人にお酒を注いでいく。

芸妓さんたちはお礼を言うと、すっかり忘れていた彦星が、あれ?俺には?と言ってきたので、頭からどっぷり残りのお酒をかけてやった。



「ちょつ!!若!僕の頭じゃなくてお猪口に注いでよ!!!」



俺は黒い笑みを浮かべ、彦星兄さんには怨がありますからね。と返した。

俺をこんな場所に連れて来た罪は深い。後で覚えておけよ。



「なんだろ……若の言葉から恩という言葉が感じられない」



まあ、コイツは放置して、早速手相占いでもやるか。

俺はまた、ニコニコと作り笑いをすると隣に座る芸妓さんの手を取り



「実は私、手相占いに興味がありまして周りの人から結構当たると言われるんですよ」



と言いつつ相手の体温を調べたが、この芸妓さんは白だな。



「まあ、ほんならウチの手相お願いしますぅ」



芸妓さんにそう言われ、手相を見てみると



「お姉さん凄いですね、モテ線があるじゃないですか!でもお姉さん綺麗だから男性に好かれそうですよね」



俺がそう言うと、彦星が俺のところまで来て、僕のも見て!と言われたので



「あー凄い凄ーい、浮気線と美人局線でいっぱいですねー。ATMさんお疲れ様でーす」



と、棒読みで教えてあげた。

なんて優しい俺なんだ。

彦星は少し怒った感じで、適当言わないでよ!と、気持ち悪い顔で言われた。


いやだって、野郎の手相なんて興味ねぇだろ、普通。



そんな感じの調子で、次の芸妓さんも調べてみだが、こちらも白。



「若くんが、あと10年後経ったら、ええ男に成長してはりそうどすな」



芸妓さんはニコニコ笑いながらそう言うと



「10年後経ったら、またウチの店においでやす。その時はいつでもウチが相手しはりますから」



と言った。

いや、遠慮しとくわ。

だってその時はお前、ババアな訳だし。

それに俺、熟女よりピチピチの若い子というより優香里みたいな女が好きだしな。

まあ、ここは社交辞令で返しとくか。



「はい、その時はよろしくお願いします」



さあ、次だ次!

そう思い、次の芸妓さんの手を取った瞬間。物凄い寒気に襲われた。


おいおい、まじで体温低いじゃねえか。

これは完全に黒だわ。てか氷並みに冷たいのな。

俺は芸妓さんの手を離すと



「なんだか少し冷えてしまって、お手洗いに行きたいのですが、厠を案内してくれませんか?」



目の前にいる芸妓さんというより妖魔を外に連れ出して、そのまま始末するのが一番だよな。

流石にここで殺り合うのはアウェーだし。

芸妓さんがニコッと笑うと、ええどすよ。と答えてくれた。



「ちょっと待って!!詩織ちゃんは僕より若を取る気なの!だから今日のデートも勝手に帰ったんだね!!」



まじでコイツ空気読めねぇうえに、女々しくて、うぜぇわー。

顔は良くても、やっぱコイツ超絶クズ男だわー。


俺はクズ星のところまで行き、肩に手を置くと、力一杯にミシミシというまで握り潰しながら、クズ星の耳元で



「クズ星兄さん、芸妓さんが5歳児の子供を本気にするわけないだろ。それともまだなんか文句言いたいわけ?」



更に力を込めようとした時点で、鼻をすすりながら、ずびまぜんでじだ。と潔く謝った。



俺は軽く舌打ちをすると、彦星から手を退け、詩織と言う名の妖魔の元へ行き、でわ、ご案内お願いします。と、笑顔を忘れないように言った。

若干、周りの芸妓さんたちが引き気味だったのは言うまでもない。



俺たちは廊下に出て、厠へ向かってる最中に誰もいない事を確認すると、妖魔の袖を掴み、少しモジモジさせながら照れ臭そうに



「実は厠に行きたいと言うのは口実で、本当は2人っきりで夜の散歩に出掛けたいと思いまして、その、一緒に夜の散歩に付き合ってくれませんか?」



少し上目遣いで、あざとさをアピールしてみたんだが、とあるクリ坊主頭の5歳児に負けないくらいのマセガキだな。

宮間稔だった頃の5歳児の俺は、近所のガキたちと、よく川でザリガニ捕まえてわ、人の家のポストにザリガニ入れてたなー。あの頃のガキに戻りてえわ。


って今は過去の要因に浸ってる場合じゃねぇ。コイツがYESと答えてくれなきゃ、神の願い事も聞けないし。何より失敗したら、ペナルティーとか喰らいそうで怖いんだよな……ここは、チャッチャッと終わらせて早く帰るか。



詩織は、クスッと笑うと、ウチで良ければええどすよ。と返事を返してくれた。

よし来た!あとはこの女の化けの皮を剥がしてやるだけだな!



俺は詩織の手をさりげなく握ると、詩織もニコッと笑い。握り返してくれた。

これさぁ、行動的には積極的なイケメン(仮)男子だが、はたから見たら仲の良い姉弟にしか見えないよな。

まあ、転生して赤ちゃんからやり直してるわけだから仕方ないか。

とりあえず人気の少ない所に連れて行き、その場でやっちゃえばいいだろう。


だんだんと人気ない暗い場所まで行くと、詩織も少し気になったのか



「若くん、夜の散歩この辺にして、そろそろ皆の所に戻らへん?」



と言い始めた。

俺は詩織の手を離し、少し前に進むと、クルッと後ろを振り向いた。



「何言ってるんですか。夜はまだ長いんですよ。それにまだ、詩織さんを楽しませてないですし、それとも今ここで私と楽しい事しちゃいましょうか?」



と、5歳児とは思えない妖艶な微笑みを浮かべてみせた。

実際には顔は見えないが。


詩織もクスッと笑うと



「ホンマ、不思議どすな。若くんのオーラからは、そこらにいる人間とは違い、別のオーラを感じますわ。それもあの方の言った通り、神の転生者だからどすかな」



なんだ俺の正体バレてんのね。

なら話は早いわ、もう猫被るのやーめた。

それよりも、あの方という言葉は気になるがここは先手を取るが勝ちだな。


俺はニッと笑うと、俺の正体バレてるのなら、遠慮はいらねぇな。と言うのと合図に、その場から素早く消え。

気付かないように詩織の背後に詰め寄ると同時に鞘から太刀を引き抜いた。



カキンッという刃と刃のぶつかる金属音が響くと、詩織も小刀で俺の太刀を受け止めた。

やはり簡単には殺させてくれないか、と少し残念な気持ちになりながらも、一歩下がると、体制を整えた。



「少し聞きたい事があるんだが、お前の言うあの方って、俺と同じく転生者の者なのか、それとも神に慕える配下なのか、どっちなのか答えてもらおうか。まあ、答えなかったらその身体に嫌という程叩き込むまでだがな」



これ絶対、主人公が言う台詞じゃねぇよな。

そもそも俺みたいなクソな性格が主人公な時点でアウトなんだけどな。

それに女に手をあげる奴はクソだと言うが、敢えて言わせてもらおう。

クソみてぇな性格ブスの女は女じゃねぇ!!

しかもこの女は人間じゃないうえ、妖魔だから殺しても何も問題ない!

ついでにあのクズ星も、あとでぶん殴っておこう。



やべぇ、怒りのあまり1人の世界に入る所だった。

さて、このクソ妖魔はなんて答えるかな。



「そうどすな……この喋り方めんどくさいので普通に喋らせてもらうわ。

さて、貴方が知りたいお方は、前者よ。そうね、私とあの方が出会ったのは今から1週間前の暁八つ(午前2時)だったわね。その時の私はまだ妖怪から妖魔になりかける頃だったわ」



あ、これ自分語り始まるパターンじゃん。

こういうのって話長いうえにクソエピソード聞かれる身にもなれよ。

まあ、あの方っていうのが転生者だと分かったわけだし、それだけで十分だわ。



クソ妖魔が自分語りに集中している隙に、俺は一気に妖魔に詰め寄り斬りかかった。

だが今度は、ガキンッと重く鈍い音が響き渡ると、妖魔の目の色も赤黒く変化していた。



「クソガキが!!人が話してる最中に何するんだボケェ!!アタシは、お前を殺して、神の域を達するんだ!!その為にも死ねぇええええええ!!!」



はい?俺を殺す?

バカなのかな?俺を殺すなんて100億年早えよ!

っておいおい、まじかよ……

コイツ、ガチで化け物になりよった……



本来の妖魔の姿であろうその身体は、鋭い牙に大きな耳、うん、どっからどう見ても人狼そのものだわ。

てかヤバイだろ、ありえん馬鹿力だし、俺の身がもたない。



俺は咄嗟に身を引くと、風神斬り以外に超音速スーパー・ソニックというスキルも獲得してるんだよな。

このスキルは文字通り、めっちゃ素早い!と思えばいい。語彙力なさは、あまり気にするな。


そうと決まれば超音速スーパー・ソニックを使用して、瞬殺狙いで行くか。



早速、超音速スーパー・ソニックを使ってみたが、何これ!身体が軽やかで、風になった気分なんだが!簡単に言えばジェットコースターに近い。

それじゃあ手始めに腕を斬ってみるか。



妖魔は俺の速さについていけないのか、意図も簡単にスパッと腕を斬り落としてやった。

その激痛に妖魔は、苦痛な悲鳴と荒い息遣いで悶えてるみたいだ。

ヤバイ何これ、癖になりそう……。



よし、次は左脚を狙うか。

俺はまた軽やかに左脚を狙いに行ったが、そこで少し油断をしてしまった。

左脚に集中し過ぎて、妖魔の左手の攻撃に気づかず、そのまま思いっきり左肩を負傷してしまった。



「ウグッ!!……妖魔風情が調子に乗るなよ、もうお遊びは終わりだ」



ヤバイヤバイヤバイ!めっちゃ肩痛い!泣きたいくらい痛いんだが!まじで許さん!!絶対許さねえ!!

てか、肩が焼けるように痛いんだが。

カッコつけて言ったが、実際は涙目でこの台詞言ってるだなんて口が裂けても言えない!まあ、夜だから顔が見えないのは助かったよ。



さてと、弱音はここまでにして、あまりスタミナも使いたくないし、超音速スーパー・ソニックを使いながら風神斬りで、会心の一撃狙いで決めるか。


今の妖魔は、右腕と左脚がない状態たがら、下手に動くことはまずない。

この様子じゃあ回復もなさそうだし。

それじゃあ、楽にさせてやりますか。



俺は素早く妖魔の所まで行くと、妖魔は俺を睨みつけながら、アタシはお前を殺して神になるんだああああああ!!と、また左手で攻撃しようとしたが、俺はその攻撃を軽やかにかわした。



「残念だが、ここで死ぬのはお前だ。まあ、恨むなら俺じゃなくて、お前がなりたかった神を恨むんだな」



俺はそう言うと、風神斬りを使い、妖魔の身体は一瞬でバラバラに肉の塊えと成れ果てた。



うへ……妖魔の血で服が汚れちまった。最悪だわ…。



ーーーおめでとうございます。闇の属性を獲得しました。ーーー



え?闇属性?

これ完全にダークサイドじゃねえ?

まあ、光よりはカッコいいからいいけど……なんだろう、どうせなら火属性が良かったな。




ーーー腐蝕の鉄槌を獲得しました。暗黒物質ダーク・マターを獲得しました。暗黒霧ダーク・ミストを獲得しました。ーーー



おい、超音速スーパー・ソニックもそうだが、読み方英語なのに何でも漢字で表すな!厨二病かテメェわ!!

まあ、こんなのに一々気にしてたら負けだよな。

スキル内容は、また今度でいいや。

てかめっちゃ肩痛いわー!!!

回復薬を誰かくれっ!!!



ーーー神の治癒を獲得しました。ーーー



お、グッドタイミング!流石だわ。

よくわかってんな!普段からこうだといいんだけどな。

それはさて置き、使ってみるか。

お、なんか手が温かく感じて来たわ。この手をさっきやられた所にやってみるか。


おお、なんか心まで癒されていく感じが凄くいい。

あ、でもこれ、痛みが和らぐだけで傷口までは治さないんだな。

まあ、痛みだけでもなくなると便利で結構いいかも。


俺が1人癒されていると、突然声が聞こえ、お疲れ様です、若様。と声をかけられた。



この声は兼房か?

俺は声の主を探してみると、そこにはやはり兼房の姿があった。



「いつからそこに居たんですか?」



俺がそう訊くと、いつもの無表情で、若様が、出かけた時から見張ってました。と答えた。

全く気配も感じなかったし、え、最初っからつけてたの?

何このストーカー怖いんですけど。



「最初っからつけていたのなら、なぜ彦星兄さんが島原へ連れて行った時止めなかったんですか?お陰で妖魔と戦う羽目になったんですよ」



俺がそう言うと兼房は、そのお陰で属性がついたので良かったじゃないですか。と澄ました顔で言いやがってきた。

兼房の態度になんか腹が立つんだよな。



「けど、色々と疑問に思うことがあるんですよね。妖魔に訊きたくても、死人に口は無しって言いますし、そもそも転生者が誰だったのか、なぜ私だったのか。謎だらけですよ」




まあ、妖魔が人間にとって最悪をもたらす悪魔なのはわかるが、転生者は他にもいるだろ。

本当に迷惑もいいところだよ。

まさか兼房の差し金入りか?


チラッと兼房を見てみると、呆れる様子もなく、俺の思ったことを口にし始めた。



「残念ですが、妖魔に吹き込んだのは私ではありませんよ。私もそこまで鬼ではありませんし。何より妖魔が言っていた、転生者を殺して神になるなど決してあり得る話ではありません。恐らく、若様の命を狙った転生者が仕向けた話でしょう。

そして若様の身内である彦星様を操り、その流れで島原へ連れて行き、妖魔がそのまま若様を始末するという考えが妥当かと思われます」



まじかよ彦星最低だな。

あとでボコっておかなきゃ気が済まねわ。



「大体の流れはわかりました。要するに、私を狙う者が現れるわけなんですね。できれば平穏に暮らしたいのですが、私の命を狙う転生者を潰さない限り無理そうですね。」



正直めんどくさくなったな。

これからも、こんな事があと何回もあるわけだろ。

考えるだけで恐ろしいんだが……

てかもう痛いのとか勘弁してくれよ…それに転生者だからって強いわけじゃねえんだから、普通の人間となんら変わらないんだぜ、まじで。



「それでは若様、そろそろ鞍馬寺へ戻りましょう。あまり遅いと、お鶴さんが煩いので」



確かに鶴婆は怒らせると怖いし、何より説教してる時に、よく入れ歯が外れて俺の顔面に飛ばしてくるのは、割とマジで本気でやめて欲しい。

毎回避けているけど、いつか当たるんじゃないかっていう恐怖がもうね。アレだわ……



「それもそうですね。ところで倒した妖魔の残骸がないのですが、兼房が処分したのですか?」



さっきまであったはずの妖魔の亡骸が跡形もなく綺麗に消えてるなんて、あり得ないしな。



「ええ、そうですよ。まだこの時間でしたら普通に民家の人も通りますし、後々面倒なので処分しておきました。一応、戦闘中は周囲にバレないよう結界を張って野次馬予防もしてたんですよ。次からはご自分で結界を張ってくれるといいんですがね」



「やはりそうでしたか。色々と助かりました。結界の方は努力してみます」



確かに兼房の言う通り、結界があれば便利だが、さっき獲得したスキルの中にあったらいいんだが。

まあ、とりあえず今日は本当に色々と疲れたから、もう帰って寝るか。




*******




翌朝。昨夜の出来事から帰って来た俺は、案の定というか鶴婆に説教マシーンを受ける羽目に…今回もなんとか入れ歯攻撃を回避し、無事事なき事を終えた。

全てはクソ彦星のせいなのにな。

結局、転生者の犯人も迷宮入りだし!


あぁあああああああっ!!!

すこぶる機嫌が悪いぜっ!!

この怒りを、どこにぶつければいいんだよっ!!!



「あ、義経。おは…グゥオフッ!!」



丁度いいところに、サンドバッグじゃなくクソ星が来てくれたおかげで少しスッキリした。

いや、マジでグッドタイミング。昨日のこともあるしな。



「もう!義経ひど…フォンッ!!」



起き上がって来た彦星に続けて、俺は昇竜拳というの名のアッパーを喰らわせてやった。

これでも一応、手加減してるだぜ!

俺の優しさに感謝しろよな、すけこまし。


俺は寝そべっている彦星の胸ぐらを掴むと、さて、昨日の腹いせでもしようじゃないですか。と言った。


それを聞いた彦星は顔を青くして



「ちょ、ちょっと待って!昨日の腹いせって何?僕何か悪いことした!?」



と言い始めた。まあ、無理もないか昨日の記憶はぶっ飛んでるみたいだし、でもな…俺は腹の虫が収まらねぇんだよ。

ホントこの間抜けな顔に、風通しが良くなるまで風穴を開けてやりてえわ。



「義経が怒らせるようなことなんてしてないよ!それに昨日はなぜか島原の…ヒィッ!!」



島原という単語を聞いただけで昨夜の出来事をつい思い出してしまい、彦星の顔ギリギリのところで小刀を突き立ててしまった。

まあ、つまりこれはあれだ。防衛本能に近いソレと同じだ。

俺は彦星を冷たい目で見下ろすと



「今回は2発だけで許してやるけど、二度と俺を島原へ連れて行こうなんて思うなよ」



と言い、地面に突き刺さった小刀を引き抜き鞘に収めると、次は絶対ないから、覚えておけよ。と言ってその場を去って行く。


置き去りにされた彦星は、涙交じりで、ずびまでんでじだ!!と大きな声で謝った。



ちょっとやりすぎたか?

いくらなんでも記憶ない奴に酷な事をしてしまったな。

俺も少し反省しなくてわ。



「あ、聞いてよ桜ちゃん!義経ったら何にも悪くない僕を殴ったんだよ!しかも2発!2発だよ!信じられないよね…ヒィッ!!」



俺の悪口が聞こえたので、咄嗟に鞘から小刀を抜くと、そのままアホの彦星の足元に、クナイを投げるかのように小刀を飛ばしてやった。



どうやらあのアホには手加減は無用のようみてえだな。

反省した俺がバカみてえじゃねえか。

俺は喚き散らしている彦星を無視して、そのまま稽古場へと移動した。

まあ、昨日獲得したスキルも気になるしな。



稽古場に着くと、人がいるわけもなく。

ただ静寂だけが、広がっている。

俺は早速、近くにある人型の丸太に行き。

腐蝕の鉄槌のスキルを使ってみた。

まあ、スキルの内容を読むのもいいが、やはり実践あるのみって言うじゃん。

簡単に言えば、テレビゲームと同じく説明書を読まずにプレイするタイプな訳。

でも意味わかんないゴミスキルが出た場合は読まざる終えない訳なんだがな。



そして、腐蝕の鉄槌を使ったことによって、腰に差していた太刀から、魔力が伝わってくるのがわかった。

俺はそのまま鞘から太刀を引き抜くと、刃の部分が黒い炎で燃えていて、正直ダークっぽさがあってカッコイイ。

俺もうダークヒーロー路線で行くわ。

この際、世界征服とかやっちゃう?

って言っても世界征服って何をすればいいんだ?

まあ、実際めんどくさいからやる訳ないんだけどね。

とりあえず試し斬りでもしてみるか。



人型の丸太を、スパッと斬ってみると、腐蝕というだけあって斬った部分が黒く侵食されて行くのが見てよくわかる。



あ、これ完全に斬られたらヤバイやつだ。

そういえば効果時間とかスキル使用者が刃の部分触っても影響ないか、内容読んどくか。


内容を読んだ感じ、まずスキル使用者は黒い炎を触っても効果は無く、触れても死ぬ事はないんだな。

じゃあ、俺の太刀はな、たっぷりと腐蝕された毒の刃だ。とか言って間違って舐めても死なないパターンね。

まあ、絶対こんなセリフ言う機会がないな。

次に効果時間だが、今の俺の強さの現状だと3分が限界みたい。

ちなみにMAXで5分、使用回数はないが、次の使用時間までに1時間はかかる。

まあ、スキルは一個だけじゃないし、戦闘時間が長引かなきゃ問題ないな。

因みにスキル使用者以外が黒い炎に触れた場合、めちゃくちゃ痛いらしい。そして普通の人間は黒い炎に包まれながら、生き絶えるまで苦しみながら死ぬとか書いてやがるよ……恐ろしい。


それじゃあ、お次は暗黒霧ダーク・ミストのスキルを試すか。


お、このスキル名前の通り、辺りが黒い霧で覆われてきたな。

もしかして毒ガスか何かなのか?

よくわかんないから、これも内容読んどくか。

なになに、暗黒霧ダーク・ミストの効果は、視界(スキル使用者と無効化のスキルを除く)を妨害するだけではなく、結界を張る効果もあります。

え、無効化とかいうスキルなんてあるの?

何それ、どうやったら手に入るの?

といより、俺のゴミスキルと交換してほしいんだが。特に暴怒のスキル!お前まじでいらねえんだよっ!!


暗黒霧ダーク・ミストにあともう一つ効果があり、それは戦闘に人間が出くわした場合、見た記憶を消す事も可能らしい、ただし普通の人間にしか効果はないみたいだ。まあ、可もなく不可もなくと言った、普通のスキルだな。でも結界あるだけマシか。


そして最後は暗黒物質ダーク・マターのスキル。まあ、これはゲームとかで名前は聞いたことあるな。

一体どんなスキルなのか少し期待してるんだよな。


早速、暗黒物質ダーク・マターのスキルを使用してみると、俺の周りに無数の小さな黒い球の数が現れた。

なんだこれ?と思いながら触ってみると、何この手触り癖になりそう。と思わず口にしてしまいそうな、心地いい手触りをしている。

例えるならマシュマロといった感じだ。


これって一つに纏まれって命令したりできるのかな?

よし、試してみるか。一つに纏まれ!



俺が黒い球に指示を出すと、一気に小さな黒い球から大きな黒い球へと変化した。

やっぱり、そうか。この黒い球たちは、主人である俺の指示で動くわけね。

それじゃあ、散らばれっ!



俺がまた指示を出すと、最初と同じく小さな黒い球へと戻った。

なんか黒い球だとアレだから、黒助って名付けよう。

じゃあ、黒助。鋭い針に変化しろ。

黒助たちは俺の指示通り、鋭い針へと変わり、いつでも攻撃バッチリといった感じだ。



それじゃあ手始めに、俺の場所以外、斬り刻めなんつってー……


俺が軽い気持ちでそんな指示を出してしまったせいで、無数の黒助たちは、俺の場所以外、斬り刻み始めた。



「え、ちょっと待って……君たち冗談も通じないの……あぁ、もうやめて…こんな所、兼房にでも見られたら……」


「私に見られたら、何か困る事でもあるのですか?」



………なんでこう、いつもベストタイミングで現れるかな。まじでこのストーカー怖いんだけど。

というより気配すら感じなかったよ。

とりあえずここは何か言い訳でも言うか。



えっと、これはそうですね。と、口は開いたものの、さっきまであったはずの稽古場は、壁も天井も綺麗さっぱりなく……地震で崩壊したような建物が目の前に広がっているだけ……これもう言い訳しても無駄じゃね。

だが俺は最後まで嘘を貫く男だ。言い訳の一つや二つ言ってやろうじゃねえか。



「前まではここに、それなりの立派な稽古場が建っていて、見た目もそれなりに良かった。

ですが、何か一つ足りない。そう思った主人は思い切って一大決心を決めました。


そしてなんと言う事でしょう、以前とは比べ物にならないくらい、見晴らしのいい稽古場がそこにあるではないでしょうか。匠の手によって、壁と天井を綺麗に……」



チラッと兼房を見てみると、無表情で俺のことを見下ろしてやがる……

そして俺が少し黙ると兼房が、若様、話を続けないのですか?と言ってきやがった。

残念だが、これは俺の負けだ。

ここはちゃんと説明をして謝るか。



「実を言いますと昨日獲得したスキルを試してみたくて、その中の暗黒物質ダーク・マターというスキルを使ってみたら、こうなりました。稽古場を壊してしまい、すみません」



俺が深々と頭を下げると、兼房は右手を前に伸ばし、大体のことは予想してました。と言うと、崩れ落ちた壁や天井がみるみるうちに修復され、気づいたら稽古場が元通りに直っていた。



「それでは若様、これから色々とスキルの使い方の練習をしましょうか。また建物が壊されたら修理するのは私なのでね。それに使え方さえ覚えてしまえば、後が楽ですし。さあ、始めましょうか」



「……気持ちは嬉しいんですけど、今日はちょっと…その……ご指導の方、宜しくお願いします。」



結局俺は、兼房の鬼のような指導を受け。

また新たに強くなったような気がする。

いや、最初の頃よりは強くなったよな。

あれ?最初っていつの話だっけ?結構最近か?まあ、いいや。



「若様っ!私がいつ余所見をしていいと言いましたか!そのたるんだ体を一から鍛え上げてあげますので、死ぬ覚悟で行きますよ!!」



え、ちょっ待って……無表情の男が初めて感情見せたんだけど!!しかもスパルタとか、まじいらねええええええっ!!!



「だから余所見をするのと言ってるでしょがっ!!」


「わかりましたから!俺…私に刀を向けないでください!!」



こんな兼房嫌だあぁあああああああ!

いつもの兼房に戻ってえぇええええ!!

どこで兼房のスイッチが入ったのかわからないけど、次からは絶対に、鞍馬の敷地内でスキルの練習をしないと心に誓った瞬間であった。

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