バトルシーンだけ書いてみた。

碧音あおい

バトルシーンだけ書いてみた。習作。


 黒髪の少女が深く息を吸う。

「よろしくお願い致します」

 凛とした声で折り目正しく一礼してから、カーボン製の木刀を両手で真正面に構える。

「ま、お手柔らかに頼むぜ。お嬢さん」──赤茶けた髪をした青年を見据えながら左足を半歩後ろにずらし/右肩をわずかに前に出し、重心の位置を整える。

 3メートル先にいる青年は軽い笑顔のまま両腕をだらりと下げている──その左右の手にはそれぞれ小脇差ほどの棒きれ。ラフな服装で両足を肩幅くらいに広げ少女と向かっている/紫の瞳は真っ直ぐに少女を見ていた。

 少女はゆっくりと息を吸って、吐く。蒼い瞳は青年から外さずに/動かさずに/ぴたりと木刀で捉えたまま。

 そのまま、数秒。

 柔らかく吹いていた風が、凪ぐ。

 先に動いたのは少女の方だった。

「──はぁっ!」

 裂帛の声と共に大きく前へ踏み出す/相手の懐へと瞬時に飛び込む勢い/同時に木刀を真横に倒す──狙うは胴──草履の爪先が地面を抉る/胴衣の裾がたなびく/木刀を横一直線に振り抜き──けれどそれは命中することなく空だけを切った。

 青年の軽やかなバックステップ/白いシャツがちらりとめくれる──そのまま隙だらけの少女の手へと目掛け片手で棒きれを振り下ろす/少女が返す刀でその寸前に受け止める/青年の笑みが深くなる。少女が両手で力を入れて棒きれを払うと、青年はまた後ろに距離を取った/少女はその間に体勢を立て直す。

 次に仕掛けたのは青年の方だった。少女が持ち直したと見るや先刻の少女の踏み込みよりも尚より速く、瞬時に距離を詰めた/笑みが消える/体勢を低くする/重心を前に移す/左の棒きれを逆手に持ち替える──狙うは首──左手をなお握り込む/気付いた少女がハッと目を瞠りつつも条件反射的に屈む/長い黒髪が空気に踊る──青年の視界が一瞬だけぬばたまの黒にとらわれる/身体を横にずらし片膝をついた少女が、青年を正確に視認するより先に柄の部分で肘の骨を狙う──ごっ! とした手応え。けれど骨ではなく筋肉だと、見ずとも感触で理解する。

 青年はしっかりと棒きれを握り締めたまま──逆に肘を折り曲げて力を入れ直し/肩を中心とした振り子の要領で、棒きれの先を木刀の横っ面へと打ち付けた。

「くっ──!」

 強く握っていたはずの木刀が弾き飛ばされる/驚くほど呆気なく/何故かそれだけで手がひどい痺れを訴えてくる──少女は届かなくなった木刀に悔しげな視線を刹那だけ送ると、足元の砂をがりりと引っ掴み青年の顔面目掛けてぶちまけた。

「うわっ!?」

 青年が初めて狼狽した声をあげる/目に入らないようにと左腕で顔を庇う/その隙に少女は青年の右脇に回り込む/目の前の手首へと目一杯の手刀を叩き込み──低いくぐもった声の後、がらん、と音を立てて棒きれが地面に落ちた。少女は素早くそれを拾う/猫のような動きで青年の背後に移動する/けれど攻めに転じようとはせずに、一定の距離を空けて、深く深く、息を吐いた。

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バトルシーンだけ書いてみた。 碧音あおい @blueovers

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