第二章 砂漠の氷

第16話 帰って来た従者

「あ、のっ!アル?えっとー、そろそろいい?」


アルベルトが抱き付いて来て、1時間だったような気がするし、20分だったような気もする。

私は段々とこの状況が恥ずかしくなってきたのでアルベルトに声をかけたのだ。

いい加減離してくれるかな、と思って。

しかし、返事は返ってこない。

アルベルトは立ったままなので、寝てるわけではないだろう。

聞こえなかったのでは?ともう一度声をかける。


「アル?アルベルト?」


のそりとアルベルトは私の肩から顔を上げた。

その目は煌々と輝いており、さながら獲物を狙うよう。

アルベルトの顔があまりにも近すぎて、目を背ける。


「なんで目を背けるのですか?」


アルベルトは真面目な顔でこちらを覗き込んで来た。


「……いや、だって」


私はまた目を背けた。


「だって?」


「…いいから」


蚊の泣くような声しか出なかった。

案の定、アルベルトは聞こえていなかったようで聞き返してくる。


「え?何て言いましたか?」


「もう、言わない」


「顔を真っ赤にさせて、可愛いですね。いいですよ、聞こえてましたから」


私は恥ずかしさのあまり、口をぱくぱくと開いた。

アルベルトは聞こえていたのに、聞こえないふりをしていたらしい。


「いじわる。もう、知らない」


アルベルトの胸に手を付き、それを力強く押した。

のだが、アルベルトはぴくりとも動かない。

アルベルトはいつも軽口を叩くから信じられない。

他の女の子にも同じ言葉を言っているのだと思うと、胸がちくっ、と痛んだような気がした。

最近、女王らしく無くなっているような気もする。


「嘘です。シェリー、こっちを向いてください」


アルベルトは眉毛を下げ、悲しそうな顔を作る。

ちらりと彼の顔を見て、許してやろうと口を開きかけた時、部屋のドアが開いた。

顔を向けると、キャシーと城から来たと思われる数人の騎士と従者が立っていた。


「女王様。御無事で何よりです。ここ2日生きた心地がしませんでした」


始めに前に出てきたのは1ヶ月程隣国に行っていた、私付きの従者兼左腕のカルロス・ジェームズだった。

マーティン宰相とは違い若く、騎士団特有のムキムキな体をしている。

褐色の肌に黒い短髪も騎士らしさを醸し出していた。

その彼が戻ってくるということは、重要な事が分かったのだと思った。

彼に直々に任務を与えたのは私だったのだから。


「ええ、ごめんなさい。それで、カルロス、分かったのね」


「はい。やはり、貴女の言うとおりでした」


そう、と呟き、ため息が出た。

嫌な予感は当たってしまったようだ。

一難去ってまた一難。

いつ平穏は訪れるのか、と私はぼんやりカルロスを見た。



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