第13話 孤独からの救出

※流血描写があります。

苦手な方は飛ばして下さい。

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近づいて来た男は言った。


「ご無事ですか」


と。

私は呆然として男を見た。

今まで見たことが無い男だったが、私が来たのは今日、いや、昨日?なため、全員を見ているとは限らない。

そのため、彼が誰か分からないのは必然である。


「シェ、シェリー、知り合い?」


セルビナが私に顔を寄せ、聞いてきた。

私はふるふると顔を振り、否定する。


「シェリー?シェリーと名乗っておられるのですか、シェルナリア様」


涼しげに吐き出された言葉。

夜にしか聞いたことの無い言葉。

敵の、言葉。


「怪盗ステラ」


「ふふ。えぇ、シェルナリア様。お助けに参りました」


扉からの逆光で顔が暗く、細やかな表情までは分からない。

しかし、余裕綽々とした表情で笑っているだろう事は想像に難くない。


「なぜ貴方がここに居るの?貴方はこの組織の仲間なのかしら?」


ここに無傷で居ることなど不可能に等しい。

何人もの男達が武器を1つは手にしているだろう事は、ここの女性達に聞けば分かることだ。


「いいえ。私が無事で居るのは、私の仲間が強いからですよ」


怪盗ステラは私に手を差し出しながらいった。

掴まれ、ということかしら。

私は恐る恐るその手を両手で掴んだ。

怪盗ステラの手はゴツゴツと男の人なのだと言うことが分かる。

私の手をしっかり掴み、引き上げ、立たせてから手の縄と足の縄を切ってくれた。

見てみると、案の定、私の足に跡が残ってしまっていた。

怪盗ステラは私の足を持ち上げ縄を切る状態のまま、私の足にキスをしたらなかったが。

私は一瞬、何が起こったのか分か、セルビナがニヤニヤしているのを見て状況を逃避せずに理解した。


「……なっ、何するのよ!」


思わず、怒鳴り声を上げてしまうが、そういえば敵のアジト?に居るのだったと思い直し、慌てて両手で口を押さえた。

見つかってしまったら、ろくなことにならないことは必須だった。

その様子すら、怪盗ステラはニコニコと見ている。

その時、私はあることに気付いた。


「……貴方、その、顔……」


そう、顔である。

今、彼はお面をしていない。

そのため、素顔丸見え状態だ。

しかもその顔は、髪の色は少し違えど、あの、旅芸人のアルベルトと瓜二つだった。

よく考えてみれば、彼の声は怪盗ステラと同じだった。

気がつかなかった、否、気がつかない振りをしていたのは、この日々を壊したくなかったからだ。

彼の招待が分かってしまえば、捕まってしまう事は必須。

私は女王だからこそ彼を〝見逃す〟という選択を取ることは出来ないのだ。

私は心底女王という立場を恨んだ。

それは顔にまで現れていたようだ。


「シェルナリア様。何を悩んでいるのか分かりませんが、大丈夫ですよ」


そんな私の顔を見た怪盗ステラ──アルベルトは私の頬をつねって来た。

優しくつねっているからか、痛みは然程感じなかった。

私が鈍いだけかも知れないが……。

彼はゆっくりと頬から手を離した。


「……な、何が、大丈夫なのよ!私は貴方を捕まえなければならないのよ!」


今まで心に溜め込んでいたものが一気に飛び出してきた。

それはこの状況への不満ではなく、女王という立場からくる圧力プレッシャーの弱音だった。


「私は本当は女王なんてやりたくなかったわ。でも、でも、父上が、先代国王が築いてきた平和を崩す訳にはいかなかった!だから、私しかいないって!私は女王じゃない!女王は本当に欲しいものを手にいれることは出来ないの。なんでよ。なんで、なんで、私は独りなの?独りは嫌!私の周りには沢山の大切な人がいるけど、私の心は大切にしてくれない。なんで?もう、女王は嫌。私を連れ出して欲しいの。貴方の私への愛は嘘?」


私は自分が何を言っているのか、理解していなかった。

ただただ、今のどうにもならない気持ちを誰かに聞いてもらいたかった。

目には涙が浮かび、数滴、頬を滑り落ちた。


「シェルナリア……」


「失礼します。団長、任務完了です。女性達の解放に移行します」


突然、扉から声がしたと思ったら、キャシーだった。

踊り子の姿からは想像出来ない、顔以外の全身に鎧を纏っていた。

キャシーは顔を上げ、こちらを見てきた。

そして、つかつかと歩みよりアルベルトに説教をし出した。


「だ、団長!なんで泣かせているんですか!?女性にはあれほど優しくしろと言い聞かせているのに、何故貴方は……」


ぐだぐだと続きそうだとうんざりしていたアルベルトだが、私が事の経緯を説明することで止めることに成功した。

まだ不満そうなキャシーだが、私は気にしないことにした。

いつの間にか涙は止まっていた。

頬についた涙の跡を拭う。


「色々聞きたい事はあるかもしれないけど、後で説明します」


キャシーは顔を引き締め言った。


「ああ、頼む」


アルベルトは私の手を引き、部屋を出た。

セルビナや他の女性達が驚いた顔でこちらを見ているのを、私は気づかなかった。


長い廊下を歩いていると余裕が出てきて、繋いでいる手が気になってくる。

手汗をかいていないか、とか普段は気にしないことなのに気になる。

その間もアルベルトは無言で歩く。

少しして、突然止まった。


「ここから死体がありますが、怖ければ目を瞑って下さい。それか、私が抱えてお運びしましょうか?お姫様抱っこで」


アルベルトは振り返り、私の目を見て言った。

私は顔が熱くなるのが分かった。

そして、左右にふるふると弱々しく首を振った。


「そうですか、残念ですね。では、行きますよ」


そこは死体が何十と積み重なっていた。

黒ずくめなので、敵だと容易に想像がつくがむごい。

あちこちに血が飛び散り、絵を描いていた。

私は思わず目を反らしてしまった。

女王であったため、このような光景は見たことが無かったからだ。

陰鬱といた空気がそこにはあった。

私はアルベルトと手を繋ぎ、必死に歩いた。

気を失わないように。

しかし、後少しで扉という所でガシッと何かに足を掴まれた。

思わず目を瞑り、悲鳴を上げる。

近くにいたアルベルトはうるさいだろうな、と言うことは頭に無かった。

ただ、恐怖が私を支配していた。

私の悲鳴を聞き、振り返ったアルベルトは瞬時に事態を理解し、腰にさしていた剣を手にしてぐさっと私を掴む手に突き刺した。

血が辺りに飛び散り、私のドレスにまでかかる。


「すみません、シェルナリア様。早急に着替えましょう」


アルベルトは私のドレスに血がついてしまった事を悔やんでいるのか、そう言った。

その後は何事もなく、外に出ることが出来、私はアルベルトに何処かに連れていかれた。


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