そして、日本へ

消え逝くものを慈しみ

 去る7月8日の早朝2時、父が永眠致しました。



***



 とんぼ返りするような形で再び日本に帰国し、なんとか通夜の始まる前に父と対面することが出来た。


 棺の中で眠る父の顔はとても穏やかで。

 今にも起き上がって「おう、また帰ってきたのか」と話し掛けてくれるような気がして。

 父との想い出と共に、涙がぼろぼろとあふれ出た。

 「お供花は、あちらの世界に向かう道中の飲み水となるんですよ」と手渡された祭壇の花を棺の中に入れながら、冷たくなってしまった父の顔を撫で、大きな冷たい手をさすり、ただ泣きじゃくることしか出来なかった。




 あっという間に初七日を迎えようとしている。

 それなのに、「父の姿が消えてしまった。もう、この世のどこにも居ないのだ」という現実が、どうしても受け入れられない。

 昼間は、姉と共に諸処の手続きや父の持ち物の処分などで忙しく動き回ってる。それでも、夜、布団の中で一人になると、花に埋もれて眠る父の姿を思い出し、涙が止まらなくなってしまう。


 ふと、以前から少しずつ書き溜めている短編の資料として読んだアメリカ・インディアンの言葉を思い出した。


『形あるものに執着してはいけない。

 日々、消え逝くものをいつくしみ、今の姿で出逢えたことに感謝しなさい。

 いつかまた、巡り逢える日を思いながら』



 理屈では分かっている。

 でも、心が追いついてくれない。

 いつも私の味方でいてくれた父の姿が、どこにもないから。



 どうか、もう少しだけ、時間を下さい。


(2019年7月14日 公開)

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