この小説も「小説ツクールVX(ver2.1.2)で書かれています

ちびまるフォイ

批判されない文体と味のない文体

『作品にならなかったアイデア -備忘録-』

『誰かが書いてくれる異世界プロット』

『自主企画:続きの書けない斬新なアイデア案!』


ここ最近の自分の投稿を振り返ってみると、

どうにも作品というよりは「アイデア案」が多いのを指摘された。


「はぁ……ネタはあるんだけどなぁ……」


書きたいネタは頭の中にあるのに、文字を入れ始めると途端に疲れる。

書けば書くほど、書きたいものとは程遠い仕上がりになってしまう。


俺の脳内ではもっと名作なはずなのに。


「執筆ノイローゼですね。

 あなたは自分の文章力の低さを自覚しないまま

 脳内の自慢アイデアを書いているのでギャップに苦しむんです」


「先生、なんとかなりませんか?」


「死ねば?」

「医者の言うことか!!」


医者の診断もあり、最近は小説未満プロット以上のものばかり書いている。

なんとかならないものかと、解決策とアダルトサイトを行き来していると。


「小説ツクールVX……!? こんなのがあるのか!!」


さっそくソフトをダウンロード。

普段は読まない説明書もしっかり読み込む。


「なになに……。このソフトに小説の設定と、キャラを入れれば

 自動的に小説を書いてくれるツールです……神か!!」


試しに、前に中絶した自分の作品設定を入れてみる。


――――――――――――――――

タクヤはトイレの詰まりをとる「ラバーカップ」を手にした。


「俺にこんな力が……!!」


女神は勇者タクヤが握るラバーカップに聖なる輝きを見た。


「勇者タクヤよ。あなたは伝説のラバーカップで世界を救うのです」


「俺が世界を……!?」


「それこそが、死んだ双子の弟であり、先の転生者であるカズヤの弔いとなるでしょう」

――――――――――――――――


「おおおお!! すごいすごい!! できてるじゃん!!」


設定倒れだった「ラバーカップ勇者と寿司屋のバラン」は小説として書き進められていた。

ちゃんとキャラも徐々に登場してくるし、自分が書くよりも構成力がある。


なにより、設定材料さえ入れておけば、後はもう書かなくていいのが助かる。


「よーーし! これでどんどん小説が書けるぞ!!」



小説ツクールは自動で執筆をつづける。


途中で設定を追加すればそれに即して物語を変更してくれるし、

動きながらも別の小説生成することができる。


「今度は、前に書こうとして恥ずかしくなった恋愛小説を入れてみよう」

「批判系エッセイってツクールで書けるのかな」

「よっしゃ、超こわいホラー小説を作ってみせるぜ!!」


全部ツクールに突っ込んで、小説の大量生産に成功する。

どんなジャンルでも、どんな設定でもツクールで小説ができあがる。


最近ではカクヨム連動もしているので、作ったものを自動投稿までしてくれる。

ここ最近で本当によかった買い物になった。


「さて、次なる作品のネタでも集めるかなーー」


小説はツクールが勝手に書いてくれているので、アイデア探しに他の小説を読み漁る。

なにかインスピレーションをと思っていたが。


「……なんか文体似てるな? あれ?」


読む小説、読む小説、どれもまるで自分の小説のように感じる。

設定も舞台もキャラもジャンルも違うのに、既視感すら覚える。


「あの、この小説ってツクール使ってるんですか?」


「はい、あれ便利ですよね! あなたも?」


「え、ええ!? い、いやぁ……俺は使ってませんよ? あは、あはは……」


「でも文体似てますよね」


「あーー手が滑ったー!!」


>非公開


慌てて自分の小説非公開にしてごまかしたが、もはや小説ツクールは浸透しすぎている。

誰もが使っているし、誰も自分の手で書いている人はいない。


読みやすく、クセがなく、誤字脱字もない。


そんなツクールの自動化に肩まで浸かって100まで数えるほど依存していた。


「うーーん。なんとか独自性を出すことはできないものか……」


みんながツクールを使い始めるので自分が目立つチャンスは失われた。

目立つために自分で執筆している作者もいるが、非効率だし、ツクール投稿作に埋没する。



『小説ツクール 斬新 小説 作る 方法 熟女 画像』



で、検索したところ、オリジナル小説の糸口を見つけた。


「規定量を超える設定を入れるとツクールがバグるのか!!

 これなら、オリジナルの文体の小説が書けるかもしれない!!」


ネットには小説ツクールを分析している有志もいて、

過剰な設定量をぶち込めばバグるがそれはあくまでも文章の部分であって

構成や展開、キャラなどには影響を及ぼさない設計になっている。


「設定書きまくってやるぜーー!!」


バグらせるための設定量はなんと2GB。動画レベルの容量。

それをテキストで書き溜めるというのだから、もはや異常。


「オリジナル小説のコンテストまで残り1ヶ月……!

 ぜったいに斬新な小説を書いて、賞金ゲットしてやるぞ!!」


それからは毎日毎日設定を書きまくった。

キャラの設定、世界観、世界地図、キャラの過去、歴史、武器、村人Aの背景などなど……。


設定が尽きないよう説明の中に作品独自の専門用語を入れて、

専門用語のなかに次の専門用語を入れて設定を書き足しまくる。


それでも容量はなかなか増えないまま締め切り前日へと至る。


「うおおお!! もうちょっとなのに、時間がねぇぇぇ!!」


書けば書くほど、同じ設定を使いまわしそうになるのでアイデア不足に陥る。

時間は刻々と過ぎて、締め切りの足音がひたひたと迫ってくる。


ギリギリまで間に合うよう、投稿とツクールを連動させたうえで設定を盛りまくる。


「間に合えーーーー!!!」


エンターキーを押した瞬間、投稿が締め切られた。

すんでのところで設定が間に合ってツクールが小説を投稿してくれた。


「や、やった……! やったぞ!! これでオリジナル文体の小説ができたはずだ!!」


 ・

 ・

 ・


数日後、コンテストの結果を見て俺はすぐさま編集部へとクレームを入れた。


「ちょっと!! 俺の小説がなんで入ってないんですか!?

 しかも大賞は明らかにツクール作品ですよね!!

 なんで俺の小説があんなテンプレツクール作品に負けるんですか!!」


「そういわれても……。まあ、あなたの作品は確かに斬新でした」


「でしょ!? そうでしょ!? なんでそこを評価しないんですか!

 せっかくオリジナル文体になるようにバグらせたのに!!」


「たしかに斬新でしたが」


編集部は郵送で俺の投稿した小説を送ってくれた。



―――――――――――――――――――――

機械仕掛けの少女を前に、暗黒騎士カズヤは問いかけた。


「縺薙l縺ッ繝壹Φ縺ァ縺吶?」


「蓣膄裣肁냣莪볣莳裧钟꟣膙!!」


「ã§ã¯ããã¹ããã¾ãã」


「驥守帥繧?莠コ縺ァ繧?j縺セ縺励g縺」


二人はミラーボールの下でダンスを始めた。

―――――――――――――――――――――



「いやまさか、キャラのセリフが全部文字化けしている作品なんて斬新です!」



なお、内容を読み取れた人はいない。

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