童話『スノーバード(小雪鳥の姫)』

「それは昔々の事…

この辺りを治めていた国は豊かな自然に恵まれて美しいものでした。

そしてお姫様もこの国に負けず劣らずの美しさで、その真っ白な綺麗な髪と彼女にいつも戯れるようにしていた小鳥達から、お城の中では『小雪鳥の姫』と可愛がられていました。

美しい野山で小鳥達とよく遊んでいた小雪鳥は時折、仕事に勤しむ民達を見かけることがありましたが、その度に小雪鳥はこう思っていました。


「服もボロボロで彼らは醜いわ…。

人は美しくしてる方がいいのに!」


貧しさを知らない考えでした。

そんな小雪鳥にとある悪魔が目をつけます。


「やぁやぁ、美しい美しいお姫様!あなたみたいにこの世界を美しくしたくはないですか?」


「えぇ、勿論!美しいないのは良くないわ!」


悪魔の囁きに小雪鳥は喜んで頷きました。

そして悪魔は小雪鳥に魔法を与えて「好きなように使うといいよ」と口の端を吊り上げて言い残すとスっと消えてしまいました。


小雪鳥は世界を美しいものにするためにその魔法を使います。

小雪鳥は貧しい民に綺麗な洋服に輝かしい宝石をだしてあげました。

しかし明日もわからない民達は着飾るはずもなく、すぐに商人達に売ってしまい貧しい身なりに逆戻り、お姫さんがいくら魔法を使っても彼女の思う"美しい世界"にはなりませんでした。

小雪鳥が困っているとあの悪魔がしめしめと再び現れます。


「やぁやぁ、美しい美しいお姫様!何か困り事かい?」


っていつもの調子です。

小雪鳥が魔法のことを全部話してしまうと悪魔は一層笑みを含めてこう囁きました。


「それなら美しくないものを全部捨ててしまえばいいのだよ。

そうすれば美しいものだけが残るからね」


って、ゴミをぽいっとゴミ箱に捨てるような身振りをしてまた消えてしまいます。

悪魔は簡単そうに言いましたが小雪鳥一人でできることではありませんでした。

小雪鳥はすぐにお城の家来達のとこに行ってこう言いました。


「ねぇ、美しくないものを失くす手伝いをしてくれないかしら?」


それを聞いた家来達は困ってしまいました。

だって小雪鳥の言っていることは、お金がなく着飾る余裕のない貧しい民達を国から追い出してしまうという大変横暴なものなのですから。

家来達は小雪鳥をなんとか説得しようとしました。


「可愛い、可愛い、小雪鳥。そんなことをしてはダメですよ」


しかし小雪鳥は考えを変えてはくれませんでした。

小雪鳥は家来達のもとを去ると、今度は大臣のいるところへ手伝いをお願いしに行きました。


「ねぇ、醜いものを失くす手伝いをしてくれないかしら?」


でも大臣の返事も家来達と同じものでした。


「可愛い、可愛い、小雪鳥。わがままをいってはダメですよ」


大臣も小雪鳥を説得しようとしましたが小雪鳥は聞いてはくれません。

大臣のもとを去った小雪鳥は今度は王様に会いにいきました。


「ねぇ、醜いものを失くす手伝いをしてくれないかしら?」


ですが王様も手伝ってはくれませんでした。

王様は小雪鳥に優しく答えます。


「可愛い、可愛い、小雪鳥。もっと国の人々を大事にしないとダメだよ。」


しかしそれでも小雪鳥は考えを変えてはくれませんでした。


「醜いものを放っておくなんて、みんな美しくないわ!」


小雪鳥はそう叫んで魔法を使ってしまいました。

綺麗な洋服や宝石を出す魔法ではありません。

みんなに自分の言うことを無理矢理聞かせる悪い魔法。

小雪鳥はお城の人を操ってしまったのです。

家来達も大臣も王様もみんなみんな。


そして小雪鳥は街から美しくないものをどんどん捨て初めてしまいました。

街の人々は自分達が捨てられないように、美しいものの奪い合いが始まってしまいました。

綺麗な洋服に輝く宝石を巡ってあちこちで争って美しかった国は見る影もなくなってしまいました。

そしていつしか争いはお城にもその手を伸ばし始めました。

小雪鳥は魔法で操る家来達や王様とお城を逃げ出して湖の畔まで来ていました。

そして小雪鳥は怒って言いました。


「争いなんて美しくないわ!美しくないものなんて全部無くならなきゃいけないのよ!」


その時、小雪鳥は一人の女性が目に入りました。

その顔は酷くしわくちゃでばらばらの髪に真っ赤な目でとても醜いものでした。

怒っていた小雪鳥は家来達にこう言いつけました。


「この人は美しくないわ!美しくないものはこの国にいらないの!首を刎ねてしまいなさい!」


しかし、その醜い女は湖の水面に映った雪鳥自身でした。

魔法に囚われ横暴を尽くすうちに小雪鳥の美しさはいつの間にか失われていたのです。

魔法に操られた家来達は命令通りに小雪鳥の首を刎ねてしまいました。

首を刎ねられてしまった小雪鳥は自分の首を探します。

でも美しいはずの小雪鳥の首は見つかりません。

そして今もその首を探しては美しい人を見つけ、言うのです…」


そして私の首筋に何かがそっと触れます…



『 そ れ は わ た しの く び か し ら ? 』



「きゃああああ!!」

思わず私は叫んでしまいました。

振り返るとマリーが満足そうに満面の笑みを浮かべてダンさんとハイタッチしていました。

ダンさんの話に聞き入ってしまっていた私は後ろから近づくマリーに気付かなかったのです。


「も、もう!驚かさないでよ、マリー!!凄く怖かったわ…!」


私はまだドキドキしている胸を抑えながら、半泣きで訴えます。


「ごめんごめん、ちょっとしたスパイスよ…。まあ少しやりすぎちゃったかしら?」


マリーがちらっと視線を移すと、ファルさんに私と同じことをされたのでしょう、エリオンがガクガクブルブルと身を震わせていました。


「そんな亡霊が出るのにここで寝て大丈夫なのか…!?」


怯えたエリオンが恐る恐るたずねます。

それにファルさんがお腹を抱え笑って応じます。


「安心しなっ!これは子供を驚かすための造り話だからな!」


「なんだ、造り話なのか…」


エリオンが胸をそっと撫で下ろします。

その言葉にファルさんが少しニヤリとしていいます。


「まあ、いまのはな!だがこの話にはちゃんと元になった逸話があるぜ…!?元々語られていた『小雪鳥の姫』なんだがな、子供に聞かせるにはちょっと悲しすぎるってんで段々と内容が変わってったみたいなんだ。それでいつしか今の『小雪鳥の姫』になったらしい」


ファルさんの言葉をダンさんが継いで続けます。


「そして、旅団の公演でやるのはこっちの話だ…!ほんとはな、『小雪鳥の姫』は美しいだけじゃなくて優しかったんだよ…!あんな横暴な姫じゃなかった。とてもとても悲しい話だよ…」


最後に悲しそうに呟いたダンさんの表情は、いつか私に『小雪鳥の姫』を聞かせてくれたお母さんの表情に重なりました。

寂しそうで悲しげな表情…

その話をしていた旅団のみんなとの記憶を思い出していたのでしょうか?

それともやはり、悲しい『小雪鳥の姫』の話のせいでしょうか…?



そして私の前に『小雪鳥の姫』が現れます…


淡い淡い雪のような儚いドレスに可愛いらしい小鳥が舞うような、そんな美しいお姫様でした…

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