第三節:青空魔法教室

「さて、魔法とはなんでしょう!?」


お日様もそろそろお空のてっぺんに登ろうかという頃、私とマリーは森を抜けた先の原っぱの木陰でお昼ご飯にしていました。

まだ風は寒いけれど太陽が温かな陽射しを届けるこの天気、お昼寝でもしたくなってしまいます。

でもそんなことしているわけにはいきません。


早速私の魔法の修行が始まっていたのでした。

でもいきなり魔法をやたらめったら使う修行ではありませんでした。

まずは魔法についてしっかり考えるとこから。

私は今まで見てきた魔法について思いだしていました。

まず一番最初に浮かんだのはお母さんの使う魔法。

お母さんは私によく氷の魔法を見せて楽しませてくれました。

お母さんが手を机にかざすと綺麗な水色の光がサッと複雑な模様の魔法陣を描き一瞬眩く輝いたかと思うとそこには氷で出来た薔薇の花がありました。

他にも羽ばたく鳥の時もあれば優雅にダンスをする王子様とお姫様の時もありました。


いつも私を楽しませてくれたお母さんの魔法でしたけど、ヒントになりそうなものはありませんでした。

いつまでも楽しかった思い出に浸っているわけにはいきません、他の記憶を辿ります。

お母さんは桶の水が少なくなってしまった時や薪に火を着けたりする時に使っていたような気がします。

次にお父さんの使う魔法のことも思い出してみました。

たまに力仕事をする時とかに魔法を使っていましたが、あんまりお父さんの魔法は見たことがありませんでした。

一度お父さんになんであんまり魔法を使わないのかって聞いたことがありました。

その時のお父さんは「魔法は苦手だからね、母さんに任せるよ」って笑っていましたっけ。

そこで私は一つ閃きました。


「魔法は誰でも使えるものではない…?」

「おしいっ!使えないまではいかないね。

でも、いい線いってる!

それじゃ今度は魔法を使うにはどうしたらいいでしょう?」


私は手に持っていた残りのおにぎりを口に放り込むと魔法を使う時のことを思い返してみました。


「そうねー、私は魔法陣を発生させて使うわ。

お母さんもそう…。

でもお父さんの魔法は使っていなかった気がするわ…。

お父さんは…呪文!

お父さんは呪文を唱えて魔法を使うわ!」


「あら、いいとこに気づいたね。

魔法にはちょっとしたルールがあるのよ。」


「ルール?」


「そ、ルールよ。魔法はね、自分の中にある『オド』や自然にいっぱいある『マナ』にルールをあげるの。

そしたらね、そのルールに従って魔法が使えるの。」


マリーは立ち上がると少し伸びをしてから、こちらに振り向いて言いました。


「お昼ご飯も食べ終えたし、ちょっと面白いものを見せてあげるわ。魔法を使って見てくれる、アリス?」


「うん。」


私は頷いてから立ち上がり、掌を上に向けると手に『オド』を集めます。

お母さんの使う魔法を見よう見まねで覚えた魔法。

まだまだお母さんのように上手くはいかないけれど淡いブルーの光が魔法陣を描きます。そして魔法陣がパッと光ると手の上にはみかんくらいの大きさの氷が現れました。


「うん、上出来ね!今度は同じ魔法の魔法陣を暫く出し続けてくれる?」

「やってみるわ」


私はさっきと同じようにオドを集め魔法陣を展開しました。

しかし今度はこのままキープです。

水色の光を放つ魔法陣を私が眺めていると、マリーは頷いて言いました。


「もう大丈夫よ、魔法を使ってみて。」


私はそれを聞いて魔法を使いました。

魔法陣は一段と強くパッと光を放ち、そして掌にはいつもと同じような氷のつぶてが…

現れると思っていた私は少し慌ててしまいました。

現れたのは私の手よりも大きな氷の塊。

急なことで支えきれず私は現れた氷の塊を落としてしまいました。


「どう?驚いた?」


呆然とする私にマリーは悪戯っぽく言います。


「今度はブラウンベアーに使った魔法を暫く魔法陣を出してからあの木に撃ってごらん?」


私は無言でこくこくと何回も頷いて木に向かって魔法陣を出しました。

魔法陣を長く展開させてから魔法を使うと魔法が強くなるだなんて全然知りませんでした。

これならブラウンベアーだって怖くありません!

私の展開する魔法陣はどんどん水色の輝きをましているように思えました。

私の後ろからマリーが声をかけます。


「いいよ、アリス撃っちゃって!」

「いっけー!アイススロー!」


ボテっ…


……。

ブラウンベアーもやっつけちゃうはずの私の渾身の魔法は飛んでいかず、私の前に大きな氷の塊が落ちただけでした。

隣ではマリーがお腹を抑えて笑い転げていました。


「あはは、ごめんね、アリス。ちょっとからかっちゃった。」


渾身の魔法が失敗に終わってしまい私はうなだれました。

どうやらマリーは私が失敗するのを知っていたようです。


「アリス、なんで失敗したかわかる?」

「わからないわ…でも魔法陣を長くだしてれば、なんでもかんでも凄くなるってわけではないのかな…?」

「そ、アリスはなかなか鋭いね。今回失敗したのは魔法陣じゃなくてアリスの詠唱よ。」

「詠唱?」

「ええ、詠唱よ。アリスが今使った魔法を詳しく解説するとね、魔法陣は氷を発生させるだけのものなの。だってさっき氷を出しただけの時と同じ魔法陣だったでしょう?」


そう言われてみればそうです。

私が使った魔法はどちらも同じ魔法陣を使っていました。


「たしかにそうだわ。私、同じ魔法陣を使っていたわ。」

「そう。それでアリスは飛ばそうって時には呪文も唱えていたでしょう?でもね、ほんとは間違えてるの。ほんとはこうよ、『アイス=アロー』!!!」


マリーは狙いを定め木に手をかざすと魔法陣を展開させ呪文を唱えました。

私の時と同じようにパッと光った魔法陣でしたが、そこから放たれる氷は私の時とは比べ物にならない速さで飛んでいき木に突き刺さりました。


「そしてね、大きな氷を飛ばしたい時は更に別の呪文。」


マリーはそう言うと今度は何もない丘の方を向いて再び魔法陣を展開させました。魔法陣が輝きましたかという頃マリーは再び呪文を唱えて魔法陣を起動させました。


『アイス=カノン!!!』


マリーの呪文とともに放たれた氷の大砲はゴウっと音を立てて丘の中腹まで飛んでいき、ぶつかった岩を粉々にしてしまいました。

私は立て続けのマリーの鮮烈な魔法に呆然とするばかりでした。


「呆けてばかりじゃだめよ、アリス。」

「あ、うん…マリーは凄いわ。」

「ありがと。じゃ、説明を続けるよ?」


私は呆気に取られていた意識を引き戻してマリーの話に耳を傾けました。


「とりあえずね、今のが詠唱。

詠唱は基本的には自分の中にあるオドにルールを与えるものなの。だからほんとは自分のオドが完璧にコントロール出来てれば必要ないんだけど。

で、詠唱と対を為す魔法陣がマナのコントロールをするためのもの。

マナは直接コントロール出来ないからこっちは省略できないね。」


「えーと、つまり?」


「詠唱でオドをコントロール、魔法陣はマナをコントロール。その2つを合わせて魔法を使うの。」

「うん、わかったわ。」

「ならいよいよ実践よ、アリス!」


マリーはそういうと腰のポーチから水晶を取り出しました。その水晶はまだ削る前の原石で中は薄く濁った白色をしていました。

マリーはその水晶の結晶を私の前に掲げます。


「今からアリスにはこの詠唱を練習してもらうよ。

灯火の魔法陣を描くための詠唱でこれは基礎中の基礎!

この詠唱で魔法陣をこの水晶の中に作るの。

煙水晶の中はオドがコントロールしにくくなるからね、頑張るのよ。

じゃあ、いくよ。詠唱は一回で覚えちゃってね?」


私はマリーに頷いて返事をして、詠唱を一言一句聞き逃さないようにと固唾を飲んで見守りました。

マリーは一つ咳払いをすると詠唱を始めます。


『魔導の軌跡よ、闇を照らす光の証となれ!』


マリーが唱え終わると水晶の中に黄色い光が幾何学的な魔法陣を描き出し、中心で魔法の球が眩い光を放ちます。

数秒間水晶は輝いた後、フッとその光を失いました。


「じゃあ、やってみてアリス。」

「うん。」


私はマリーから水晶を受け取ると深呼吸をして集中します。


「魔導の軌跡よ、闇を照らす光の証となれ!」


私が呪文を唱えると水晶の中に黄色い光が薄く灯り、輪を描くようにゆらめきましたが1周する前に消えてしまいました。

私は少し肩を落としますが、マリーは少し弾んだ声で私に言います。


「すごい、すごいよ、アリス!あなたもう水晶にオドを送れている!」

「そ、そうなの?でもまだ全然魔法陣も描けてないし…」

「ううん!そんなことない!私なんてね、水晶の中にオドを送り込むのにも数日かかったのよ?!それでも私、早いって言われたのにアリス1発でここまでやっちゃうなんて天才よっ!天才!!」


マリーは凄く興奮した様子で私の手を持ってブンブン振り出していました。なんだかその様子をみていると自然と私の頬も綻んできていました。


「ううん、きっとマリーの教え方がいいんだわ、先生っ♪」

「先生!先生って良いね!これからマリー先生って呼んでくれるかしら♪」

「お易い御用だわ、マリー先生!」


私達はいつの間にか上機嫌になって二人でその場をクルクル回っていました。

その時ふっと私の頭にある疑問が湧いたのでマリーに聞いてみました。


「そう言えばマリー、あなたは魔法を誰から教えて貰ったの?」


「んー?それはひみつー♪でもあなたでも知ってる人よ。」


マリーは悪戯っぽく微笑んで教えてくれませんでした。でも私が知ってる人っていったい誰なのでしょう?

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