雨中

 雨の中を散歩する趣味は私にもない。


 テラスの前を通ると、こぶしの花が咲いていることに気が付いた。

 うちのこぶしは、これまた庭の隅にある背の高い木蓮と似たような色の花をつける。花開く季節が若干異なるのと、その花の形が微妙に異なる以外はほぼ似たようなもの。


 折角綺麗に花開いているというのに、雨の中とはまたなんとも惜しい。

 春の樹木の花たちは何故か雨と風に弱く、すぐ散ってしまう。


 だからこそ、この機を逃すべきではない。


 自室へと戻り、ウイスキーを一本持ち出す。

 私はスモーキーなウイスキーが好む、未開封のものはオールドパー スペリオールのみ。

 モルトも好きだが、ブレンデッドも悪くはない。グレーンも嫌いではなく、どちらかといえば好きなのだ。


 ショットグラスを持ち出し、ウイスキーを注ぐ。

 まずは香りを味わい、その後口に含む。鼻から抜けるピートの香りが堪らない。


 ああ、いけない。ウイスキーに夢中になっている場合ではなかった。


 今年は雨の中で可哀想だが、綺麗に花を咲かせてくれた君へ乾杯しよう。

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