断捨離スキルでビバ・チートライフ!

ちびまるフォイ

どこまでがあなたの所有物?

「ちょっと! もういい加減にしてよ!!」


妻は夫の書斎というかコレクションルームに入るなり怒鳴った。

足の踏み場もないほどのフィギュアと漫画雑誌の山。

置き場所がなくなりウイルス感染のように廊下へと流れている。


「リビングにもフィギュアフィギュア……邪魔ったらないわ!」


「君も僕の趣味を理解して結婚してくれたんじゃないか」


「限度ってものがあるでしょ!」


「そういうけど、これは僕にとって大事な癒しなんだ。

 これを捨てればまともに仕事するモチベーションもなくなるよ」


「仕事を人質にとるなんて卑怯な……!」


悩んだ末に妻は断捨離アドバイザーを魔術儀式で召喚した。


「問おう。あなたが私のマスターか」

「そういうのいいから」


断捨離さんは夫の部屋や、趣味にあふれかえる状態を見て仕事を理解した。

妻の行動の先を理解した夫も慌ててフィギュアの前に立ちふさがる。


「僕のフィギュアを強引に捨てさせるつもりだろ!

 そんなことはさせない! 君たちはこの価値がわかってないから残酷なことができるんだ!」


「なんとかなりませんか?」

「お任せください」


断捨離さんは咳払いして話を始めた。


「旦那さん。今、あなたには私が特別な断捨離スキルを与えました。

 これからあなたは身の回りのものを捨てるとか廃棄するたびにスキルが手に入ります」


「す、スキル……?」


「じゃあ、これ」


断捨離さんは身近なフィギュアを破壊する。夫は悲鳴を上げる隙も無かった。

フィギュアが木っ端みじんになった瞬間に夫の体が光り出す。


「う、うおおお!? なんだ!?」


「はい。今フィギュアを廃棄しましたから、スキルが手に入りました。

 スキルは「透明化」です。女風呂には入れませんよ」


「すごい!! ありがとうございます!!」


限定フィギュアが破壊されたものの、透明化という世の中学生男子誰もが

夢枕に思う力を手に入れた夫は逆に大喜びだった。


「では、また伺います」


断捨離さんは手ごたえを感じたのは今日は帰った。




翌日、家にやってくると家の中はすっきりしていた。


「だいぶ捨てましたねぇ。あ、テレビや電子レンジもないんですか」


「ええ、おかげで瞬間移動と時間跳躍も手に入れました。

 別に生活にも困ってませんし、

 今ではどうしてあんなものにあふれていた生活を続けていたのか理解に苦しみます」


「断捨離さん、あなたのおかげで夫が変われました。ありがとうございます」


「いえいえ、断捨離アドバイザーとして当然のことです」


断捨離さんはにっこり笑った。


「ちなみに、この先はどんなスキルがあるんですか?」


夫はクリスマス前日の子供の用に目をらんらんとさせている。


「そうですねぇ、透視とか睡眠操作とか洗脳に擬態とかですかね」


「それはいい! もっと断捨離がんばります!!」


捨てられない夫から、捨てられる夫へと劇的ビフォーアフター。

匠の仕事ができたと断捨離さんは仕事を終えた。


 ・

 ・

 ・


「どうも、ありがとうございました」


ここはまた別の家。

断捨離さんは、筋トレグッズが捨てられない男性の家で仕事を済ませた。


ふと、町の巨大ディスプレイではニュースが報道されていた。


『閑静な住宅街で起きた事件はいまだに原因がわかっていません』


画面に映った場所は数日前にフィギュア収集家の夫の家の近くだった。


「あの家……大丈夫かな。スキルを所持していることをうとまれて

 近隣の人から魔女狩りされてないだろうか」


断捨離さんは前に仕事をしたあの家へ向かうことに。

家に近づくほど、破壊された建造物などが目に入り嫌な予感がする。


「ああ、どうか無事でいますように……!!」


日本という国は「異端」に対してものすごい廃絶力を見せる。

特殊能力を所持していると知られればきっと……。


「すみませーーん!! すみませーーん!! 断捨離です!!

 前にこの家でお仕事させていただいたものです!!」


家のドアをたたくと驚いた顔をした夫が出てきた。


「ああ、ああ。本当によかった。無事だったんですね」


「い、いったいどうしたんですか? 何事ですか?」


「実は、私がスキルを与えたせいで悪いことが起きたんじゃないかと。

 ほら……最近、近隣トラブルって過激なものが多いから」


「テレビの見すぎでしょう。まぁ上がってください」


家に通されると、部屋にはテレビも電子レンジも、はてはフィギュアまでまた戻っていた。

断捨離したはずなのに、また元通りになっている。


「なんでまた戻ってるんですか!? せっかく断捨離したのに!!」


「いや、実はスキル手に入るのが嬉しくってですね……。

 家にいたものをすべて壊したんですけど、もっとスキルが欲しくて……」


「どういうことです?」


「スキルを手に入れるために、また同じものを買ったんです」


「あんたバカか!!」


夫は恥ずかしそうに頭をかいている。

廃棄するために物を買うなんて、それこそ問題だ。


「あのですね、断捨離スキルは自分の所有物じゃないと手に入りません。

 そこらでちょろっと買ったものを廃棄しても意味はないんです。


 ちゃんと自分のもの、として手になじんだものを捨ててこそ

 断捨離スキルが手に入るんです。わかりましたね」


断捨離の本来の目的は物を貯めこまないこと。

それを浸透させるのがアドバイザーの仕事。


「はい、わかりました。

 消耗品のように物を廃棄しても意味ないんですね」


「そうです。ちゃんと自分の所有物として

 一定の期間を経たものでないとダメなんです。

 今後は、こういうスキル目当ての行動は慎んでくださいね」


「はい。やっぱり自分の所有物じゃないとダメなんですね。納得しました」


夫も納得してくれたようなので断捨離さんは家を出た。

玄関まで出たところでふと思い出す。


「あ、そうそう。この近辺で器物損壊事件が多発してますからお気をつけて」


「断捨離さんは本当に心配性ですね。僕のお母さんみたいだ」


夫にくすくす笑われて、断捨離さんは少し恥ずかしくなった。


「それじゃ失礼します。奥さんにもよろしくお伝え……。

 あ、そういえば奥さんは?」




「ああ、アレは僕の所有物じゃなかったみたいです」

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