第18話 年寄りの遊び?

「げっ・・・・・」


京子きょうこの言い放った言葉に弥琴みこは、呆れるしかなかった。


「ゲートボールなんか誰が行くか!年寄りの遊びだろうが!」


「年寄りの遊びじゃけぇ、今のお前にピッタリじゃろ。」


「嫌だ!嫌だ!そんなの絶対行かないから!!」


偉ぶった態度で両腕を組んで弥琴みこは、京子きょうこを睨みつけた。




「ずっと前からの仲間との約束じゃけぇ、5人いないと出場できのやけぇ。お前が行かなかったら、みんなが悲しむ。」


「そんなん知るか!大いに悲しめよ!」


「いいから、今日の練習から行ってみろ!今から用意してやるけぇ。」



そう言うと京子きょうこは、戸棚の所へ歩いて行きハンマーのような形をしたスティックとボールを取り出した。昔ながらの和柄の布にそれを入れて弥琴みこに渡した。



「ほら、近くの公園で9時からやってるけぇ。」


「いらねぇよ!ってか何このハンマー!?もう私をこれ以上年寄りにしないでよね!!」


「いいから行け!いつまでも家でめそめそしちょるくらいならゲートボールくらいできるようになってみろ!何もしないで引きこもっちょるより何十倍もマシやけぇ!」


「私はこれでいいんだよ!いちいちうるさい!そんなもの行ったって何も得しねぇんだから!」


しばらくスティックとボールの渡し合いが続いた後、時間がないことに焦った京子きょうこが衝撃の一発を言い放った。






「お前が今日の練習に行かんのやったら生徒会に立候補するけぇね。」




「はあああああああ!?」




頼むからやめてください!!!!!!







弥琴みこが何気に一番恐れていたことを京子きょうこはわかっていたらしい。今、京子きょうこが生徒会などという優等生を演じたところで弥琴みこには何も困りはしないのだが、もし元に戻ったらどうしようもない!



「生徒会に立候補して、先生たちに愛想ふりまくけぇね。それでもええんか?」



「なっ・・・。そんな優等生っぽいことするな!」



「私は本気じゃけぇ。どうする?」



「ってか、どんな脅しだよ!それぇ!!」



「どうだ?行くのか?」



「くぅううう!わかったよ!行くよ!行けばいいんだろ!そのかわりそのスカートはもっと短くしろ!これで商談成立だろ!」



「わかった。行かなかったら連絡くるけぇ、すぐバレるけぇね。」




京子きょうこがあまりにも、にんやりと笑ったので弥琴みこは悔しくてたまらなかった。

駆け引きを終えると京子きょうこは約束どおりスカートを短くして学校へ行った。

一人玄関に残された弥琴みこは、スティックをへし折りそうになりそうなほど強く握った。



「くっそおぉおお!」









弥琴みこは、ぶつくさと文句を言って朝の着替えを終わらせると肌寒い外へ出た。吐く息が白く寒さが膝の痛みにくる。


「いぎだぐなぃいい」



あまりの寒さに腰を曲げて歩いたので、周りから見れば元気なおばあさんという風にはもはや見えないであろう。

公園への道のりはまあまあ短い。だが、それでも2、3人ほどすれ違う通行人の姿があった。

みんなこぞって弥琴みこを見るなり挨拶をしてきた。



京子きょうこさん、おはようございます。寒いですねぇ。ゲートボールでしょ?頑張ってくださいね。」



「おう、京ちゃん!腰かがめていつもの京ちゃんらしくないねぇ。背筋伸ばして歩きぃや!うはは!」



近所の奥さんや知らないじいさん。

いつもなら何とも思わないような軽い挨拶だ。いや、もしかしたらその挨拶にすらムカついていたかもしれない。

だが、ずっと引きこもっていた京子きょうこにとってこの軽い挨拶には癒されるものがあった。


何と返していいかわからなかったが、とりあえず一礼するだけで精一杯だった。




『何か他に言えばよかったかな。でも私にとったら知らない人だしな。』




何もできない自分に罪悪感を引きずらせながら、弥琴みこはオタクボーイのように地面を見ながら必死に歩いた。






「はあ、着いちゃった。ってか、ここゲートボールとかできんの?何もないじゃん。」



公園にいたのは道具を持った10人ほどのお年寄りと、数人の通行人だけ。

お年寄りたちは、固まって話をしている。

その静まり返った風景に弥琴みこは、後ずさりした。





『やっぱ、やめとこうかな。全然知らないやつばっかだし!わかってたけどジジババばっかじゃん!もう生徒会してた方が楽かも・・・・。』





公園の入り口にじっと立ち止まっていると年寄りの一人が大声をあげた。



「あらあ!京子きょうこさん!お久しぶりやねぇ。おはよう。」



にっこりと皺を作って話す笑顔の優しいおばあさんだった。



「あ、えっと・・・。」


「はよ、こっち来ぃや。もう始めるよ。」


「あ、はい・・・。」



恐る恐る近づく弥琴みこ。知らない年寄りが次から次へと話しかけてくる。

変な緊張感と恐怖で体が震えた。

もうこうなると弥琴みこの友達は胸に抱きしめているスティックだけだ。



京子きょうこさん、いないとつまらんけぇ。じゃ、淳二じゅんじさん。そろそろ用意しよや。」


『このジジイの名前は淳二じゅんじって言うのか。あぁ~!人の名前覚えるの嫌いなのにまだ10人以上もいるなんて!絶対覚えられない!!』



淳二じゅんじという名前のおじいさんは、弥琴みこが見たこともないような道具を取り出した。

まるでホッチキスの芯を大きくしたような物を地面に差し込んだ。全部で三か所。



『あれが、ゴールか?なんで三個もあるんだ?』



弥琴みこに話しかけてきたおばあさんも棒を差し込んだ。



『なにあれ?何かの目印??』




みんながスティックを取り出したので弥琴みこもとりあえず取り出すことにした。



京子きょうこさん、今日は私たちは紅じゃけぇゼッケンそっち着て。」


『紅?え?紅組と白組があるってこと??』


言われるままにやっていくと、とりあえず準備は完了したようだ。

軽く整列すると淳二じゅんじが話を始めた。



「え~まず!おはようございます!」


「おはようございます!!!」



淳二じゅんじの挨拶に全員がそろって挨拶を返した。


『さっき挨拶してたじゃん』


心の中で弥琴みこは、つっこみをいれた。




「え~それではですね。練習を始めたいと思います。今度開かれるゲートボール大会では優勝者には商品券3万円が贈られるということで、大きな大会になっておりますので頑張りましょう!はい。以上!!」



弥琴みこは学校と同じように話を聞く気はまったくなかったのだが、『3万円』に反応せずにはいられなかった。




「さ!三万円!!めっちゃいいじゃん!」


思わず声が出た。


京子きょうこさんいたら、優勝できるかもしれんけぇね。」


さっきのおばあさんが笑いながら弥琴みこに話しかけた。

明らかに入れ歯であろう歯を惜しげもなく見せながら、にっこり笑っている。



『三万!欲しいし!ゲートボールとか年寄りの遊びでしょ!?これって、私がいれば超有利なんじゃね?私みたいに若い脳みそ持ったやつがやれば年寄りのゲームなんかすぐ勝てるじゃん!』



弥琴みこが持ってきた京子きょうこのバッグには盗んできた数万円がしっかりと入っている。以前、それの使い道がわからずに嘆いていたことも忘れて弥琴みこは三万円が欲しくてたまらなくなった。




「じゃあ京子きょうこさんから打ってええよ。」




おばあさんは玉を地面に置いた。

弥琴みこは、ゲートボールのルールなど知るはずもない。




『やべ!ルールまったくわかんないんだけど?』



置かれたボールの先に先ほど淳二じゅんじが差したゴールらしきものが一直線上にあったので、弥琴みこは思った。



『そうか、あのゴールに玉入れりゃいいんだろ!楽勝!!!』




弥琴みこは、始まりの合図が聞こえると勢いよくスティックを振りゴールめがけて玉を飛ばそうとした!





が!スティックはボールに当たるどころか地面にぶつかりその衝撃で地面に穴が開き弥琴みこの右手全体に電気が走るような痛みを伴った。




「いったあああ!!」




まわりの年寄りが唖然としている様子がきつく閉じたまぶたの奥に見えるようだった。

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