全身ラバースーツの変態

ちびまるフォイ

ラバースーツは突然に…

「みんな、紹介するぞーー。転校生のラバ子さんだ」


「みなさん、こんな時期に転校するなんておかしいと思われるかもですが

 仲良くしたいと思っています。よ、よろしくお願いします……」


転校生と聞いて色めき立っていた男子たち。

どんな顔なのかとニヤニヤしていた数分前。


教室に現れた全身ラバースーツの女に誰も何も言えなかった。


 ・

 ・

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「で、あいつ何者なんだろうな」

「つかなんでラバースーツ?」

「ありゃ変態だよ……」


もっぱら噂は転校生のラバースーツ系女子。


さすがにここまで常識から外れた前衛的なファッションだと

女子のコミュニケーション能力をもってしても近づきにくいらしく

今は窓際で日差しをゴム質のスーツに受けながらてらてら輝いている。


あれどこで息してるんだ。


「なぁ、あの中身どうなってるんだろうな」


誰が言い出したのかわからないが麻薬のような響きだった。

俺も思わずそそられる。


「よし、ラバ子を捕まえてスーツをひんむいてやろうぜ」


「もしかしたらめっちゃ美人かも!」


田舎臭い女の子がメガネを外すと……という、20年位前の美少女定義を捨てられず

俺たち男子はありあまる性欲を行動力へと転化させてラバ子を捕獲した。


「きゃーー! は、離してください!(意訳)」


幸いだったのは、ラバ子が初日から孤立していたので下校時に

体育館倉庫に閉じ込めるのはわけなかったこと。


不運だったのはラバースーツ越しなので、何言ってるか聞き取りにくいこと。


「ふふふ、別に何をするってわけじゃないさ。

 ちょっとそのラバースーツの中の顔を見せてほしいだけだ」


「だ、ダメです!」


「ま、何を言ってもやるんだけど。おい! 抑えろ!」


俺は周りの男に命令しラバ子を完全に抑えた。

薄い本ならここから【自主規制(SE:ワァ~オ♥)】な展開になる。


ラバ子のチャックを外すと、中からはてらてらと光る第二のスーツが出てきた。


「なっ……! やっぱりこんなオチかよぉーー!!」


ありがちな展開に二枚目も引っぺがそうとしたが

1枚目のラバースーツをひんむいたときに防犯ブザーが鳴って俺たちは全員つまみだされた。


「まぁ……対策するわな……」


先生からの強烈な説教をくらってしょんぼりする悪友たちに俺は声をかけた。


よく考えれば、全身ラバースーツ生活をしていれば中身を見たくなる奴はいるわけで

ラバ子としても自衛策はいくらでも用意しているのだろう。


「くそ! まだあきらめるもんか! な! みんな!」


「ええ……」

「おう……」

「まだやるの……?」


「あ、あれ? どうしたんだよ? ラバースーツの中身見たくないのか!?」


「いやもう懲りたよ……」

「これ以上不毛な時間を使いたくないし」

「どうしてそこまで見たいんだよ! 意味わかんねぇ!」


これが悟り世代というやつか……!


ラバースーツの中に秘められた人間の神秘を探求するジョーンズ博士は俺だけとなる。


「さて、どうするか……。強引にひっぺがすこともできないしなぁ……」


強引に脱がせれば防犯ブザーでお縄にされる。

いろんな方法を考えては見たものの、アルソックも弟子入りするほど

隙のないラバ子の自衛包囲網にすっかり八方ふさがりだ。


攻略法がないかとネットをあさっていると、ふとアイデアが思いついた。


「そうだ……! 外から開けられないなら、中から開ければいいんだ!!」


トロイの木馬というウイルスを調べていてよかった。

翌日から、クラスで孤立気味なラバ子に俺は声をかけた。


「よ、ラバ子」

「おはよう……」


「ラバ子、教科書貸してやるよ」

「え、いいの?」


「ラバ子、一緒に飯食おうぜ」

「う、うん……」


内気で奥手なラバ子の好意がどんどん俺に傾くのが分かった。

まさに作戦はぴたりはまった。


何回目かの放課後デートの日、俺はついに打ち明けた。


「ラバ子……俺、見たいんだ」


「今日の相撲の取組?」


「ちがう。君のラバースーツの中身だよ」


「えっ……」


「だめ、かな……?」


ラバ子のラバースーツがきゅっきゅきゅっきゅ音を鳴らす。

きっと悩んでいるのだろう。


ラバ子はこくりと小さくうなずいた。


「いいよ……。君には特別に私を見せてあげる……」


二人の間に甘い時間が流れる。

ラバ子はそっと防犯ブザーと値札タグを取ってスーツを脱いだ。


その姿は……。


「驚いた? 私、実はゲルなの」


ラバースーツからはゼリー状の物質が出てきただけだった。


「この星にある最高級のラバースーツを求めてやってきたの。

 こんなことあなたみたいな一般人に話しても理解されないだろうけど……」


「さ、さすがに驚いたよ……」


「無理もないよね。ラバースーツを着ていなければ

 私は形をとどめていることもできない。

 だからスーツを脱げなかったの」


「いや、そうじゃない」



俺は最高級ラバースーツを脱いだ。


質感が人間の肌とほぼ同じなので誰も気づくことはないだろう。


「君が探しているラバースーツはこれだろう。

 驚いたよ。俺と同じ生物がほかにいたなんて!!」

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