第二十九話 現勇者から見た、元勇者組


結城ゆうきさん、寝ちゃったね」


 こちらに背を向けながら、眠りについたであろう彼女を見ながらそう言えば、面々の目はそちらに向けられる。


 いきなり召喚され、一緒にこの世界に来たはずの彼女が、この世界『勇者』であったことを知ったのは、数日前のこと。

 そして、魔物と魔族との戦いを見ている事しか出来なかった自分とは違って、立ち向かい、戦っていた光景は、よく覚えているし、鮮明に、こびりつくかのように、脳裏に残っている。


「思ってた以上に、疲れてたんだろ」

「大体は、誰かさんのせいだろ」

「その台詞、そっくりそのまま返してやる」


 その言い合いだけで、また騒がしくなるのかと思えば、結城さんが寝ているからなのだろう。声が大きくならないように気を使っているのか、アルスさんとエルさんが軽く小突く程度のやり取りをし始める。


 二人は、『元・勇者一行』で、結城さんの仲間だったらしい。

 他にも仲間は居たみたいだけど、僕が知るのは、現状ではこの二人だけだ。

 この二人の強さも、先日の戦いで目にしたので分かっているつもりではいるんだけど、もし、同じような立場になって、同じような動きが出来るかどうかを聞かれたら――僕には無理だ。


佐伯さえき、俺たちもそろそろ休もう」

「おー、火の番は俺たちが責任もってやっておくから、気にせずぐっすりと寝ていいぞ」


 鳴海なるみさんから声を掛けられ、エルさんからもそう言われる。


 鳴海さんも、同じように召喚されてきた一人で、同郷メンバーの中では最年長の人だ。

 結城さんみたいに異世界経験者……ということもないはずなのに、召喚されるという思いもよらない経験をしながらも、どこか慌てるような様子もない、冷静な人だ。


俺たちが・・・・って、お前まで起きてるつもりかよ」

「一人よりは二人の方がいいだろ」


 また小突き合いが始まった。


「ん~~」


 二人の声に反応したのか否か、結城さんが身動みじろぎしたので、驚いたんだろう、アルスさんたちが肩を揺らす。


「あー、これは……」

「いつものっぽいな」


 いつもの?

 と思っていれば、ゆっくりと起き上がった結城さんが、ぼんやりとしたまま周辺を見渡す。


「セナ、まだ寝てていいぞ」

「そんなに経ってないしな」

「ん……」


 アルスさんたちにそう言われると、再び横になる結城さんに、僕は鳴海さんと顔を見合わせる。


「不安なのか、何なのか。こうやって短時間に何度も起きるんだよ」

「宿屋の時はそうでも無さそうだが、野宿の時は割と起きる」


 だから、そう時間が経たないうちにまた起きるはずだ、とアルスさんは言う。


「それは……『勇者』だったときも?」

「そうだな。旅立ったときはそうでもなかったんだが、落ち着かないのか、起きる率が多くなった」

「ふらつくこともあったから、みんなが寝不足のこと指摘したんだけどなぁ。俺が合流してからは癖になってるのか、言っても聞かないから、放置してる」


 どこか懐かしそうなアルスさんに対し、エルさんは「それだけじゃなさそうだが」と言いたげな声色でそう告げる。


「ま、お前たちも早く寝るこった。もし寝ないのなら、俺たちが先に休ませてもらうが」

「あ、すみません」


 さすがに今の俺たちが襲撃されると、すぐには対応できないので、申し訳ないと思いつつも、慌てて寝る体勢になる。


「あの、おやすみなさい」

「ああ」

「おやすみ」


 寝るための挨拶をすれば、二人にそう返される。

 鳴海さんからは返事が無かったけど、多分寝たんだろう。


 彼らに何があったのかは分からない。

 けれど、一緒に旅をしていれば、いやでも知ることになるだろうから、みんなが話そうとしてくれるまで、それまでは聞かないでおこう。

 少なくとも、僕はそう決めた。

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異世界の観光ガイド~元・勇者様は帰りたい~ 夕闇 夜桜 @11011700

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