お嬢様のヒミツ♡

吉原杏

第1話




 ■■■イケナイ☆プロローグ


 午前6時30分。枕元のアイフォンがけたたましい音を鳴らした。

 着信ボタンを押すとスピーカーから、


「亜美~亜美ったら…ねぇ、ねぇ…聞いてよ!亜美!」


 語尾上がりのちょっと甲高い声の島本ルイ子の声が響いた。「おいおい…こっちとら徹夜で原稿書きだぞ!」の心の声をグッと押し殺し野原亜美は、


「は~い、ルイちゃんどうしたの?」


 まるで何事もないようにアイフォンを改めて、耳にあてがう。


「…亜美…あのさぁ…今、加藤クンと一緒なのよ」


「えっ?」


 加藤クンと言われてもルイ子の周囲には加藤クンは過去にも片手では数えきれないほどいる。


「それと、山下クンもね…」


「はぁ~?」


 まだ、原稿を書き終えから寝酒替わりに飲んだ味醂でプチ二日酔い状態。またか…と一瞬心の中でイヤ~な予感がしつつ、


「ルイちゃん、加藤クンと山下クンって写真サークルのカメラマンさん?」

「すっ、すご~い!亜美なんでわかるワケ?」


 なんでわかるも、分からないもない。山下章男と加藤誠二は、ルイ子と知り合った写真サークルの仲間だ。もちろん、パッと花が咲いたように明るいルイ子はいつだってその中心で笑っていて、


「写ガール目指すんだ!」


 なんてミラーレス一眼カメラまで用意していたクセに、いつの間にか撮影会の専属モデルに。まぁ、女性が少ないサークルなんで、気が付くとわたしもルイ子に乗せられて一緒に和服モデルもどきをやったこともあるが…。


 でも、なんでまた山下クンと加藤クンがルイ子と一緒なワケ?


 頭の中が混乱する。その混乱を沈めるために、マリリンを真似してと言えば聞こえがいいが、パンツのゴムでカラダを締めるつけたまま寝ると血行不良になるからスッポンポンで寝ていたカラダにピンクのラップバスタオルをグルリと巻き付け、冷蔵庫を開けサンプルでもらったスカイブルーエナジードリンクを飲み干す。シトラス×メンソールの強い刺激とカフェインがカラダの中に染みわたり、つい最近ルイ子から送られてきたMessageをアイフォンでルイ子の声を聞きながら読み返す。


 そして「……ゴールデン暇だからお茶する?!」のルイ子からのMessageと曖昧な返事を返していたことを思いだす。「行けたらいくよ~!(^^)!」と書き込み、それから急な締切りに追われるハメになり、アイフォンもチェックすることなくキーボードを明け方近くまでぶっ叩いていた。……その後、ルイ子からのお誘いが3回、それから加藤クンと山下クンが一緒だよ!の文字が何度か…そ、そうだった。そう言うワケだったのだ。


 時計をチラ見しながら、ルイ子のことだ。きっと、話したいことがきっとてんこ盛り状態になっているはずと、


「今から来ない?」


 と、誘う。その言葉に、


「うん、行く。今、加藤クンの松戸のマンションだからちょっと時間かかるけどいい?それに、親にも猫たちにご飯あげてもらうようにお願いしないといけないしネ」


 ルイ子の声を抑えた笑い声が響く。ルイ子が山下クンと加藤クンとどんな風に一晩過ごしてしまったのかが、正直気になる。


 …に、してもだ。ルイ子もわたしもちょっと前ならクリスマスケーキ。ある意味で結婚っていうより、出産適齢期絶頂期、気まぐれな男達と遊ぶより、そろそろ将来設計も考えなきゃいけないのに、よくやるよって思ってしまう。


「じゃ、一緒にランチでもする?適当に作って待っているから」


 そう言ってからアイフォンを置いた。

 

 どこかでランチタイムをすることも考えたが、ルイ子との会話はいつも過激になり過ぎ、周囲の客が眉を潜めてしまうこともしばしば。そのため、久々にキッチンに立つことを決める。オトコでは、なくオンナ友達のためにご飯を作るのも時には楽しい。…さて、ルイ子が来るまでに何を作ろうか、ベランダに置かれたコンテナの中のハーブと冷蔵庫と冷凍庫の中を見ながら考えていると、アイフォンがMessageを知らせるチャイムを鳴らせた。ルイ子もよく知っている写真サークルで唯一の女性カメラマン藤村弓香からだった。弓香にルイ子が来ることを知らせるとカノジョは「ほんなら、とって置きのワインを持ってお邪魔するわ。なんかプチ女子会やねぇ」と嬉しそうに笑った。


 ……ルイ子、わたし、そして弓香。三人寄らば文殊の知恵ならともかく…きっと止まらないエロトークになるんだろうなぁ~。そんなことを思いながら、コンテナからスクスク育ちだったディルを摘み取りながら、もう一度時計を見た。



 ■●■女三人集まれば


 テーブルの上には、湯掻いたジャガイモにバターとディルを絡めてだけのフィンランド風に、ガーリックにタカノツメとバジルのパスタ、取れたてのロケットとワイルドレタスのサラダ、自家製イチゴジャムとチアシードのヨーグルト、それに自家製のハーブウィンナーを並べる。料理はキライじゃないけど、自分のために料理をするのはどうも面倒くさい。だから、ルイ子が来るときには張り切って作ってしまう。


 テーブルの中央にカモミールなどの花を飾って、自己満足的なセッティングに満足しているとドアのチャイムが鳴った。


「ねぇ、ねぇ亜美、亜美聞いてよ!」


 ルイ子の明るい声が響いた。そして、テーブルの上の料理を見ながら、


「わっ、美味しいそう。亜美、ワタシのためじゃなく、こういうのって、オトコのために作んなきゃ~」


 そう言いながら、


「これ、デザートに!冷やしたほうがおいしいからね」


 宝石のような果物ゼリーを見せてから、冷蔵庫にさっとしまう。そして、冷蔵庫からスパークリングミネラルウォーターを「もらうね」と言ってから、プシュとせんを抜き一気に喉に流し込み、手で口を拭う。


「あ~、おいしい。やっぱ一気にかぎるわ!」

「確かにねぇ~」


 ルイ子を見ながら、同じようにミネラルウォーターのボトルを手にした。


「だいたいさぁ、オトコの前じゃこんな飲み方って絶対NGだよね」

「そう、そうわかる。1ℓ入りのペットボトルを現場で一気したら、“土方かよ~。工事現場じゃないんだよ“なんて言われてて、わざわざ紙コップ用意されちゃった」

「わかる~!ホットヨガなんか、みんな2ℓボトルだっていうのにね」

「そうそう、オトコってなんか幻想ばっかで、現実見てないんだよね」


 ルイ子が大きなため息をついた時、


「え~もう、はじまってんの?」


 関西弁なまりの弓香がドアを開いた。


「わ~、ユミしゃんひっさしぶり~!」

「ほんまやなぁ~。例会、3か月に一度やしね」


 ルイ子が弓香に抱きつく。

 派遣OLのルイ子と家事手伝い兼家庭教師業の弓香では、なかなか時間帯が合わない。フリーライターと言えば聞こえがいいが、ほぼフリーターに近いわたしは適当にどちらの時間にも合わせることができているから、ルイ子とは1週間ほど前に、弓香とは3日ほど前にお茶しているから、抱き合うほどではない。


「おっ、今日も亜美ちゃん頑張りましたねぇ。この間のローズマリーのチキンは最高やったけど、今日のソーセジーもワインに合いそうやわ」


 ライセンス好きの弓香は、ソムリエ資格を目指しているので手頃な値段で美味しいワインをよく知っている。


「ドンペリニョン・ロゼにも勝るともいわれてる、ロジャー・グラート・カヴァ・ロゼ・ブリュット!」


 と、ワインボトルを取り出す。よく冷やされているのか、ボトルに水滴が光る。


「さっ!亜美ちゃん、ルイ子、パッと飲もうか~」


 勢いよくポンと蓋をあけ、テーブルのワイングラスに薄いルビー色に輝くワインを注ぐ。


「三人の出会いに乾杯!」


 ルイ子の声でグラスをカチリと合わせる。


「ほな、恒例の値段当て!ちなみドンペリ・ロゼは1本5万円以上や~」


 いつもの弓香のワインの値段当て。


「ちなみに、このワイン。なんと、瓶詰め後、18ヶ月の熟成期間を置いてから蔵だしよ~。チーズもワインも熟成が命よ~」


 歌うように言いながらわたしとルイ子をチラリと見る。

 口に含んだワインを舌で転がすようにして飲むと、バラやチェリーの香りが鼻に抜ける。上品で芳醇な味がする。


「…ん、7千円ぐらい?それとも1万!って…でも、関西人のユミしゃんやし…5千円!」


 弓香がにやりと笑う。

 わたしはもうひとくち飲んでから…


「ケチな弓ネエのことだし…2,500円!」

「亜美ちゃん、ひとつ違いでネエはないって言っているでしょう。ちなみにふたりとも×!」

「えっ~、でもマジおいしいよ。コレ!お父様と豪華客船で飲んだドンペリって感じだし」


 そう、実はルイ子の父親は某商社の会長、親戚の家に行くと部屋の中に札束が転がっているという超お嬢様なのだ。ルイ子の舌でも、弓香の持ち込んだワインの値段は全くわからないようだ。


「ほな、2500円より上か下か?」

「絶対にこの味は上よ、上」とルイ子が先に言ってしまったので、わたしは下に…。


 弓香がにっこりとテーブルの上に、レシートを置く。


「えっ~!税込で?!2000円以下?!ありえない!」


 ルイ子が目を丸くする。


「うそ!」


 2000円に支払でしっかりお釣りアリのレシートに驚く。


「…本当にうまいワインは、値段やないの!」


 手酌で弓香が自分のグラスを満たし、グラスを開ける。


「ワインと言えばねぇ…弓しゃんも聞いてよ」


 ルイ子がわたしと弓香の顔を交互に見ながら、昨夜の顛末を語りだす。


 最初はうん、うんと弓香が頷いていたが、途中からは腹を抱えて笑わずにはいられない。ルイ子の話がさらにエスカレートすると、弓香は空っぽになったワインボトルをうらめしそうに見ながら、


「もう、あかんわ。ルイ子…お姉さん、あんたの話アルコールなしでは聞いてられへんわ。亜美ちゃん、なんかある?」


 と言い出すほどだった。


 ■●■ルイ子の告白/お嬢様…それはちょっと


 なんか…と言われても、ルイ子が来てからコンビニにでも行くつもりだったから、ワインもビールもない。仕方がなく、


「…味醂、味醂でいいかしら?物産展で飲める味醂を買ったから…」


 二日酔いになった味醂の一升瓶をデンとテーブルに。弓香が眉を顰め、ルイ子が


「ねぇ…マジ?」


 と、私の顏を見る。


「大丈夫よ。味醂って、江戸時代は酒のかわりだったみたいだし。コレ、マジに旨いから」


 グラスに買い置きのロックアイスを入れ、味醂を注ぐ。薄い琥珀色。


「まぁ、まぁ、とにかく一口飲んでよ!」


 眉を顰めながら弓香が一口。


「うっ、ウソ!これ、マジに味醂?」


 釣られてルイ子が、ゴクリ。


「えっ…なに、この味?」


 デンとテーブルに鎮座した茶色の味醂瓶をふたりが繁々と眺める。


「…純米本みりん。原料、米麹、米焼酎、もち米……アミノ酸の宝庫や~ん!」


 弓香がトクトクとグラスに味醂を注ぐ。


「ねぇ、亜美…なんか割るものない?…沖縄のシークワサーとかなくなった?」


 そう言いながら、冷蔵庫を漁る。ルイ子にとっては、わたしの部屋は勝手知ったる他人の家なのである。ルイ子がシークワサー、カルピス、コーラーなど冷蔵庫の飲み物でおもしろがって味醂カクテルを作り、ゴクリ。


「…ん、イイ味。で、さぁ…亜美、ユミしゃん、さっきの話の続きなんだけどさぁ…。浅草で最初は加藤クンと待ち合わせたの。だって、加藤クンこの間モデルの女のコと婚約手前まで行ったのにドタキャンっていうか、他の男の子ども妊娠したとか、しないとかでそのコと破局して可愛そうだったし…でも…加藤クンとふたりだとデートみたいになっちゃうじゃん。それで、ヒマ?って思わず、山下クンにも連絡したの。そしたら、空いてるよ~ってラインが来て…丁度、お祭りやっていたからそこで合流することにしたんだよね」


 と、まぁ、ここまではよくある話。なんで、浅草?と突っ込みたくなったが、ルイ子は、なぜか神社仏閣フェチで検定まで受けるとか、受けないとか騒いでいる。


「で、ねぇ…山下クンがスカイツリーでイベントやっているからって、山下クンとスカイツリーで合流。山下クンってスカイツリーに妙に詳しくて、御用邸のチーズケーキセットが格安で食べられるお店まで知っているからビックリ!女のコとデートしたことあるでしょうって聞いたら、耳まで真っ赤にして、“そ…そんなことないよ”って、マジ可愛かったわ~」


 ルイ子が意味深な笑いを浮かべる。


「で、飯食うか?!って話になって、ノリで上野までウォーキング。アメ横行って、ブラブラ歩いていたら、加藤クンが“俺おもしろい場所知ってるよ。会社から近いからね”と、地下にある食材売り場に入っちゃったの…そこって、いろんな肉があって、鳥なんかも一羽まるごと!カエルとか、ドジョウとか、カニとか生きたまんま売られていて、きゃ~!すご~なんて思っていたら、加藤クンが“ルイちゃん、スッポンって食ったことある?”って聞かれ、山下クンが“スッポンってアレ元気でるんだよねぇ~”って話で、“1匹2500円って超安くないか?料亭とかだと、ひとり1万円ぐらいするよ”って話になって…で、料理できんの?って聞いたらさぁ…山下クンがネットで検索して、“おおお!さばき方の画面あるから、なんとかなるしょ!”ってノリで買っちゃったの」


 えっ…買ったって、生きたスッポン?マジ?!カルピスと味醂のカクテルを飲みながら、思わずルイ子の顏を見る。


「マジで買っちゃったの。生きたスッポン?」


 その言葉に、弓香がロックグラスに味醂をさらに注ぎながら


「マジか…そやけど、普通は店で捌いてもらうもんちゃうの…食べられるように…」


 と、弓香。


「そう、そうなの。だから、鍋用に切ってもらおうって言ったのに、山下クンが“大丈夫だ!オトコふたりいるんだよ。ルイ子クン!”ってノリノリで購入しちゃったんだな。コレが…。歩きながらワタシも加藤クンも山下クンも缶ビール数缶飲んでいたけどさぁ…。それでね、“結婚、前提だったから思い切って買っちゃったんだよなぁ~加藤。ン十年ローンで…”“まぁなぁ…そのスッポンの金額の千倍以上でな”って、なんだかワケわからない話の流れで、“じゃ、みんなで鍋やろうか!鍋って”…そのまんま加藤クン宅に行くことにしたのよ。もちろん、外泊になるからちゃんとママに連絡してネコたちのご飯はお願いしたワ。だって、そう言うのって飼い主としては当然でしょう」


 猫にエサをやることを親に頼むのは猫好きルイ子の当然の配慮といえば、配慮だが…ルイ子の飼っている猫の数は、わたしが名前を聞いているだけでも両手両足の数の三倍以上だ。その殆どが、都会の中での正しい猫の飼い方の推奨版、家猫、部屋猫ってヤツだから、エサを与えないで置いたらどうなることかわからない。頼まれなくても、恐らく親は猫にエサを与え、静かにさせることだろう…。そんなことを心で思いつつ、


「流石、ルイちゃん。猫には優しいのね!」


 と相槌を打つ。ルイ子がわたしを睨みながら、


「優しいのは猫だけじゃないわよ!オトコにも優しいのよ。だから、加藤クンを慰めるつもりで誘ったの!」


 いや、それは違うだろう。…当日、わたしが曖昧な返事をしていたから、それで、遊び相手が欲しくて加藤クンに連絡したんじゃないのか…ふと、そう思ったが、何も言わない。


「で…ノリで購入しちゃった生きたスッポンをコンビニ袋に入れて、加藤クンのマンションがある松戸に向ったの。一応、鍋だから…野菜なんかも松戸駅前のスーパーで買ったけど。キホン、料理って苦手っていうか…猫ちゃんたちのご飯しか作れないから、ルイちゃん料理して!って言われたらどうしようかって思っていたら、エレベーターでお部屋がある15階まで上がり、マンションのドアを開けた途端、加藤クンがいきなり主婦モードスイッチON!っていうか…マジ、キチンと片付いた部屋でビックリしたよ」


「まぁ、そんな感じやないの。オトコの人がみんな汚部屋や思うんは女の潜入感やし」


 と、弓香。確かに、そうかも知れない。潔癖症の男女差などはほとんどないと、数か月前に取材した精神科医の言葉を思い出す。ルイ子が、弓香の言葉にちょっと首をすくめ、


「…ん、確かにね。亜美のとこの部屋の隣の仕事部屋なんか、ゴキブリだって逃げ出すほどだしね」


 確かにわたしの仕事部屋は紙資料などが散乱し、足の踏み場がなく散らばっていたハサミを踏んで流血したことはあるが、自慢じゃないがまだゴキブリとは遭遇したことはない。「あのさぁ…」と言いかけると、ルイ子が味醂コーラカクテルを飲みながら、


「加藤クン宅のマンションだけど20畳ぐらいあるリビングには、50インチサイズのデカいテレビが壁に張り付き、プチ映画館。ベランダからは夕暮れの松戸の街がキラキラとノスタルジック!で、驚いたのが、キッチン!台所用品が揃っていたのよ。それも、コワイぐらい……鍋も中華鍋からはじまり寸胴まで。包丁なんか、なんでも切れる三徳だけじゃなくってずら~っと、30種類以上が壁に。全部カタチが違うヤツ。加藤クンが自慢気に“これさぁ~、変わっているだろう。ウナギ裂き、江戸と関西でカタチ違うだよ。これなんか…中華街で買ってきた中華包丁だよ。って、ニコニコしながら説明始まって、実は昔調理師になりたかったらね。って”ピッカ、ピッカの台所で“スッポンか…俺もはじめただなぁ~”って超嬉しそう。で、棚の奥に仕舞われたていた、どっかの料亭でもらったっていう土鍋だして、いちいち薀蓄付きの材料がすら~~~~。あっ!そう言えば、この味醂…どっかで見たと思ったら、加藤クンの台所よ。」


 と、テーブルに鎮座する李白の本味醂をルイ子が指さし、グラスに味醂を注ぎながら、


「で…山下クンが“ルイちゃんは、スッポンって捌くのってけっこうグロいからオトコに任っかせなさ~い!”って、加藤クンが”適当にテレビでも観ていたいいよって“言われてスイッチいれたら…エッチDVD!」


「うそっ!」


 と、わたし。


「マジ?で、どんなんやったんルイ子?」


 弓香がカラダを乗り出す。どうして、ソレを聞きたがる…。


「それが…ユミしゃん…普通のじゃなくて…」


 えっ?普通のじゃない?!って…でも、ルイ子の普通じゃないは、実は普通なのかも知れないとも思う自分がコワイ。


「普通じゃないって、どんなヤツなん?」

「…ん…あの加藤クンがって、すご~く意外なんだけど…後ろ系だったんだ。そのDVD!」

「なんなんそれ…その…」

「だから、あそこじゃなくて、あっちを使うヤツだったんだ。ヤルとけっこうアレってイイ感じなんだけど…なかなか、そう言う趣味の人っていないじゃん」


 そのルイ子の言葉に、弓香が口に含んでいた味醂を吹き出す。ちょっと待て、ルイ子!おまえはなんでそんなことをサラリと言う。味醂の酔いが一気に回る。ルイ子が松戸で買ってきた果物ゼリーに味醂をぶっかけながら、


「で…DVDだけど、かなりマニア向け。普通は女優さんの顏とかしっかり出るじゃん。そうじゃなくて、ほとんどソノ部分だけ、女のコの顏なんかなし!」

「ソノ部分だけって…それって裏ってやつ?」

 弓香の言葉に、

「裏ではなかったと思う。だって、ちゃんとアソコ、ボカシていたもん。で、ねぇ…DVDのことを加藤クンに聞くつもりでキッチンに行ったら、山下クンが“お、俺…やっぱダメかも。食うのはいいけど…”と、まな板の上で頭がブチ切られたまま、まだピクピク動いているスッポン見ながら青い顏。でも、加藤クンは平然とユーチューブ見ながら、調理人みたいにスッポンさばくのはある意味職人芸、カッコイイって感じ!その手さばきのほどを、アイフォンで撮影しちゃえなんて思っていたら、リビングから山下クンの“お~!”って声。さっきまで青い顏してたクセに“加藤~、このDVDヤバクない…”って。でも、加藤クンなんか山下クンの言葉に“あっそれ…普通かなぁ…もっとハードなのあるし、鍋食いながら見る?”って」

 って、て…ルイ子の話に、もうわたしも弓香も鳩が豆鉄砲を食らったような感じ。だって、写真サークルのなかでも背も高いし、どっちかと言うと椎名桔平と大沢たかおを足して2で割った感じで女のコたちでもある意味で狙っているコは少なくない。会社にしても、場所は上野でちょっとザンネンな場所だけど、本社はド~ンと六本木!それに松戸にマンションありは、ローン支払い中でもリアル派の女性にとっては正直オイシイ男の部類。が…だんだん、ルイ子の話で、正直頭がイタくなってきた。弓香が、味醂ぶっかけ果物ゼリーをネイルで光る指でつまみながら、

「ん…そやけど、プロ並みに料理する男はなぁ…友達には最高かも知れんが、夫となるとなぁ…」

 と、胡坐座りで頭を掻く。女三人、ワイン+味醂のアルコールでだんだんオヤジ化してくる。ルイ子が、

「で…料理だけじゃないのよ。加藤クン…あっ、と言う間に捌いたスッポンを鍋にコンブと一緒に鍋にブチ込みなが、“ルイちゃん、日本酒でもいい?せっかくのスッポンだし、お酒もそれなりものを選んで飲みたいでしょう。…純米酒がいいよなぁ~。この場合は…楯野川 純米大吟醸か、山田錦の開運かなぁ~。そう思うよね。ルイちゃんも!”ってなんか違う世界でニヤニヤ」

「えっ…そこまで本格派?」

「そうそう。意見聞かれてもさぁ…日本酒なんてわかんないし。パパと料亭で飲むけど、いつもお任せだからね。でも、なんか写真撮影している時より加藤クンイキイキしてた。で…リビングの卓上コンロにスッポン鍋置いて三人で、冷酒で乾杯。DVDはそのまんまだから…デカい画面の中で…なんかすごいの…よね…。きっと弓しゃんなんかソレ見たら吐くよ。吐く!」


 って、なんか聞くのがコワイ。ルイ子が、聞きたいって顏でわたしと弓香の顏を覗き込む。きっとスッポンの解体よりもエグい内容になる、聞かないほが…と思いながら「それで?」とルイ子の言葉を促す自分がコワイ。ルイ子が目を輝かせ、味醂果物ゼリーを数粒まとめて口に放り込み


「…だって、数人の男がさぁ…グルグルに縛れている女のコのお尻をグイって開いて、イチジク浣腸していくんだよ。…1個とか、2個じゃなくて…20個ぐらいかなぁ~」


「え~~~、浣腸20個?!」

「鍋食いながら見るんか、そんなもん」


 その先は想像したくないが、ついその先も知りたくなる。


「女のコがさぁ、痛い、痛い…ってなってくるじゃん。そしたら、オトコっていうか、オヤジが女のコのお尻の下で口開けて…出てくるものを…」


 そこまで聞いて、弓香が耳をふさぐ。


「あかん、ルイ子…それ以上は…」


 でも、ルイ子はニコニコしながら、


「…出しちゃうんだよ。口の中に…。スッポン鍋だからいいけど、カレー鍋だと流石にキツかったかも」


 ルイ子がゲラゲラ笑う。ちょっと待て、そんなDVDはスッポン鍋でもカレー鍋でも普通はキツイでしょう。そう思う。ルイ子の話はまだ続く。



 ●■●ルイ子の告白/お嬢様……ま、まさか…ねぇ…


 1升瓶の味醂が半分以上なくなり、テーブルの上のつまみが底をつく。


「ポップコーンでも作る?」

「ええんちゃう」

「キャラメル風味希望!」


 甘党のルイ子がキャラメルポップコーンをオーダーする。面倒臭そうだが、鍋でポップコーンを爆ぜらせている間に、小鍋にキビ砂糖、コンデイスミルク、バターを入れて色づくまで煮詰めたものか、冷蔵庫の中の買い置きのキャラメルシロップやメープルシロップを熱々のポップコーンにザッとかければ、簡単にできる。甘いポップコーンだけだと、胸やけしそうなので、自家製のハーブソルトを使ったポップコーンも一緒に作る。ポンポンとポップコーンが爆ぜる音がする間もルイ子の話は止まることはない。


「……ユミしゃん、お尻って経験ある?…浣腸とかさぁ…」


 ルイ子の言葉に、弓香が俯き、顏を赤らめる。その一瞬の行動から、


「ユミしゃんも?!」


 “も”ってなんだよ、“も”って。弓香が大きなため息をひとつつき、


「あるんちゃうの?誰でも浣腸経験の1回や2回…病院で」


 と、開き直る。味醂といえども、アルコール度数は14%。弱いとは言えない。悪酔いすると酒癖がめっぽう悪くなるので、ポッポコーンをテーブルに置き、ルイ子の話の続きに戻す。


「で、ルイ子。DVDの続きは?」

「そうそう…加藤クン宅のDVDって、“他のも観る?もっとすごいのあるよ!3Dでも楽しめるヤツ“って、あの映画館なんかにもある3Dメガネ渡されたの。で、三人でメガネかけて、3Dバージョンのエロ。それも、後ろ系!目の前に迫ってくんのよねぇ…女のコのお尻のアップが!なんかさぁ…診察モノなんか、すごかったよ。デカいガラスの浣腸器をズッボッ!って…でお尻の中に、で、あんなことやこんなことしてから、オトコが手入れちゃうの…その女のコの肛門に…」

「フィストやな…」


 弓香がポソリと…言う。弓香が女流カメラマンとしても仕事をしていが、仕事の詳細は知らない。がエッチな現場の写真も撮影したことはあるらしい。


「ユミしゃん…フィストって言うの?それ?」


 ルイ子がはしゃぐが、弓香は知らんふり。


「で、ねぇ…スッポン鍋食べながら、DVD鑑賞していたらなんか熱くなってきちゃったんだよね。それに、加藤クンが選んだお酒も超美味しくて…」

 そりゃそうだろう。スッポンといえば、昔から滋養強壮効果!良質なアミノ酸パワーが、精力増強の効果もあるなんてことを少し前に調べたような…調べなかったような…。そんなことをふと思いながら、この先の話は…ああ、やっぱり?と思っていたら、


「それで…なんか、勢いっていうの?成り行きっていうのかなぁ…3人で一緒に風呂でも入る?って、そう言うノリになっちゃったワケよ」


 って…♂2名と一緒に普通は風呂には入らないよ~~~。家族じゃないし…と思ったが、ルイ子が学生時代に混浴サークルとやらで、会長をやっていたことを思い出した。だから、そう言うコトは、ルイ子の中では普通なのだ。


「ルイ子、お風呂ってハダカになるんちゃうん?」

「お風呂だからね」

「あんた、そういう平気なん?」

「だって、温泉じゃみんなハダカでしょう」


 ロックの味醂に、キャラメルポップコーンを浸しながら弓香が飽きられた顏でルイ子を見る。


「でもねぇ…ユミしゃん。加藤クンちのお風呂って、ベランダ側にあって窓が超広いの。お風呂に、ミストサウナにジャグジー、テレビまである超贅沢品なんだよ~。“俺ひとりだと、シャワーだけが多いけど…なぁ…この風呂広すぎるし…”とちょっと寂しそう。やっぱ、婚約寸前まで行ったのにNGはキツイだよね。って思っちゃった。思わず加藤クンの後ろ姿をムギュ!しちゃったよ~。で、三人でお風呂!山下クンが顏のワリには、すご~いカラダキレイなんだよ。腹なんか割れていてさぁ…。で…流石にちょっと狭いけど、3人で湯船に入ったワケ。…だって、加藤クンが“これさぁ…地元の温泉の湯の花。せっかくだから、入れてみんべい”って東北弁。お風呂からスカイツリーまで見えて、マジ…キレイだなぁ…と思ったら…なんか、ふたりともスッポンパワーでアレがデカくなっちゃったワケ」


 えっ…それで…お風呂で3P?!なんてコト想像していたら、


「でも…みんな酔ってるし。なんか、鍋食いながら見ていた画像が頭にチラついてさぁ…。後ろってどうなのよ?って、話になってきたワケよ…で、言っちゃたのよネ“興味あるなら、やってみる?”って」

「はっ?…なに…それ…?」

「なんなん…ルイ子…ワケわかれへんわ」


 いつものことだが、話を聞いているうちに眩暈を感じる。もちろん、それは血液型がA型のわたしにとってルイ子がB型だということだけではなさそうだ。


「でね、ポーチの中にイチジクさんとか、ローターとか入っていること思い出して、お風呂から出てふたりのために用意してあげることにしたの。だって、普通の3Pなんてつまんないでしょう。ふたりともけっこうアレは大きいし、そんなのいきなり挿入されたらコワレちゃうもん」

「じゃ、ルイ子ってふたりにイチジクされたん?」

「それがねぇ…ユミしゃん聞いてよ…聞いて下さいよ。イチジク用意して、お風呂に戻ったの。で、ふたりに浣腸されちゃって、あんなこと、こんなこともイイかもってちょっとだけ思っていたのに…山下クンが“じゃ、ジャンケンで決めるか…誰が誰に浣腸するかを”って。で、マジ、ジャンケンしてさぁ…加藤クンがわたしに、わたしが山下クンに、山下クンが加藤クンにってことになってね…で…」


 で…ではいいけど、なぜルイ子のポーチの中にそんなもんが入っているかは謎と言えば、謎だが元カレが超マニアでハマった…ってコトは聞いたことはある。なんでも、前よりもお尻フェチだったから、数珠状のアヌスパールってもんとか、アヌスバイブってものとか…そっち専門のお道具も。ルイ子の話だと「使う前に出さないと汚れちゃうんだよね~」って話を、インドカレー専門店で聞かされたことを思いだした。ルイ子のことだ。未だそのカレには未練ありだと言っていたし、再会した時にいつでもベストな状態で楽しめるように、それらのモノが常にポーチに携帯されていることは、通常の人間には理解できないことかも知れないが、ルイ子にとっては普通と言えば、普通で、元カレへの配慮なのだろう。ルイ子が何かを思い出したように、顏を赤らめふ~と大きなため息をつきながら、


「で…やったんだな。浣腸を…。加藤クンって、流石に毎日イメトレしているのか、ああいうDVD見ているから、浣腸すご~く上手。肛門の弄り方も手慣れていて超ビックリ。ある意味で元カレ以上かな。声だしてマジ感じそうだったわ。で、加藤クンに浣腸されてから、今度は山下クンに浣腸してあげたワケ。ワタシも初めて男の人の肛門にイチジクを…。なんか、すごくアレって興奮しちゃうよね。加藤クンが“トイレはふたつあるから、俺のは後でいいよ”って…でも、浣腸ってさぁ…しばらくするとお腹の中がフラメンコ状態になってくるよねぇ…。山下クンなんか10秒もしないのに“ダメだ…痛いよ。もう我慢できねぇよ!ってトイレに駆け込んで…で、しばらくして、ワタシも痛くなってトイレに入ったの」


 3人で風呂に入って、なぜ浣腸ごっこになるのか、通常では全く理解できない展開になっている。ルイ子が、ゴクリと味醂を飲み、


「で…さぁ…トイレから出て、あんなことやこんなことを加藤クンと山下クンにされちゃうのかななぁ~。ほら、漫画とかよくある見たいにお口に咥えたまんま、後ろから挿入とか…それとも、ふたりに抱きかかえられてとか…超エロ妄想しながら、お風呂場に戻ったら、“なぁ、優しくしろよ。お、俺…浣腸されるの初だからな”って加藤クンが山下クンにお尻向けてたの。山下クンが“…じゃ、マッサージとかしてみる?”って加藤クンの肛門を触ったんだ。そしたら、加藤クンが“なんか…あっ…おい…”って声出してちゃってさぁ。裸だから見えちゃうよね。アレもさらに大きくなってんの。その大きくなったのを山下クンが“なぁ…お前って…”って、ワタシのこと忘れちゃったみたいにふたりの世界に…」


「ええ…じゃ、ふたりってそういう趣味?」

「ふたりとも女にモテるほう違った?」


 わたしは弓香と顏を見合わせる。同時にゴクリと味醂を飲む。

 もう、味醂のロックとか、カクテルとかではなく、わたしも弓香もルイ子の話の顛末についていくことができなくなり、味醂をストレートで煽っている。


「で、どうなったわけ?加藤クンと山下クンは?」

「ユミしゃん、驚かんといてなぁ…」


 って、ルイ子が弓香の関西弁を真似て言うが、もうココまで話を聞いてしまうと、驚くこともないような気がする。


「…加藤クンがワタシを見て”俺のこと軽蔑する?“って言ったから、”愛って、それぞれでしょう“って言ったの。そしたら、加藤クンが山下クンのことをじっと見つめて”山下…いや章夫…俺を受け入れてくれるか?“って、こういう場所でそう言うこと言う?山下クンが怒りだすかと思っていたら、山下クンも加藤クンのことを見つめて”お、俺だって…前からか、加藤いや…おまえ…誠ちゃん…“って肌と、肌をヒシッって抱き合ったちゃったの。で…なんか、さぁ、流石にそこから先は見ちゃいけないって感じで、ひとりお風呂場から撤退。そのまんま、終電で帰るつもりが、もう終電なんか終わっていたし…」

「あれれ、見学はせんかったんか?」

 と弓香の言葉に、

「な、なんで…そんな…見られへんわ。だって、“誠ちゃん…痛かったらごめんね”“大丈夫だよ…俺、我慢するから…それに最初だけだろう。痛いの…”ってボソボソ声が聞こえるし…もう夜明けぐらいまで…章夫、誠ちゃんって名前を呼びあいながらのオトコとオトコの熱い吐息がさぁ…」


 って、そりゃそんな状況じゃルイ子が朝っぱらから、電話をかけてくるはずだ。しかし、ルイ子の話を聞きつつ、


「…今度、ふたりと会うの微妙だわ」

「ああ、聞かんほうが良かったわ。どんな顏して例会でふたりと会うのんよ」


 味醂片手に弓香とルイ子を睨むと、


「なんてことないじゃん。オトコ同士が愛しあってどこが悪いワケ?そういうの偏見っていうのよ!亜美、ユミしゃん!…加藤クンも山下クンも大切な友達で仲間でしょう!」


 と、まるで普通。確かに、古代ギリシャ時代には、オトコとオトコの愛が一番崇高なことだと、時々ベッドインする哲学者からベッドの中で聞いたばかりだったことを思いだした。


 ルイ子がグラスの中の味醂を一気に飲み干しながら、


「ああ、なんかちょっと残念だな。あのふたりとだったら、3Pも楽しめそうだったのになぁ。まだ、経験ないんだよね。乱交ってヤツと3Pは。ねぇ、今度一緒にどうユミしゃん、亜美!」

「…まぁ、人生一度だけだしねぇ。そのうち、いいかも知れんけど、今はパスやわルイ子」


 弓香が大きな声で笑う。釣られてわたしも笑いながら、まだ少し飲み足りないので、


「ねぇ、外で飲み直す?味醂じゃなくて、美味しいワインでも。駅前のバルが今日オープンだから、ボトルサービスのクーポンあるんだ」


 と、ふたりを誘った。


「亜美、それいいね!」

「味醂でこれ以上酔うんわ。堪忍やわ~。ほな行こうか」


 弓香が立ち上がる。


「汚部屋だし…このまんまでもいっか!」


 と亜美がパッと立ち上がる。窓の外はいつも間にかオレンジ色。そろそろ、今日も日が暮れようとしているのだった。



 ●■●恋愛相手は、年下VS年上?!


 お昼からワイン、味醂、そして再びワイン。

 大塚駅の路地裏にあるオープンしたばかりのバルに陣取った。日焼けした顏のマスターが顏だし、クーポンを渡すとムッサ・カヴァ・ブリュットNVヴァルフォルモサをテーブルに置いてくれた。弓香がボトルを見ながら


「…超お手頃ワインやん。そやけど、ワイン漫画でも紹介されとったし、『sakuraワイン・アワード2015』ダブル・ゴールド受賞しているヤツやんコレ。このバルけっこうセンスええんちゃうかなぁ…」


 まだ宵の口でお客も少ないので、弓香の声に長髪を後ろに束ねた店長が、


「お嬢さんワイン通だね。わかってくれて嬉しいよ。とっておきのタパスサービスするよ」


 と上機嫌で、たらのすり身とジャガイモで作るたらのブニュエロを人数分。なんだか得し気分になり、サイフの紐が緩み弓香はローズマリーの香りオリーブのマリネ、わたしはスパニッシュオムレツ、ルイ子はニンニクのトマトサラダアホトマテとエスカリバーダと呼ばれる野菜の焼きマリネをオーダー。スペインにマドリードでフラメンコギターに魅せられ滞在しながらバルで働き料理を学んだけあり、格安のクセに本格的。


「やっぱ、味醂じゃあかんわ。ワインでなきゃ!」


 まるでキリッとした高級シャンパンのような味わいのスパークリングワインを舌で転がすようにして飲む。ちなみに、弓香の話によると、シャンパンと同じ醸造法の製法でつくられているからワンランクの上の仕上がりになっているのだとか。丁度、1杯目のグラスワインを飲み終えた頃だったアイフォンのメール着信音が鳴った。…相手の名前を見る。えっ…?!ウソ…思わずお酒の酔いではなく、顏が赤くなるのがわかる。


「どうしたの?」

「ええ人からのメール?」


 ルイ子と弓香がわたしのアイフォンを覗き込む。ルイ子は学生時代からイラストを、弓香は写真家だけあって観察力が鋭い。


「えっ…まぁ…」


 ほろ酔い気分もともなって、頬を染めた。


「相手は誰なん?」

「亜美のことだからどうせまたジジイでしょう」


 ルイ子がわたしを見る。


「何歳なん?」


 弓香が追い打ちをかける。


「…え、55才…いや60才だったかなぁ…」


 その言葉に弓香が絶句する。


「亜美、それってお父様と同じだわ」

「へぇ~、そうなん」


 そうなのだ。なぜか、頼れる人、話がわかる人、包容力がある人と思っているうちに、ファザーコンプレックも手伝って、気がつくと10才年上は当たり前、20才上でも平気、それ以上でも相手によっては全く抵抗がなくなっていた。もちろん、ちまたで言われる援助交差のようなのものではなく、れっきとした恋愛だ。…いや、恋愛だと思う。相手が上であり、資産力もそれなりにあるので、食事に行けばお金を出してもらっていることはあるが、それ以上は要求するつもりはない。


「で、今度の人はなにをしてはるひとなん?」

「…教授。哲学」


 ポツリと言うと、ルイ子が顏をしかめ、


「えっ…もしかして、この間の本のジジイ?」

「いやまぁ…ジジイと言えばそうだけど…」

「やめとき、そんなジジイ!オトコは若いのが一番よ」


 常に自分の年齢よりも、5つ以上下の男としか付き合わない弓香が言う。が、弓香の場合はいくら元気がイイほうがイイ言っても、高校生とまではある意味で犯罪ではないかと思う。


 


 









 






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お嬢様のヒミツ♡ 吉原杏 @saita99

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