完璧な答え
「ねえ」
メインディッシュを前に、あたしは律くんにどうしても聞いておきたいことがあった。この料理を食べ終わって、宝石みたいなデザートを食べる頃には、きっとあたしたちは結論を出さなければならないから。
「どうした?」
「もし私が、耳が聞こえなくなったら、どうする?」
完璧な律くんが、フォークを落とした。近くにいたウエイターがすぐに新しいものを持ってきた。完璧な彼が慌ててみせる姿が、あたしはなんだかおかしかった。しばらく言葉にできなくて、今にも土砂降りになりそうな曇り顔で、律くんは恐る恐る口を開いた。
「そんなの悲しいよ。そんな悲しいこと、どうして……」
「ごめん、変なこと聞いちゃった。冗談だよ、病気とかじゃないから」
「もしそんなことになってしまったら、世界中のお医者さんの中から治せる人を探そう。それか、世界で一番性能のいい補聴器を……いやそれよりも、」
「律くん」
あたしは満足だった。律くんのポーカーフェイスを崩せただけでも満足だった。律くんはきっと、充分過ぎるぐらいあたしのことを愛してくれている。あたしは、きっと幸せになれるんだと思う。
「ありがとう」
だけど、罪悪感があった。どれだけ律くんがあたしを満たしてくれようと、あたしの心の奥底で、どろどろに甘く溶けた古い砂糖菓子が、いつまでもこびりついていたから。
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