完璧な食卓

「口に合わなかったかい」


律くんが心配そうにあたしを覗き込んでいた。前菜の次に運ばれてきたスープを前に、気付けばあたしの手は止まっていて、あたしは慌てて首を振った。


「ううん、あんまり素敵なお店だから、なんだか緊張しちゃって」

「もう少しリラックス出来るところのほうがよかったね」

「そんなことないわ。私こんなに美味しいものを食べたの、生まれてはじめて」


そうかい、と律くんが目を細めて笑う。確かに、こんなに美味しい料理は律くんと付き合うまで口にしたことがなかった。料理の名前の知識もたくさん増えた。背の高いピンヒールを揃えて、背筋を伸ばして、あたしは行儀よくスープを掬ってみせた。スープに映った自分の顔を見て、これは誰だろうとぼんやり思った。

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