第6話

 忘れていた…………


 手足を引きちぎられた記憶が、体の奥からかき出される。哀しかったような、嬉しかったような曖昧な記憶。けれどもそれは、一瞬にして、背中にかかる重みで消された。


 アユムの頭は、ずぶずぶと砂に埋もれていき、もはや地上には、バタバタもがく膝から下しか残っていない。重なり合う音は一層大きくなり、いつもと違う響きでアユムの上空を通り過ぎようとしている。


「アユム!」


 誰かが叫んでいる。聞き慣れた声だ。途端に、ふっと背中が軽くなる。アユムは砂をかきむしった。這い出ると、眼の表面で細かく動く砂粒の先に、毎日見ていた飛行物体の七つ目が、ひゅるひゅると螺子を巻くように墜ちていくのが見える。水面に叩きつけられる音が、先を飛ぶ六機の轟音に紛れた。とろとろと形を変えながら立ち昇るしぶきは、成長する透明な生き物のようだ。


 グワッシャン…………砂浜に激しく振動が伝わり、アユムの横に大きな塊が転がった。這いながら眼を上げると、ひとりの少年が不満げにくちを尖らせアユムを見下ろしていた。


 ぱ・ち・り。アユムはゆっくり眼を閉じるようにまばたきした。海の粒が、目頭から、とろりと頬を伝わる。


「エリ?」


 アユムは、宇宙の果ての瞳で少年を見た。少年の背後では、空にそそり立った透明な生き物が、どろどろとゆっくり海に戻りながら、墜ちた飛行物体を呑み込もうとしている。先の尖った長い金属棒を肩に担いだエリは、ぷいっと顔を背けた。


「我楽多屋のニナに聞いて……たぶん、ここにいるだろうって……」


 そこまで言って頬を膨らませる。


「いつ、そいつらに襲われるかわからないんだから、ひとりでいるのはよくないと思う」


 怒りたい衝動を抑えるように言ったけれど、アユムはぽかんとくちを開け、砂にまみれた自らの裸体をまじまじと眺めていた。エリはきりきりと歯を擦り合わせ、ふんっとアユムの横に転がる大きな塊を片足で踏みつける。ギィーギィー……金属の摩擦音が響いた。


 強固な鎧を全身にまとった、この巨人の正体を知る者は、アユムやエリの周りにはいなかった。彼らは、巨人が動く度に聞こえる摩擦音を名前の代わりに呼んでいた。ギィー……と。

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