PV欲しい?100000000人でも同じこと言えんの?

ちびまるフォイ

ありがとう、い~い薬です!

「くそ! ぜんぜん増えないじゃないか!!」


『増える!PV術』を実践したのに俺の小説は誰にも読まれない。

流行りの異世界ものやハーレムを出しているのに低空飛行まっただなか。


「結局、人気者にしか光が当たらないんだよなぁ……」


「お困りですか?」


急に声をかけられたので驚いた。

開きっぱなしのパソコンに顔が映っている。


「私、フォロワーあっせんをしております。

 パソコン越しで失礼。あなたから浮かばれない心を感じたもので」


「そうなんです! 俺の小説が誰にも読まれなくて……」


「ええ、ええ。その辛さよくわかりますよ。

 産みの苦しみを味わったのに、見返りは釣り合いませんからね」


「どうすれば読んでもらえますかね」


「今、あなたに100000000人のフォロワーを追加しました」


「はぁ!?」


マイページを確かめるとフォロワーの数がはみ出している。


「私はネットの中に住んでいますからね。

 これくらいの橋渡しはお茶の子さいさいというわけです」


「ありがとうございます! なんてお礼をいったらいいか……」


「料金は後払いでお願いします。

 1週間後のキャンペーン期間終了にて」


「え゛……めっちゃ金取られるとか?」


「今のあなたにできない請求はしませんよ」


「安心しました……」



「それより、これからあなたの小説は1億の人間に自動的に読まれます。

 大変なのはこれからですよ」


「書籍化まったなし! ってことですね!!」


「とらえ方はひとそれぞれです……ふふふ」


パソコン男は消えていつものデスクトップに戻った。

試しに近況報告を書いてみると、サーバーが落ちるほどの返信が来た。


「す、すげぇぇぇ!! こんなに見てくれているんだ!!」


コンビニで飲み物買っただけの報告なのに。

今や俺の注目度はものすごいことになっているはず。今こそ投稿するときだ。


かつて新人賞応募に書いていた作品を満を持して公開した。


「賛否両論はくるだろうなぁ。でも、みんなに見てくれるなんて最高だ!

 今まで誰も読んでくれなかったからな」


コメントはなぜか一気に来ることはなく、1人1人時間差でやってきた。

批判する人も、擁護する人もいっぱいいた。


「作品読まれるって最高!! キャンペーンやってよかった!!」


期限は1週間なのでこの時期にたくさん書いておこう。

俺はかつてない更新頻度で続編や新作を投稿した。



3日が過ぎた。


はじめた当初の嬉しさはもう恐怖へと変わっていた。



>更新遅すぎ。しかも内容ぺらっぺらだし

>流行りもの書きました感がすごい

>次あたりライバル出てくるだろ

>いや、学園対抗(笑)のバトルじゃね

>コンビニの買い物報告いいからさっさと書いて

>はいまた創作論語りはじまりましたwwwww



コメントを一目見た瞬間にパソコンを閉じた。


更新頻度を上げて投稿した結果、1回の密度はどうしても薄くなる。

それについての文句が多くなったのでちゃんと書こうと思ったものの

1億人もいると次の展開を予想されたりしてしまう。


>やっぱりなwwwww


この予想通りだとコメントされるのが本当に怖い。

予想を裏切ることもできず、引き延ばし展開だと批判は免れない。


「見られるって……こんなに怖いのかよ……!!」


アイデアが出ないとかのスランプじゃない。

1度書いてしまえば、寝る間もないほどの濃い更新を求められるため

安易に書けないことからのスランプ。


「忘れよう……! もう小説なんて忘れるんだ……」


このままじゃこっちの心が持たない。

なにも考えずに投稿できていたころの日が懐かしい。



4日目。


『現在、1億人のフォロワーを持っているWEB小説投稿主が

 連絡もないまま執筆活動を中断していることにフォロワーは怒りの声をあげています』


朝のニュースを見てくわえていた歯ブラシが落ちた。


「うそだろ……。こんなにも注目されるなんて……!!」


1億という数字を甘く見ていた。

これだけあれば1つのムーブメントを作ることすらわけないんだ。


見ないふりをしていても、町の電光掲示板で、ネットのニュースで、

おばさんの井戸端会議で、電信柱のちらしで、どうしても目に入ってしまう。



『早く書け』

『早く書け』

『早く書け』



全人類が俺にそう宣告している気がする。


「もうほっといてくれ!! こんなに怖いと思わなかったんだ!!!」


家に帰って布団をかぶって何もかも見ないようにした。



6日目。

1億人キャンペーンも最終日になった。


あれだけ騒いでいた世間も俺のストライキに根負けしたのか、もう前ほど騒がなくなった。


「はぁ……よかった……。今日1日だけ耐えきれば元通りだ」


一度は病院で胃にブラックホールができるほどの穴がストレスで開いたが

今はだいぶ執筆意欲も戻ってきて、体調も復調した。


SNSを見ると、俺への批判や急かす内容はなかった。その代わりに……。



>フォロワーのみなさん、こちらが本アカウントです。

 実はパソコントラブルで前のアカウントが消えてしまったので

 新しいアカウントで活動をはじめました。

 これからも応援よろしくお願いします。



「な、なんだこいつ!? なに勝手に俺を名乗ってるんだ!?」


俺が投稿しなくなった期間を"パソコントラブル"とこじつけて

もっともらしく小説を投稿してはフォロワーからコメントをもらっていた。


憎らしいのは、やや俺の書く文体に似せているくせにつまらないところ。


そのくせ、投稿スパンが開いたからフォロワーもひいき目に甘めの評価をつけている。


「ふざけんなこの偽物めーー!! 俺の人気にあやかりやがってーー!!」


俺にはまだ1億人のフォロワーが残っている。

こっちのアカウントで投稿すればこいつが偽物だと気付くだろう。


すぐに新作を書いて投稿するとフォロワーからのコメントが順次届いた。


>このアカウントでも投稿するんですか?

>壊れたって聞いてましたけど

>どっちが本物?


どれも戸惑いのコメントばかり。

"私が本物だ"の論争をしてもキリがない。


俺はただひたすらに小説を書いて、書いて、書きまくった。


賛否両論入り乱れるし、展開は予想されるし、バカにされるし、ネタにされる。

でも、俺の方に注目度が戻ってきたのがなによりも嬉しい。


いつしか偽物は忘れ去られて誰の話題にも出なくなった。



7日目。


「お疲れさまでした。キャンペーン期間終了です」


「本当に疲れました……。人気って大変なんですね……。

 叩き上げの作家みたく徐々に人気を獲得したわけじゃないから、

 慣れてなくて死にそうでした」


「1億人のフォロワーは解除しました」


マイページを確かめるとフォロワー数はがくんと減っていた。

でもキャンペーン期間前よりは明らかに増えている。


「あの、1億人フォロワー終わったんですよね?

 1万人増えてますよ。もとに戻さないんですか?」


「ちゃんと消しましたよ。でも、あなたの小説を本当に読みたくて

 消された後で再度フォローしたのでしょうね。期間終了後は管轄外です」


「1万人……」


こんなにも俺に興味を持ってくれているなんて。

1億人のミーハーよりも、1万人のファンがいることが嬉しい。


「本当にありがとうございます!!」


「お礼はいらないといったでしょう?」


「いえ、キャンペーンのことじゃないんです。

 あなたのおかげで、なんか小説を書く楽しさを思い出せたから感謝したいんです」


キャンペーン始まるまではPV数や評価の数を気にしていた。

目につくようなキャッチコピーも考えたし、タイトルも気を使った。


いつから小説は自分の評価のバロメーターになったのか。



偽物からフォロワーを呼び戻すために書いた小説。

それらはどれも前までの俺よりずっと面白いし、なにより書いていて楽しかった。


はじめてサイトに登録したときの「書く楽しさ」を思い出した。






「あと、1つだけ確かめたいことがあるんです」


「なんでしょう」


「1億人って、うそでしょう?」


パソコンに映る男は俺の言葉ににやりと笑った。


「ええ、ウソです」


「やっぱりね。人口を考えても現実的じゃないからな。

 コメントも同時間帯に一気に来ることもなかったし」


「その通りです。マイページに表示されている数字は盛っていました。

 実際にはもっと少ない人数がそれっぽく動いていたんです。

 ニュースまで火が付いたのは予想外でした」


「それはすごい」


1億人が嘘だと気付いたのは最終日間近になってからだった。

コメントする人となりも文体も変えていたので気付かなかった。


毎回ちがう人間のふりをして、賛成したあとに反対したり

次の展開を予想したりするコメントを書くなんて小説家でもそうできるものじゃない。


「では、キャンペーン期間のお支払いをお願いします」


「ええ。いくらですか? お金は下ろしてきてますよ」


「いいえ、お金は結構です。ただ……」


パソコン男はにやりと笑った。

気が付いたときには俺がパソコンの画面の中に入っていた。



「お代は次のキャンペーン時に1億人のフリをすることで精算してください。

 誰もやりたがらないので、困ってたんですよ」

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