第19話 未来を目指す三人。


「・・・おばさんはこの町から出ていくのか?孫もいるだろうに」


カズトの暗い話の後の沈黙を遮りケンは少し野暮だが聞いてみた、船の出向までにはまだ時間があるようだ、でなければこんな悠長にしゃべっている時間などないだろう。そしてケンの言葉を後に少しムルナが黙ってしまった、いけない、なぜ俺はそんなバカみたいなことまで口に出してしまうんだ。と、後悔しているとカズトが


「バカ」


と小さく言った。そしてムルナとケンから目を離し知らなかったかのように海鳥を見ている。・・・おそらくこいつはこの会話から逃げる気でいるな。とケンは冷静な結論を出した。つまりカズトは助ける気はないようだ。


「すまねぇばあさん!知り合いがいても今は追われる身だもんなしょうが・・・・・」


「あ。」とケンは更に後悔した、ムルナはさらに暗いオーラを出している。カズトはもうどうしようもないなコイツと言いたげな顔でいつの間にか海鳥から目を離しこちらを冷たい目で見ている。


究極にバカじゃねぇの?とでも言いたそうなカズトの顔を遮ってムルナは口を開いた。


「ふふ、冗談さ。確かに長く住んだこの町を離れるのは心苦しいよ、皆に嫌われているとしてもこの港町は私の大切な宝物がいっぱいさね」


続けて


「でも、もうこの町に私は必要ないんだと炎の中で気付いたよ、もう私の居場所はココなんかにはありゃしないんだ、だったら、せめてものあがきで自分で次の居場所を見つけるさ。」


「だからカズトちゃんと一緒に旅をしようと思ったんだよ。自分の居場所を見つける旅にね」


はい、お供しますよ。とカズトは小さく言った、カズトはこの、「エスキテルを殺し未来を変える旅」に仲間は作らないつもりであった、だがしかしムルナの自分の居場所を探す旅をしたい意思を聞いて、その意志が強いことを確認して共に居場所を探そうと決めたのだった。ムルナの行きつく「自分の居場所」が見たくなったのである。


ケンはムルナの言葉を聞いて胸が痛くなった、そして申し訳なさそうな顔で言った。

「ムルナおばさん、俺は謝らなければいけねぇ。」


カズトは、またケンが変なことでも言うのかと少し戸惑ったがケンの本当に後悔している顔を見て、自分の心からの本音を言おうとしているケンを見て安心して見守った。


「俺は最初町のうわさ、ムルナおばさんがキメラを作っているというほとんど根拠のない噂に俺は乗った。そして周りがおばさんを冷ややかな目で見ていく事を俺は・・・しょうがないと思ってしまった、本当かどうかも知らない噂に乗っかって・・・馬鹿だ、俺は。カズトがおばさんについて聞き込みを入れるまでおばさんがいじめられていることをしょうがないと・・・疑問にも思わずに。無視して・・・生きていた。」


何時しかケンからは涙があふれていた、自分のやってしまったこと、それを正直にぶつけているとなぜだか涙が止まらなくなってしまう。


「すまない・・・本当に・・・ごめんなさい・・・!」


海鳥がカアカアと元気に飛び回っている、そこに泣き、深く後悔している男と未来を目指している二人の若者と老婆が暖かい顔で鳴いている男を許し、からかいあっている。その光景は、とても素晴らしく、奇麗だ。




合成キメラ獣編、完


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