活動内容 ♯とは

 「で、自動車部つっても一体何すんだ? 」

 数分後、第二会議室の椅子に座った俺は訊ねた。しかし、苑浦はホワイトボードになにやら書き込んでおり、返事はない。代わりに、

 「そんなこと僕に聞かれてもねぇ」

 「何でお前がいんだよ……」

 部屋にはなぜか瀬雄もいた。牧島先輩につられて入部したわけだが、どうみても下心しか感じられない。

 「それを今から決めるんでしょうが。そんなこともわかんないの? 」

 今度は牧島先輩が毒を吐く。ダメだ、話のわかりそうな奴が全然いない。

 「まずは、一般的な活動内容をまとめてみたけど」

 いや、いた。導かれるように、俺たち三人がホワイトボードの方に向き合う。苑浦曰く、普段は車の整備をし、年に何回かある自動車競技の大会に出場するというものだった。ちなみに主な競技は、

 その一 ジムカーナ。広場に置かれたパイロンを所定のライン通りに走行し、その速さを競う

 その二 ダートトライアル。オフロードで行うジムカーナ。

 その三 耐久レース。長時間サーキットを走り、周回数を競う。

 といったものが主で、いずれもJMA主催の元、かなり厳格なルールで行われるらしい。思ったよりしっかりしてるじゃん、と思ったが、別の問題があった。

 「これ、ボクたちにはハードル高すぎないかな? 」

 瀬雄の言う通り。ついさっき出来たばかりのこの部活は、ガレージどころかプラスドライバー一本すらなかった。

 「それもそうね……」

 これにはさすがの苑浦も為す術がなかった。さらに整備といっても、東京だと品川や練馬、府中といったあたりに学生専用の整備工場があるためその意義も薄い。発足して一時間も経たないうちに、早くも俺たちは大きな壁にぶつかることとなった。

 「やれやれお困りのようね。自動車部だけにエンジントラブルかな? 」

 「全然上手くないっすよ」

 そんな中、楽観的な顔が約一名。頭を抱えている俺たちを横目に、牧島先輩は制服の胸ポケットから何かを取り出した。

 『クラシックカー特別優待券』

 何だこれ、と首を傾げる俺に牧島先輩は続ける。

 「生徒会室掃除してたらあったのよ。多分、校長先生がプレゼントしてくれたものみたいだけど、誰もいらなかったみたいで、ゴミ箱の中にあったわ」

 「ゴミ箱漁ったんですか……」

 「ち、違うわよ!中のビニール替えようとしたら偶然見つけたのっ」

 ジト目な瀬雄を見て、牧島先輩が慌てて弁解する。いや、この先輩野良猫みたいな所あるし、結構絵になるんだが。

 それはともかく、チケット自体はとある博物館が抽選の賞品として出したものらしく、中々に珍しいものらしい。

 「で、どう? 乗ってみたいと思わない? 」

 有無を言わせぬ調子で迫る牧島先輩。まぁ悪い話じゃない。この人なりに考えてたみたいだし。しかし、

 「あの、先輩。一ついいですか」

 どこか申し訳なさそうに、苑浦。

 「ふふん、何かしら」

 「博物館、ここから相当離れてるんですけど……」

 「え、マジ? !」

 驚きのあまりのけぞる牧島先輩。とはいえ、チラシに書かれた住所は箱根の山奥である。やはり放課後の活動には遠すぎる場所だ。だから誰も行く気がしなかったんだな。

 「けど、休日を使えば行けなくもないね」

 呆然とした彼女を助けたのは、瀬雄だった。彼は手招きして俺と苑浦を呼び寄せると、読んでいた地図を机の上に広げて続けた。

 「東名高速を使えば意外と近い。厚木で降りて、そこから三十分ってところかな」

 「瀬雄君詳しいのね」

 「いや~大した事ありませんよ」

 苑浦に褒められご満悦の瀬雄。その得意げな面は気に食わなかったが、なるほど、このルートなら二時間くらいで着きそうだ。

 「後はみんな次第ね。瀬雄くんはどう? 」

 「僕? いいんじゃない、行ってみても」

 「よしよし、よく言ったわ」

 瀬雄の返答に、牧島先輩が満足げに肩をバシバシ叩く。自分の要求が通ったのが嬉しいんだな。

 「後はあなた次第だけど、どうなの? 」

 「へ、俺? 別にいいけど……」

 成り行きで入った部活ではあるものの、断る理由もない。背後で猛禽類みたいに目をギラギラ輝かせてる先輩もいることだし。

「では、今週の日曜日に海老名サービスエリア集合で」

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