革命前夜の青年譚

馬田ふらい

革命前夜の青年譚

「君が好きだ」

大丈夫。明日、きっと言えるはず。

何度も風呂場で練習だってしたんだ。


〈デートの終盤、観覧車のイルミネーションの下、僕は言う。

「君が好きだ」

あの娘は予想外の出来事に顔を赤らめて、

「返事はあとで」

なんて答えるが、いじわるな僕はそれを拒否する。あの娘は照れくさそうに

「お願いします」

と言う。僕は彼女を抱き締める〉


これを、何ヶ月もイメトレした。


更に、一連の流れを録音して、本番どもらないために目覚まし時計の設定にまでして、今では平気で寝坊ができるようになっている。

いけるさ、大丈夫。


春の夜は眠れない。


なぜあの娘はデートを承諾したのだろう。彼女の心の奥深くにあるのは何なのだろうか。彼女を動かすのは何なのか。

要するに、あの娘は好意的な感情でデートの返事をしたのか、はたまた……。

答えは既知の物質かもしれないし、得体の知れない素粒子の雲かもしれない。

仮に僕がβ線やγ線なら、あの娘の心を透過してやるというのに、実際の僕は布団の中でくすぶっているばかりである。

ああ、そんな想像はナンセンスだと知っていても、胸の高鳴りは収まりそうにない。


夜風がほのかに暖かい。

風薫り我想う。

今ごろあの娘は何をしているか、と。

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