2−3

 助けて―――。

 必死で手を伸ばした。目に映るのは小さな自分の手。その向こうの風景は傾いている。自分が倒れているからだ。ボロボロのトタン屋根、割れた窓ガラス、機械類は錆びついている。町外れの廃工場だ。

 さっき、後ろから突然殴られた。意識が飛んで、今は古いパレットの上に横たわっている。

 少し離れたところで、男たちの声が行き交う。聡介が目覚めたことにはまだ気づいていないようだ。

 このガキどうする。見られたんなら殺すか。そこまでしなくても。この年齢じゃごまかせないだろ。やるなら早くしろ。

 複数の男たちが相談している。自分を、殺すかどうか。

 殺される? どうしよう、殺される……。

 助けを求めたら、正義の味方がきっと助けてくれる。そんなことを信じるほど幼くはない。春休みが終わったら四年生になるのだ。ヒーロー番組は観ているしおもちゃも持っている。

 だけど、正義の味方はテレビの中にしかいないことはとっくに知っている。現実には存在しないのだ。

 頭でわかっていても、このときは信じたかった。

 助けて、助けて…………。


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