夢見がちな僕の幻夢物語

フィッシュン

オープニング

 誰もが一度はしたことはあるであろう「学校の授業中にテロリストが乱入」「自分しか使えない超能力で無双」「とある物語の主人公に代わって自分が活躍する」といった妄想、俗に言う厨二病を経験したことはあるのではないか。

 高校に上がったら大体が卒業するのだが、未だに卒業する気のない 芥川 椋汰あくたがわ りょうたは通学路を歩きながらいつものように妄想を繰り広げていた。


「さて、今日も一日、結社ジャッジメントから要請なく平和に過ごせそうだな。」

 そう呟きながらスマホを取り出し本日の時間割を確認する。


「1時間目は国語に2時間目は数学か…。朝から眠くなる構成だな。しかし3,4時間目は体育だから体を思いっきり動かせる機会だけど。俺はあくまで一般な高校生だ。目立った行動をせずにいつも通り補欠に回るか。」

 誰に言っているのか分からない独り言をぶつぶつと呟く。側から見たら変人に見えるだろう。


 裏ではジャッジメントという架空の秘密結社のエースで、高校のカリキュラムなんていらないぐらいの知能を持ち、優れた身体能力を持っているが、暗躍するためによくある普通の冴えない高校生を演じている設定だ。しかし実際は運動神経が悪く、テスト順位は下から数えた方が早いぐらい悪く、コミュ症でボッチといったダメダメなクソ野郎だ。と言ってもそんなことぐらい本人自身、自覚している。


 いつも通り、頭の中で妄想ワールドを繰り広げているといつの間にか高校の敷地内に足を踏み入れていた。その瞬間、先ほど妄想を繰り広げていた思考が一瞬にして消える。


(はぁ、学校に着いちゃった…。嫌だな体育の時間。動くの好きじゃないんだけどな。)


 先ほどまでのぶつぶつとはどこいったかと思うぐらいの変貌ぶり。流石に彼も学校内じゃあれだとクラスで浮いてしまうと自覚しているので、そこは弁えている。だけどボッチの為、結局は浮いてしまっている。


 自分の教室にたどり着き、自分の席に座る。周りは友人や仲良しグループを作って喋っている中、芥川椋汰だけは机に突っ伏しながらスマホを眺める。


(帰ったら、僕には仲間達がいる。それまで今日は無事に一日を過ごそう…)

 そう言い聞かせながら、チャットアプリTwinツインを開き、自分が作った架空の相手に“おはよう”と返しながら、自作自演の過去ログを眺める。なお彼がこのアプリ内で作った自作自演のアカウントは100個以上に上る。


 そして朝のHRの時間なり、それから授業が始まる。

 1.2時間目の座学は、ただ聞いてだけであんまり理解せず過ごし、3.4時間目の体育ではバスケを行った。頭の中では自分の中の力を目立たないために抑えているとなど思っているが実際はそんなに活躍はせず、逆にパスを受けたボールを頭で受け取りぶっ倒れるという失態を犯している。


 そんなこんなで昼休みの時間となり、教室で寂しく過ごすのてはなく、そそくさと、とある場所へ向かう。そこは人の気のない校舎の裏側で、風通しの良い気持ち良いボッチスポットた。毎日のように雨の日でも傘をさしながらここで過ごす。いつものように母親が作ってくれた弁当を広げながら、スマホで携帯小説を漁る。


「おっ、マジックザオンライン通称MTOが更新されている。読まなきゃ」


 お気に入りの携帯小説を読みながら弁当を食って時間を過ごすしていると、いきなり、基本はあんまりなる機会のない通知音が鳴った。


 “Twin: 次元の管理者さんからメッセージが届きました。”


 通知にこう表示され、自作自演しかないアカウントに突然メッセージが届いた事を知らされていた。不審に思いながらアプリを立ち上げ、送り主を確認すると、デフォルトのアイコンで次元管理者という通知通りの名前から送られてきていた。


「なんだ、スパムか。珍しいな、公開範囲狭めているはずだから見つけにくくしているのだけどな」


 疑問に思いながら、送られてきたメッセージを開く。スパムだったら貼られているURLを踏まなきゃいいだけという気持ちで。


 "次元の管理者:

 突然のメッセージ失礼するよ。

 私は名前の通り次元を管理する者だ。

 まぁ次元というのは、簡単にいうと君が夢見る異世界みたいなものだ。


 さて夢見がちな君に異世界に招待しようと思う。

 いきなり事でスパムと思うかも知れないが、まぁそう思ってくれても構わない。しかしこのメッセージは今のところ君にしか送っていない。何故か君かと言うと、君は常に夢想的ことを考えているのではないか。中学生の頃は剣と魔法のファンタジーの世界の勇者で、最近では秘密結社のエージェントという設定だったかね。なかなか面白い。


 どうだいそんな幻想を現実的に体験したいと思わないか?

 先に言っておくが、君が好きな異世界転移・転生とはちょっと違うと思った方が良い。一種の体験だ。終わりは用意されている。


 さぁどうだい、君がこのメッセージに空メッセージでもいいから返信してくれれば、私の契りを交わすことになる。

 もし興味が無かったら、このメッセージを消しても良いし、私のアカウントをブロックしても構わない。そうなれば先ほどの誘いは無かったことになるし、君はこれからずっと夢見て生活することになる。


 返事はいつでも構わない。だけど早く決断した方が君の為、私の為もになる。


 では早い決断を待っている。”


 謎の怪しいメッセージを読み終え、一旦アプリを閉じた。


「何なんだこれ…。なんで僕の中学生の頃の設定を知っているんだ?誰にも言っていないし、Twinにもそんな事書き込んだ覚えもない。どういう事なんだ。」


 全てを見透かしているかのような文章に気持ち悪さを覚えたが、異世界へ招待しようという文を思い出す。


「でもな異世界か…興味はある。でも転移でも転生でもないってどういう事なんだろう。本当に携帯小説みたいな展開が起こるのかな?」


 まぁどうせ悪戯だろうと本気にはしていないが、もし本当かも知れない気持ちもありながらもう一度アプリを立ち上げる。先ほどの怪しい次元の管理者のアカウントを選択し、メッセージを開く。

 そして返信欄に、


 “いいよ。異世界に連れてってくれよ。


 するとアプリの通知音が鳴り、次元の管理者から返事が次元来ていた。


「返事はやっ!」


 自分が返信ボタンを押して、スマホを閉じようとした瞬間、返事が返って来たので不気味に思いつつ、来ている返事を確認する。


 “次元の管理者:

 どうも、早い決断をありがとう。

 こちらとしては助かるよ。君をすぐさま念願の異世界へ送れそうだ。


 さて手始めに体験してもらう異世界は、君が好きそうな王道なところにしてあげよう。

 大丈夫、すぐに慣れるさ。


 ではここまでメッセージを読み終えたら、スマホを閉じ、そのままの態勢で頭を下に向けて目を閉じていてくれ。

 そうすれば君を連れて行けるさ待望の異世界へ。


 では武運を祈る。”


 文章に不可解な点があるが、言われた通りスマホ閉じ、目を閉じながら頭を下に向けた。


(本当に異世界なんて行けるのか?)

 そう疑問に思いながらしばらくすると、

 突如、何かが割れた音と同時に後頭部を殴られるような痛みが走り、そのまま倒れこんでいった。


 さて、彼は使えるだろうか。これからが楽しみだ。

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