彼女はゆっくりと死んだ

 月下の本物川道場。
 それはKUSO創作の長である美少女サワメグが聖域とする不可侵領域である。
 門番のロッキンをツイッターの凍結騒ぎに乗じて突破した俺は、此処の主に挑むべく、聖域の最奥へと辿り着いた。

「……入眠に失敗しましたね。どうしたの?」
「お久しぶりですサワメグ姐さん。見ましたよ……清潔なしろい骨、相も変わらず鋭い拳だ」
「世辞は良い。少し見ない内に変わったな……書籍化で日和ったか? 今回もKUSO創作を出さずにレビューばかり……手ぬるい、あまりに手ぬるい」

 サワメグは相変わらずあの凛とした声で俺をからかう。きっとCV田中敦子に違いない。
 なんだかそれが懐かしくて、俺は右の拳を握りしめる。
 左腕だけは脱力し、何時でも動き出せるように。
 インストラクションワン、殺意を絶やすな。

「ロッキンを見習ったらどう? ねえロッキン、ロッキン……?」
「彼は死にましたよ。ツイッタランドに殺された」

 俺は氷漬けになったロッキンさんをサワメグの前に放り投げる。
 少し乱暴な手つきになったのは、きっと彼女がロッキンさんを少し心配していたからだ。彼女が注意を向けているということが許せなかった。彼女を殺しに来たのは俺なのに。

「死んでる……死んでるの?」
「変わっていかなきゃ生きていけないんですよ。創作も、アカウントも」
「世界は悲しいことばかりだ。肉の身体が余計なのだ」
 
 だが氷漬けのロッキンさんを見て、あの女は笑っていた。
 いや違う。笑ってすらいない。
 関心が無いのだ。
 普段通りの赤い唇を品よく結んでいるだけだ。
 だから笑って見えただけだ。
 インストラクションツー、全力で殴れ。

「――だからっ!」

 身を屈め、すり足の要領でサワメグの懐まで潜り込み、左腕を振り上げる。脱力から放たれる鞭の如きのアッパーカットは、間違いなく彼女の顎を捉えた筈だった。
 だが手応えは無い。
 紙一重で躱されている。

「次は?」

 そう聞きながら、サワメグはすでに110デニールの黒タイツに包まれた右の御御足を振り上げている。パンツは恐らく白だ。
 勿論とっさに身を躱したが、蹴りの軌道が明らかに俺を狙っていなかった。

「それを聞いといて――!」

 次の瞬間、振り下ろしたサワメグの震脚で道場の床が割れ、俺は足場を失う。
 足場を失った俺と対象的に震脚の反動で飛び上がったサワメグは道場の床を踏みつけ、俺に向けてまっすぐに飛んでくる。
 咄嗟に転がっていたロッキンさんを盾にした。
 振り下ろされたサワメグの手刀は、ロッキンさんの鋼の肉体によって止められる。
 
「殺しておいてロッキンに頼るのかなぁ? 相変わらずしょっぱいねえsealくぅん!」

 インストラクションスリー、なりふり構うな。
 俺は待っていた。サワメグならば戯れにロッキンさんの死体を弄ぶと。そしてその時に返り血が出て、彼女の視界は一瞬塞がれると。
 俺は服の袖から四連装デリンジャーを取り出して、サワメグを狙う。醜くとも、これが俺の、俺だけの拳だ。命が篭もるならそれは拳だ。鋼に魂を込めることができるなら、それは俺だけの拳に他ならない!

「その名で呼ぶなああああああああ!」

 ――大澤死すべし。
 運命の弾丸が真っ二つになったロッキンさんの死体の間をすり抜け、サワメグの額へと迫る。
 血液の霞に紛れた弾丸は誤つことなくサワメグの額を捉え、彼女を天から撃ち落とす。

「やったか!」
「きみは本当にやっかいだな」
「何!?」
「……うん、良い顔してたね。seal君。もう寝ようと思ってたけど、それは止めだ」
「馬鹿な……何故生きている!?」

 地に伏した筈のサワメグは俺の質問に答えることもなく、ゆっくりと立ち上がる。
 ――ああ、だが、ああ!
 ――彼女が俺を見ている!
 サワメグは両手を天に掲げ、静かに詠唱を開始した。
 今日はどうやら彼女の全力を見ることができそうだ。

「ああ、すべてを焼いて、すべての不純なものを憎悪の炎で焼いて焼いて焼き尽くして、汚いものなどなにもない清潔なしろい骨だけになれればいいのに」

 ――ああ、そうなったら俺は何も残らないだろうな。
 ――これで敗北は決まった。
 ――だが俺は生きている。ならば命を篭めてこれを振るおう。
 漆黒の炎を纏い、薄ら笑いを浮かべ始めたサワメグを前に、俺はもう一度デリンジャーを構えた。

(って気分にさせられた作品です)

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