07 初勝利(辛)

「第一回どうして戦闘に勝てない? 考察の会。ドンドン。パフパフー。」


「キューキュッキュッ?」



 目の前に首を傾げた、うさ公が居る。


 郷里の味はメシの友? 巨乳のUPは夜の友、ゴメンナサイ……昨日の敵は今日の友です。


 なぜかあの後から俺を敵と認識しなくなり、俺の周りで草を食んだり、シャドーボクシングをしている。



「んーまぁ良いか。それよりなぜ勝てない?」



 現状、レベルが1なので魔法攻撃が弱いのは致し方ない。では、近接攻撃はどうなんだ? あれだけ殴ったのに大してダメージを与えられていない。先程からシヤードーボクシングをしている姿を見るとうさ公はアタッカーそれも特化タイプだろう。打撃耐性でも持つているのだろうか?


 残念ながら鑑定スキルのレベルが低いので種族名とレベルしか見えない。


 あと考えられるのは、近接攻撃スキルこの場合だと【格闘】辺りのスキルを持っていない事からダメージ補正が無いのか、或いはそう言ったスキルを持っていないと本来のダメージを与えられないのかもしれない。そうなるとお手上げだ。


 いや。問題なのはそんな事では無い。


 痛いのだマジで痛いのだ、二回言う程痛いのだ。あれ? 三回言った? 痛覚設定が明らかにおかしい。なので、ステータスのその他設定から痛覚レベル設定を確認すると100%だった。マジかよ……。


 よくゲーマーで痛覚レベルが100%じゃないと、闘ってる高揚感が得られないと言う人達がいるが、自分はSだ。断じてMではない。痛いのは嫌、ヘタレで結構。0%に設定ポチっとな……むぅ、20%までしか下げられない。おのれ運営め余計なことを……。


 まあ、考察はこの位でいい。では、勝つにはどうする?


 先程の戦いで気付いた事がある。足回りが異常に軽快なのだ。【健脚】スキルの効果だと思う。これを活かせば勝てるはずだ。


 作戦計画はこうだ。先ず動きの遅いモンスターを探す、発見したら見つかり難い場所から魔法攻撃。運が良ければ【気配遮断】やコートの【認識阻害(小)】の効果で気付かれないかもしれない。


 気付かれても【健脚】を活かして逃げまわる。相手を視認、魔法を発動、発動までトータル三~四秒クールタイムは魔法なので無い。一度で一割弱減らせれば逃げまわる時間も考慮して一分程で倒せる計算だ。



「真っ向勝負するだけが戦いではないのだよ。Hit & Awayこそ戦いの基本。わっはっは!」



 うさ公が、こいつなに言ってんだ? みたいな顔で此方を見ている。気にしない、気にしたら負けだ。


 さ、さぁ、作戦を決行しよう。索敵開始。


 モンスターを探し歩いていると、先程から後ろにモンスターの気配。後ろを振り向けばうさ公が居る。



「お前、なんでついてくるんだ?」


「キュッ?」



 え、なに? 何か問題でも? といった顔で此方を見ている。



「はぁ……まあいいや、邪魔すんなよな」


「キュッキュッ!」



 旅は道連れ世は情けってね。一人よりは良いかぁ。


 っと、斜め前方に反応あり。気付かれない様にそっと近づく。


〈ワーカーアント ♂ Lv3〉デカい黒蟻だ。リアル過ぎて怖い、当然、一目散で退散。



「キュウー! キュッキュウー!」


「無理だから! あんなの相手に出来ないから。あんなのに追掛けられた上、ホールドなんかされたりしたら一生トラウマになるからねっ。無理……」



 そんな目で俺を見るな。虫は得意じゃないのだ。それに、動きが速そうだったので計画と違うからな。


 しょうがない事なんだ、人間万事塞翁が馬って事なのだ。次の相手を探しましょう。


 それから30分程探し回った結果、猪や狼は見つかれど条件に該当するモンスターを見つけられなかった。



「見つからねぇ。俺は一生レベルいちかも……」



 へたり込む俺の頭を突っつく奴がいる。



「キューウ……キュッキュッ!」



 俺の服を引っ張りながら、どうやら仕方ないからついてこいと言ってる様だ。


 なんか面倒くさくなってきていたので、うさ公が鼻をクンクンさせながら歩いている後ろをついていった。


 5分も歩いただろうか、うさ公が止まり此方を見てドヤ顔をしている。周囲の反応を確認すると前方の水溜りの辺りに幾つかの反応があるのがわかる。


 また、細心の注意を払い近づくと水色のゲロ……もとい、ゼリーがプルプルと蠢いている。王道RPG定番中の定番。『僕は悪いモンスターじゃないよ』と言う名のモンスターだ。



「あれと戦えと?」


「キュッ!」



 たしかに条件に一致している。折角、うさ公が探してくれた相手だ、ここでやらねば友の名が廃る。


 集団から外れ一匹になった〈フレイルスライム ♂♀ LV1〉を、ここを使ってとばかりにある岩陰から家政婦は見た! ばりに隠れ、光弾を放つ。



「!?」



 一割程HPが減らされたスライムはどこからか攻撃され事に驚きにょろにょろと立つ様に体を伸ばし何かを探す素振りをみせるが、こちらに気が付いた様子は無い。



「よし、作戦を続行する。次弾発射! 着弾、命中!」



 流石にスライムもこちらに気付いた様で。滑る様に移動してくる。



「思ったより速いぞ。くっ退避」



 走ってスライムと距離を取る。



「た、隊長、敵は思った以上に動きが速いです。撤退のご命令を!」


「落着け! 敵の動きは想定内だ。ここで迎撃する。各自の奮闘に期待する」


「わぁー。お、おかーさーん……」



 と、ひとり『我々に撤退の文字はない……見捨てられた義勇兵達』の芝居を並行して続ける事3分。


 13回目のライトバレットがスライムに着弾した瞬間、光に包まれスライムは消えていった。


 えっ? 魔法の回数が多い? ひとり芝居をしていたせいで三回ほど的外れな所に飛んでいってたな……。


 ともあれ



「我々の勝利だぁー!」



 膝をつき上をむ向き拳を握りしめ両手を天に翳し叫ぶ。


 こうして『infinity world』におけるセカンドバトルは勝利(辛)で幕を引いたのであった……。



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