06 ファーストバトル

「それではお気を付けて」



 衛兵さんの声をBGMに門をくぐり外に出た。


 風光明媚、のどかである。プレイヤーどころかNPCも歩いていない。街に近いせいかモンスターすら見当たらない。丁度良いので道端の岩に座って先程の遣り取りの間に聴こえた天の声について確認しておこう。


 ステ一タスのJob欄が点滅している。どうやら何かを選択できるようだ。選択できるのは天の声で聞いた2つの職業。



『詐欺師』 INT、DEX、LUKに補正が掛かり、Jobセット中はNPCに対しての親密度、信頼度に微上昇の補正が入る。


 取得条件 善人度8以上のNPCに対して、嘘八百並べたて信頼度を5以上にする。



『旅人』 VIT、INT、AGI、LUKに補正が掛り、Jobセット中はフィールド上にてHP回復上昇(小)、スタミナ減少軽減(小)、空腹度減少軽減(小)の補正が入る。


 取得条件 シークレット。



 衛兵さんはやっぱり良い人でした。



 それにしても取得した2つのJobは使える。


『詐欺師』Job名に問題があるがNPCの隠しパラメーターが上り、イベント等が発生しやすくなるのだろう。取得条件の説明文に運営の悪意が……。


『旅人』は、レアっぽいな。取得条件がシークレットになってる。大体の予想はつくけど、おそらく始めたばかりの時じゃないと取得できないJobだろう。第五陣勢が来たら検証してみるか。


 スタミナ減少軽減(小)、空腹度減少軽減(小)は、隠しパラメーターなので実際に使用してみないとなんとも言えないが有用だろう。


 Jobは『旅人』をセットだな。


 ついでにゲーム音楽の設定をonにして、自分にしか聴こえないにチエックを入れておく。



 さぁモンスターを探そう。気配察知にはなにも引っ掛からない。街からさらに5分程歩いた所で道から少し離れた場所に何にかの反応があらわれる。反応がある辺りを見ると草陰にデカいうさぎの耳が見え隠れしている。


 不意に、その耳の上に〈ラッシュラビット ♀ Lv2〉と表示されその下に青いバーも表示された。


 ノンアクティブみたいなので、唯一の攻撃スキル魔法(光)で先制攻撃を仕掛けよう。所詮は初期モンスターだ。


 魔法(光)Lv1には、ライトヒールとライトバレットがある。敵を視認してライトバレットと唱えるだけ、よくある詠唱と言うものは無く単にスキルレベルによって発動時問が決まる。


 ちなみに、声に出しても出さなくても可である。声を出せば相手に気付かれる恐れがあるので自分は声を出すつもりはない。恥ずかしいと言うのもある……。


 よし、魔法の確認は終った。


 装備はレンジャーコートを既に装備済み、恥ずかしいが背に腹はかえられないのでフールマスクも装備する。視界が狭まるかなと思ったが、着けていない時となんら変わらないのでありがたい。


 武器は持っていないので素手。若い頃は喧嘩上等だったし中高の授業で剣道と柔道はやっていた。ちなみに、部活はサッカー部だったりする。


 どうせ今の状況で高い武器を持っていても、豚に真珠、猫に小判、馬の耳に念仏にしかならないのが見えてる。


 さあ、時は満ちた。いざ出陣!


 革陰から兎が顔を出したその時をねらいライトバレット! 視界の左上に魔法発動までの時問を円が徐々に減っていく形式で表示される。


 1秒、2秒、発動!


 しかし、兎はすでに顔を草むらの中に隠し姿が見えなくなっている。


 タ、タイムラグですか……なんて、シビアなゲームなんだ。


 それでも、音もたてずに飛んでいく光の弾。兎の居ると思われる辺りに着弾。



「キュー!?」



 草に阻まれたのか、もともと威力が弱いのか? 当たったみたいだが青いバーの1割弱しか減ってない。



「よ、弱えー!」



 つい大声を出してしまった。


 大声を出した俺に気付こちらを見る兎。そう、目を血の色に変えた兎と言う名の鬼が俺を睨んでいる。


 兎は一気に飛んで来たかと思うとボディブローワンツーの後、即座にマシンガンキックを放ってくる。



「ぐふっ、あだだだだだだぁ……」



 痛い。ハンパなく痛い。涙がちょちょぎれる。


 なのにHPは雀の涙程しか減っていない。おそらくコートやマスクの防御力は今のレベル帯では高いのだろう。HP回復上昇(少)もある。


 なら、なぜここまで痛いんだ。これはあれかテーブルの角に足の小指をぶつけた時と同じ感覚なのか! 肉体的ダメージは少ないが、痛みと精神的ダメージ(大)って奴なのか! 痛みはあるが死に戻りはない。と思う……。


 一度、兎に喧嘩キックをお見舞いし距離を取る。



「よしゃぁー! うさ公かかってこいやぁー!」



 掛け声とともに壮絶な闘いの幕が切って落とされた。



 数え切れない程、何度も殴り合い、投げては蹴るを繰り返した。



 そして、俺は強い敵と書いてライバルと読む相手。そう、うさ公といつの間にか固い握手を交わしていた。



 こうして『infinity world』におけるファーストバトルはドローで幕を引いたのであった……。




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