第3話 ペンペン君、パンパンに膨らむ

皇帝ペンギンのペンペン君が自分探しの旅に失敗し、さらに自分を見失って故郷に帰ってくると、不在の間に故郷はすっかり変わり果て、家は焼け落ち、木は枯れ、道は荒れ、池は濁り、空は暗く、花は散り、草は萎れ、川辺の水車は腐り、山は崩れ、地面は乾き、町内会は解散し、デパートは移転し、ユニクロは婦人洋品専門店に代わり、銀行はATMだけになり、コンビニの営業時間は短くなっていました。


ペンペン君は嘆き、哀しみ、怒り、呻き、涙を流し、叫び、うつむき、地面を叩き、転げ回り、悪態をつき、地団駄を踏み、手当たり次第に物を投げ、ゴミ箱を蹴り、バットで校舎のガラスを割り、バイクを盗んで走り出し、アスファルトにタイヤを切りつけ、身をチープなスリルに任せ、解けない愛のパズルを抱いて、誰にも縛られたくないと思い、夜に逃げ込み、暗闇を走り抜け、大人たちをにらみ、クルマのライトにキスを投げ、車道で踊り、そして、たとえ一人でも傷ついた夢を取り戻す! そう決心しました。


その瞬間、解けなかった愛のパズルが、突然、目も開けられないほどの光を放ち、勢いよく回転し、宙に浮かび上がり、天に七色のオーロラが舞い、そよ風が吹き、大地は照らされ、森の動物たちが集まり、「テッテレー」何かが上手くいった感じの効果音がなり、司会者らしき男女が「正解!」と大声を上げながらペンペン君に駆け寄ってきました。虚を突かれ、呆然とするペンペン君。司会者の男性は続けてこう言いました。


「正解されましたので、見事、『自分』を獲得です!」


司会者の女性が「ジャーン」と自転車の空気入れを取り出し、ペンペン君のおへそにホースの先を突き刺しました。衝撃にペンペン君は「ウッ」と呻いたものの、痛みはありません。司会者の女性は「よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ」とT字のハンドルを一生懸命に上げ下げします。どんどん空気が送られて、ペンペン君はパンパンに膨らんでしまいました。女性は動きを止めません。やがてペンペン君は皮膚という皮膚のすべてが皺の一つも許されないほどに拡げられ、突っ張られ、そして完全な球体となりました。それでも女性はハンドルを押し続けます。そして、パンッッッ!!!


破裂した球体の中から、大量の紙吹雪とともに、玉のような赤ちゃんが元気よく飛び出してきました。

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おっちょこ!ちょいちょいズ @sawaccio

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