エピローグ
晴れて婚約の半年後に、十八歳の私とエーディは結婚し、私は王太子妃となった。その数か月のちに、私は最初の子を身籠った。
「あなたに似た銀の髪の男の子がいいわ」
「無事に生まれてきてくれればどちらでもいいが、きみに似た、太陽のような髪の女の子がわたしは欲しいな」
そんな事を話し合っていたら、生まれたのは、銀髪の女の子だった。
二年後には、金の髪の長男を授かった。
その三年後、王位を譲られたエーディは、リオンクールの若き王として立つ。
放浪の旅に出ていたアルベルトが戻ってきて、リオンクール王国も他の国々も、皆豊かで平和だったと、皆に雄弁に語って聞かせた。この平和を享受出来るのも全て、救世の王と王妃のおかげだと。
巫女姫はいなくなり、神託もなくなったけれど、再生した世界で生まれてきた新たな世代に、私たちは女神は今もいるのだと、女神の恵みのおかげで私たちの幸福は続いてゆくのだと教え継いでいかなければならない。勿論、ただ祈っているだけではいけない。人間がただ女神の力に頼ってばかりでは、女神はきっと人間に失望なさってしまうだろう。私たちは、幸せに生きる為に……自分も家族も町の人も、国民も世界中の人もみんなが幸せに生きる世界を、自分たちの手で紡いでいかなければならない。
エーディの治世はとても安定して、民に対し常に公正で誠実な王よと讃えられた。公務に忙しいかれに、兄のアルベルトが宰相として万全の補佐をする。
エーディは、あの恐ろしい拷問部屋のあった塔を取り壊させ、普通の牢屋に建て替えさせた。元々、平和なリオンクールには不似合いなもので、厄災が起こるまで殆ど使われていなかったらしい。私たちは、気が付かないうちに色々と魔女から意識操作をされていたようだった。
そして月日は流れる。
私は家族や親しい人と、バルコニーからの眺めの良い上階の部屋にいた。
「痛ってえ、ゼフィールさま、いくら木剣だからって、本気で叩かないで下さいよ!」
「なんだい、弱すぎるぞ、グレン! 騎士団長の癖に!」
「勘弁して下さいよ~、遊びのお相手なら、後でボードゲームでも……がっ、いてぇ!」
「こら、ゼフィール、室内で暴れるんじゃない」
三歳の長男ゼフィールがグレンと遊んでいる。エーディが調子に乗っている長男を窘める。
「陛下~、ゼフィールさま、御年の割にすごい力強いですよ~」
「グレンが弱いんだろ!」
「ゼフィール、グレンは本気になったらとても強いのよ。もう少し大きくなったら、きちんと稽古をつけてもらうといいわ」
生まれたばかりの次女をあやしながら私も長男を諭す。誰に似たのか、長男はとてもやんちゃだ。
「グレン、おまえもいい加減家庭を持ったらどうなんだ? そうすれば子どものあしらい方も解るだろう」
「いやぁ~いいひとがいたらですねぇ~」
「あら、騎士団長はたくさんの宮廷美女から狙われてるって噂を聞いたわよ? いないの?」
「お二人のような完璧なご夫妻を間近で見てると、中々決められなくて、もう少し独身を楽しんでもいいかなと……だっ、いてぇ!」
「後ろからは卑怯よ、ゼフィール!」
と長女が弟を叱る。勿論グレンは子どもが後ろから狙ってきているのくらい判っていたのだけど。
「おいで、マーリア。夕陽がとても美しい」
エーディの呼び声に、私は次女を抱いてバルコニーに出る。暖かないろの光に包まれた街が、空が、世界が、本当にとても美しい。
「ああ……なんて美しいの」
と私は呟く。
「きみが再生させた世界が」
「陛下が護った世界が」
と、私たちは同時に言い、顔を見合わせて笑った。
リオンクールの風は、今日も柔らかく吹いている。
作者なのに悪役令嬢に転生しました 青峰輝楽 @kira2016
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