9-2

 三日掛けてサウスタークを南下し、ミッドガルドへ入った。

 目的の場所に辿り着いたのは真夜中だった。森の中、川に流れる水の音が聞こえる。風はなく、ただ寒いだけの何もない夜だった。

「ローゼンベルク修道院から西、ソリトール川にある四本柳の下」

 エリオットは言った。

「よく覚えていたな」とアンナ。「デイジーの苗字は忘れたのに」

「たまたまだよ」

 二人の前にはソリトール川の四本柳があった。枝が川に向かって垂れ下がっている。

「トマスが見つけた隠し通路は、あの柳の下だ」

 野営地でトマスとコリーンを見つけたときだ。トマスはここにローゼンベルク修道院の地下へ繋がる隠し通路があること言っていた。

「あのデブも役立つな」

 アンナは川辺へ降りて、根本に近づく。

「言うほどデブでもなかったろ」

 エリオットも続いて根本へ。

「じゃ痩せてるか?」

「なんでいつも極論なんだよ。このままだとあんたの世界じゃ痩せとデブしかいないぞ。そこまでデブじゃないふくよかな奴だっている」

「やけにトマスの肩を持つな」

「なんかそういう言い方されると腑に落ちないな。そんなつもりはない」

 根本に切れ目のような穴があった。子供か細身の女性ならば入れそうだった。

「広げるぞ」

「俺には左手がない」

「今回だけだ。次は右手を訓練してこい」

 アンナが両手で穴を掘り、広げる。

「初めてじゃないか。あんたが地面を掘るの」

「埋めるぞ」

 エリオットを睨んでアンナが言った。

「心から感謝してます」

「あと百万回繰り返せ。それが終わったら黙って待ってろ」

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