第3話 苦闘の腹治療

「うっ、吐きそう……」


魔法陣から少女が落ちてから少し経ってからのこと。

俺の腹に少女が落ちてきたせいで内臓が潰れたんじゃないだろうかと思ったほどだ。

痛みはまだ引いてはいないがなんとか喋れるまでにはなった。


「さっきのおでんの人、大丈夫?」

「お、おでん?」


なんだろう、嬉しいような嬉しくないような微妙な感じだ。

初めて聞いたぞ。おでんの人って。


「お腹、大丈夫?」


少女が俺の腹を心配したのか俺の腹を撫でたが、それは俺にとってはとても耐えられなかった。


「いったぁ! 触るな、マジで触るな」


体を少しでも動かそうとすると激痛が走るのに撫でられると馬鹿みたいに痛い。

悪気は無かったと思うからいいけど。悪気があったら絶対に許さん。


「おの、その……」


少女が何か言いたそうな顔をしているが顔を真っ赤にして「その……」から口を全く動かさない。コミ障だこれ。

俺も何か声をかけてあげたいが腹が痛いので喋りたくない。


「なんで『コネクト』が使えたん……ですか」


急に喋り出したかと思えば答えるに苦労しそうな質問だった。

なんで『コネクト』が使えたかって俺が一番知りたいぐらいだ。


「知らねぇよ。俺だって、いてててて!」


腹がまた痛み始めた。


「い、今すぐ、家で、治療するから……」


家で治療か。でもこの付近に家がないって事は多分『コネクト』でどっかの家に行くんだな。

多分『コネクト』は別な場所同士を繋げる何かだ。

そんな考察を立てていたら少女は横に手を上げていた。


「『コネクト』」


少女がそう唱えると上げていた手の先に魔法陣が出現した。


「ちょっと、だけ、引っ張るけど、我慢、して」

「え、引っ張る? マジでやめて、いやガチで」


そんな言葉を無視して少女は俺の両足を掴み引っ張って魔法陣の中に入っていく。

当然ながら俺の腹は悲鳴を上げている。


「まって、まって! 優しく、もっと優しく! いやぁァァァァァァ!」



うん、死ねた。

魔法陣を通り向けた後屋根がちゃんと付いている家の中にいた。


「ちょと、待ってて」


そう言ってどこかに行ってしまった。

はあ、今日は災難だな。知らない場所に飛ばされたら、少女が腹に落ちてくるんだからな。人生はなにがあるか分からないな。


「もう一回、やってみようかな」


さっき、『コネクト』が出来たのでもう一回やってみる事にした。腕をあげる力は残ってないので、そのまま詠唱する事に。


「『コネクト』!」


何も起こらない。

なんでだ? さっきは普通に使えたのになんで今は使えないんだ? 魔力切れとかなのかな。

そんなことより早く腹を直して欲しい。


「こっち、こっち」

「なんだい、怪我人がいるって。お前さんの魔法じゃ怪我人は出ないなず……」


30代後半の女性が何か喋りながらこっちに来たが倒れている俺を見て黙ってしまった。

なに、俺の怪我って相当やばい奴? これでやばい奴じゃ無かったらおかしいけど。


「これ、あんたがやったの?」

「うんん、違う。あの人が突然『コネクト』を使って、発動させた場所が悪くてああなった。でも、こっちの世界に戻れたからいいでしょ?」

「これを見ていいわけないでしょうか。早く治療しないと」


そういうと30代後半の人は俺に近づき腹の

怪我を見た。

結構深刻そうな顔をした。


「あーあ、こりゃ酷い。まさかお前がここまで体重が重いとは思わなかった」

「う、嘘……私、そこまで、重く……ない……」


重いと言われて少女はションボリとしてしまった。


「さてと、じゃあさっさと治しますか」


腹に手を当てた。


「ウグゥ! くぅ、くぅぅぅぅぅ……」


あまりにもの痛みのせいで声が出せない。こんな痛みは人生で初めてだ。


「力抜いて抜いて。力抜かないと傷が痛むぞ。落ち着いて、深呼吸。スーハー、スーハー」

「スゥゥゥゥウウウウ……。あ、ああ……」


深呼吸するだけで腹が痛むのはヤバイとレベルを超えている。落ち着ことすら出来ない。


「あー、こりゃ重傷だな。これは大変だぁ」

「治せるの?」

「治るさ。ちょっと時間がかかるけどな」

「なら、良かった。じゃあ始めて」

「はいよ。『サナーレ』」


彼女の手が緑色に光りだす。

少しずつではあるが腹の痛みが癒えていく。


「はあ、はあ、はあ」


ようやく呼吸がまともにできるようになったきた。

本当に辛かった。もうあんな思いはしたくない。



治療を始めてから10分が経った。

どうやら腹の傷は完全に治ったらしい。

体もようやく起こすことができ、周りを確認できるようになった。

簡単に言えば中世ヨーロッパの建物の中にいる。内装だけしか知らないので言い切ることは出来ないけど。


「どうだ、体の状態はどうだ」

「良くも悪くもない」

「悪くなければいいや」


そんな会話をしていたら少女がこちらに近づいて突然こう言った。


「王戦の為に強くなって」


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